いつか来る未来へ

――――アナグラに、赤ちゃんが来ました



任務も落ち着く、夕暮れのフェンリル極東支部。そのエントランスには、普段には珍しく楽しそうにはしゃぐ声が響いていた。
周囲からも、微笑ましい温かな眼差しを浮かべている。その視線が集まる先には、エントランス内に設置された共有のソファーと机を囲み額を寄せる神機使い――――極東主戦力の第一部隊の面々。
彼らの表情は一様に頬を緩め、笑みがこぼれている。

「可愛い~」
「ほっぺ柔らか~い」

キャッキャとはしゃぐ、とアリサ。二人に挟まれソファーに腰掛けているのは、育児休暇中な同部隊のサクヤである。そしてその腕には、無事出産したと皆から祝福された赤ん坊が抱かれていた。
生まれてから日も経ち、サクヤ自身も退院して落ち着いた今、彼女はお披露目に連れて来てくれたのである。
初めて見たサクヤの赤ん坊は、全然小さく、頼りなくて、首も座っていなくて。ふくふくしたほっぺは赤く、丸い手が産衣の中でぱたぱた揺れている。真ん丸の目は、きょろきょろとしているが、目が合えばにっこり笑った。

何この天使。

この数十分で、とアリサはものの見事に陥落し、デレデレに可愛がっていた。
彼女らの隣には、第一部隊長のイサギ、コウタ、ソーマという男性陣も居り、彼らもまたいつになく表情を緩めていた。あのソーマも、だ。
(ちなみにサクヤの旦那の彼は、可哀相な事に特別任務中)

「やっぱりサクヤに似て美人ね~」
「ふふ、そうでしょ?」
「え、今から分かるもんなの……?」

コウタが馬鹿正直に呟けば、「フィーリングですよ」とアリサから叱られた。

「ね、皆で抱いてあげてくれない?」
「え、良いの?」

はぱっと表情を明るく咲かせた。サクヤはそれを見て、母親の美しさを湛えた笑みをこぼす。

「勿論よ、生まれたら皆に抱いて貰おうって、リンドウとも決めてたもの」

サクヤが告げた瞬間、我こそはと一番に名乗り出るコウタが居たのだが。
それより早く、イサギの腕が勢いよく上がった。普段静かな面持ちのわりに、その速さに全員がギョッとなる。

「リーダー、早いです……」
「え、ずりぃ! 俺、俺! 俺も抱っこする!」
「順番だ、並べ。リーダー権限だ」
「権限の使い方間違ってんぞ」

ぶぅたれるアリサとコウタに向かい、ビッと親指を背に向け毅然とした態度を見せるイサギだが、言葉は冷静なわりに一番手を譲らないつもりらしい。ソーマにつっこまれても動かないのだから、そこまでか、とは笑ってしまった。

「ふふ、じゃあリーダーからね。腕を出してみて」
「あ、ああ」
「大丈夫、大丈夫。ほら、腕はこうして……腕輪がついてない方に頭を……そうそう、上手」

緊張するイサギの腕を、が隣へ立って導く。サクヤの腕からイサギの腕へと移動する赤ん坊が、ふわりと乗せられた時、イサギの口からは上擦った奇妙な悲鳴が漏れた。落とさないよう注意する彼の腕は震えているものの、不器用げに抱える姿は中々様になっている。
その腕が一度神機を奮えば、荒ぶる神々は地に伏せざるを得ないほどの力を発揮する、アナグラ最強のゴッドイーター。多くの任務と事件を乗り越え、仲間を先導してきた、若き中尉。
だというのに、今じゃあ、全くの形無しだ。アラガミよりも、赤ん坊の方がおっかないらしい。表情がガチガチに緊張していて、指先が震えている。

「……結構、重いんだな。それに温かい。柔らかいし、何か怖い」

珍しそうに赤ん坊を見下ろす彼の目は、なんだか兄弟の子を抱いたおじさんのそれにも近い。
そんなイサギの両脇を、コウタとアリサが挟み込み、赤ん坊を見下ろす。わくわく、と肩を弾ませ自らの順番を待っているようだった。

「イサギ、次は俺。俺ね」
「……コウタか。絶対落とすな、落とすなよ、死んでも落とすな」
「落とさねえし! あと死なないから!」

とは言っても、何せコウタなのだから危なっかしく、手を添えても妙にハラハラとさせてくる。
いいか、絶対落とすな。落とさないってば、どんだけ信用ないんだよ。イサギとコウタの繰り広げるその会話と光景も微笑ましいのか、サクヤは楽しそうに笑っているが。

「おーすげぇ……ほら、ソーマも抱いてみろよ!」
「……別に」
「て、言いながらもちゃんと来るよね」

素直じゃないなあ、とが呟くと、ソーマの目がじとりと細められる。しかしそれも当の昔に慣れている為、軽く受け流してソーマの腕を掴んだ。
隣でアリサが「私も抱きたいですー」と飛び跳ねているが、後でと言い聞かせてソーマにレクチャーする。

「はい、腕はこうね。優しく……腕輪の無い方に頭を向けて……」
「な、おい……ッ!」
「ほいソーマ」
「ばッお前、玩具渡すみたいに……!」

コウタとソーマの間で、イサギが中腰で腕を伸ばしている。万が一落ちた時の、ネット役だろうか。彼、一見するとクールに見えるのに、やる事が大概面白い。
そんなイサギの心配は杞憂となり、ソーマの腕へと赤ん坊は無事に抱かれた。さすがのソーマも、酷く緊張して顔が強張り、恐る恐る腕を引く。

「おお、上手、上手。赤ちゃん抱く姿も様になってるよ、ソーマパパ?」
「ッ! う、うるせえ……ッ」
「ぶはッ! さん、ソ、ソーマパパって! ひ、あはははは!」

途端に、ゲラゲラと笑いこけるコウタ。後でおっかないだろうが、も思わず笑ってしまう。
似合う似合わないではなく、此処が人類の存亡をかけた戦場の最前線であるのに。あまりにも優しくて平和な風景が広がっているものだから。
ゴッドイーター……神を喰う者となれば、その手が掴むは生体兵器。踏むは血溜まり。抱くは亡骸。いつか辿る末路は、今しがた殺したばかりの荒ぶる神、その姿。一枚岩ではない、厄介な組織に身を置く以上はも同僚たちも等しく危険に晒されている。
喰い尽くされようとしている終末世界で、見据えるものはきっと残酷なものばかりなのだろうけれど。
生まれてくる命もあると思うと、何だか不思議な気分になった。

それにしても……意外に赤ん坊を抱く姿が様になる、第一部隊の男性陣。今まで考えた事が無かったが、将来もしかしたらこの中から家庭を持つ者も現れるかもしれないと、は眺めていた。リンドウとサクヤのように、職場結婚して、小さくてささやかだけどアナグラで式を挙げ、皆に祝われて……そんな日が来るのだとしたら、も楽しみだ。

「ソーマ、次は私、私が抱っこします!」
「……落とすなよ、絶対落とすなよ」
「もう、落としませんよ!」

イサギみたいな事言ってる、とは小さく吹き出す。
ようやく抱っこ出来たのが嬉しいのか、アリサはニコニコと満面の笑みを咲かせている。それにやはり女の子だからか、その目は憧れや、或いは母性に近い柔らかさが宿っていた。

「わあ、赤ちゃんって温かいんですね……それに、ふわふわしてる」
「ふふ、アリサもいつか自分の赤ちゃんを抱く日が来るわよ」
「自分の赤ちゃんですか……あんまり、想像付かないですけど、でも、可愛いです」

くすぐったそうに笑うアリサが、とても可愛らしく。はサクヤと顔を見合わせ、クスリと微笑む。
……と、和やかな空気になっていたのだけれど。
あぶあぶ言ってご機嫌だった赤ん坊が、次第に丸い頬を歪めてゆく。真ん丸の目も、次第にじんわりと滲み出した。

「……ねえ、赤ちゃん泣きそうなんだけど」
「おいコウタ」
「シーッ、コウタ、それは言うな。言うと大体、」

泣き出す、とイサギが呟くと。
案の定、アリサの腕の中で赤ん坊が蓋を飛ばしたように泣き出した。それも、その小さな身体の何処にそんな肺活量があるのだというような、威勢の良い泣き声を。
別の意味でエントランスの空気を賑やかに引き裂く声に、全員が目を見開く。

「わー! 泣き出した!」
「おいアリサ、あやせ! 全力で!」
「え、えェェェー! あ、あ、あやせって言っても、ど、どうすれば……?!」

なんて言ってる間に、赤ん坊はさらにヒートアップ。懸命に泣きやませようと画策する一同の方が、泣きそうな顔をしていた。
ワタワタする面々の中へ、は笑いながらトコトコと歩み寄る。どうしようどうしよう、と慌てふためくアリサの腕から、ヒョイッと赤ん坊を抱えた。

「よーしよーし、ママのところへ戻ろうねー」

とん、とん。とん、とん。
ゆっくりと撫でる手に合わせ、揺り篭のように腕が揺れる。
ぴゃぁぁぁ、とあれだけ元気よく泣いていた声が徐々に治まり、ぐずる程度にまで落ち着いていった。その光景を、一同は奇跡を目の当たりにしたような面持ちで見つめる。
はそのまま、えぐえぐと声を漏らす赤ん坊を母親であるサクヤのもとへと帰し、ふうっと息を吐いた。任務完了、という表情だ。

さん、すげえ……」
「奇跡を見た気分だ……」
「……私の時に泣き出さなくったって……」

約一名、すっかりしょげてしまった人物が居るが、はいやいやと首を振り笑う。

「まあ、赤ちゃんなんてそんなものだよ。それにそろそろ、お腹減ったりしてるのかな。それともおむつ?」
「そうねえ、おむつは平気だけど、ちょっと休憩しようかしら。それにしても、は赤ちゃんの扱いが上手いのね。前々から子どもの扱いが上手いとは思っていたけれど」

すっかり泣き止んだ赤ん坊を胸に抱いて、サクヤは告げた。前々、というのはシオの件を含めているのだろう。

「上手いっていうか、慣れだと思う。ほら、私ここに来るまでは外部居住区に居たんだけど、子どもがたくさん集まる場所だったから」
「ああ、孤児院みたいなところで暮らしてたって、言ってたわね」
「そうそう。孤児院っていうほど大それたものじゃないけど、色んな子が集まってて」

でもさすがに、首がすわってない子は初めて抱いたよ。はほくほくと笑って、赤ん坊の頬を指先でくすぐる。ふわふわ、ふにふにの、無垢な感触がする。

「それじゃあ、私は部屋で少し休んでるわね。貴方たちも、そろそろ食堂で夕飯じゃない?」
「あ、そうだね。もうそんな時間」
「サクヤさん、また後で行きますね」

一同に見送られ、サクヤは区画移動用エレベーターに乗った。
その後、たちは、ミーティングがてら第一部隊全員で夕飯を囲む事を決めて、自由時間となった。




「――――はあ、赤ちゃん可愛かったなぁ~……」

夕食を取りにやってくるゴッドイーターたちが増えつつある、アナグラの食堂。
もう何回目になるか分からない呟きを漏らすのは、アリサである。
比較的美味しいと評価の高いプリンを、スプーンで掬い口に運ぶが、思いを馳せるのは赤ん坊――天使である。
アリサの正面に座るは、すっかり陥落した彼女の表情を見て、苦笑いをこぼす。手元の紅茶を口元へ運び、ゆっくりと飲み下した。

「すっかり虜、て感じだな」
「そうみたい、でも可愛かったしね実際」

ふわふわのぽかぽか、とも口元を緩める。左隣へ腰掛けているイサギも、「気持ちは分かるが」と珍しく笑みが明るい。

「明日の任務、支障が出ない程度には浮かれてて良いと思う」
「おい、それで良いのかリーダー」
「ソーマにも言ってるんだぞ、これは」

ニヤ、とイサギの口元が意地悪げにつり上がる。ソーマは言い詰まり、眉を寄せた。
実際、あの仏頂面のソーマも表情を緩めていたのだから、赤ちゃん効果は絶大である。

「そういえば、コウタが居ませんね」
「アリサが赤ちゃんに思いを馳せてる間に、バガラリーを観に部屋に戻ったよ」
「あれ、そうでしたっけ」
「もう……」
「ふふ、でも本当、可愛かったなあ~」

……この調子なものだから。
はくすくすと笑う。アリサにとっては、サクヤはもう無くてはならない姉のような存在だろうし、家族が出来た心境なのかもしれない。

「お、第一部隊、何かご機嫌じゃないか。どうした」

不意に、頭上で響く男性の声。辿るように顔を上げて肩越しに振り返る。
赤いジャケットを羽織る黒髪の男性――第二部隊長のタツミが、丁度の真後ろに佇んでおり、彼がまず視界へ映った。そしてその背後には、カレルとジーナがおり、何だか面白い組み合わせだと見比べた。

「あれ、何だか珍しい組み合わせね。タツミさん」
「ああ、今日は合同任務でな。ついでだから一緒に飯を食っちまおうって話をしてたんだ」
「別に、俺は頷いた訳じゃないけどな……」

と、空気を濁すようにカレルの気だるい声が呟かれる。が、タツミはバシバシ背中を叩くと笑い飛ばして、ジーナは涼やかな笑みを浮かべた。

「堅い事言うな、ゴッドイーター同士の絆も深めようぜ!」
「暑苦しい」
「あら、そんなに嫌ではないでしょう?」

二人の笑みを浴び、カレルは鬱陶しそうに金色の髪の毛先を払い、腕を組んだ。けれどその仕草は、照れ隠しにも近い事をも感じ取っていた。
「で、何の話してたんだ?」タツミは背を屈め、とイサギの間に顔をねじ込んだ。

「サクヤさんが、生まれた赤ちゃんを連れて来たんだ」
「え、そうなのか? 俺知らなかった」
「ついさっきだものね、今は部屋で休憩中。で、うちのアリサ嬢は赤ちゃんを抱いてから、あんな感じ」

がチラリと視線を流せば、タツミたちも見て、そして納得したような苦笑いをこぼした。

「そう……こないだ、生まれたっていう話に皆で大賑わいだったものね。私も、後で少し顔を見せて貰おうかしら」
「うん、是非そうして、ジーナちゃん」

そう話し込んでいると、会話が弾んできて、タツミたちは自然になどが座る机へと腰を下ろした。
、ジーナ、アリサは赤ちゃんについて和やかに談笑しており、その隣の男性陣は彼女たちの様子に笑みをこぼした。

「賑やかで良いな、イサギ」
「ああ……いや、実際サクヤさんの赤ちゃんは可愛かった」

ふわふわのぽかぽかで、マジ怖かった。イサギはタツミへそう言ったが、普段大人びている第一部隊長の面持ちが綻んでおり、彼もはしゃいでいるのがタツミも分かった。

「ぶッお前その顔でガキなんか抱いてたのか」
「良いだろう、リーダー特権で一番手に抱いてやったぜ」
「リーダー権限の使い方間違ってるぞ、何だそのドヤ顔」

斜に構えるカレルの言葉も、イサギは気にした様子はない。

「じゃ、アンタも抱いたのか」

アンタ――それが指すのは、ソーマである。フードを外すようになり、照明のもとに現れる褐色の肌の青年の顔を、カレルは見た。ソーマは多く反応せず一言だけ「ああ」と告げてアイスコーヒーを飲む。

素っ気ない、味気ないやり取り。だがイサギはそれをこっそりと眺め、胸の内で安堵する。きっとタツミもそうだろう。
かつて、ソーマは他者を寄りつかせず孤独を貫いていて、カレルはそんな彼の事を【死神】と蔑んだ。今も記憶に残っている、彼らの険悪な空気。
先のエイジスの事件、リンドウの復職……大きな出来事を二つ経て、彼らはようやく人並みに言葉を交わすようになった。それはいつの間にか起きていた事で、周囲も困惑したほどであったが。
だがそれは、イサギやタツミからすればまだまだ足りず、改善の余地があるところだ。彼らが特別な、何らかの謝罪なり歩み寄りなどの明確な意志疎通をした訳ではない事は分かっている。二人の事だ、今更急に親しくなるのも気持ち悪いとでも思っているのだろう、そこをつつくのが仕事だと思っている節もあるイサギには、今はそれだけでも十分な出来とも言える。

それを彼らに伝えれば激昂する事くらい分かっているので、今も言葉にはならず胸の内に留まる。

「カレルも抱かせて貰ってくればいい。可愛いぞ、赤ちゃん」
「……ガキは、苦手だ。特にそんな小さい奴なんて、扱いがな……サクヤさんには挨拶くらいするが」
「あーお前そんな感じだしな。でも案外、小さい女の子から人気がありそうなタイプだぞ」

クク、と肩を揺らしタツミは告げた。彼の言葉に、カレルは「何だそれ」と呟き、深く椅子の背もたれへ寄りかかった。

「まあ、アラガミと戦う事が常な世界だけど、こういう話題もたまには良いな」

イサギは告げ、カップを持ち上げ口を付ける。



「あー可愛かったなあ……」
「もうアリサ、そればっかり」
「ふふ、本当ね」
「だってー……ジーナさんだって見ればきっと分かりますよ!」

はあ、と溜め息をつき、そしてうふふと笑う。……天使の効果は、本当に凄まじい。は頬杖をついた。近くから椅子を引っ張り腰をかけるジーナは、笑みを絶やさない。

「アナグラの中で、誰かくっついてくれないかなあ」
「ブッ……何それ、アリサ」

唐突にアリサがそう呟くものだから、は思わず吹き出してしまった。が、アリサ本人はそんなの様子はあまり眼中にないのか「そうだ!」と両手を合わせて。


「――――さん、誰かと職場結婚して下さいよ!」


ブ ハ ッ ! !


和やかな空気に、複数の空気を吹き出す音が響く。
名を出されたは、含まれているとして。他は誰かと彼女が視線を横へ向けると、激しく肩を上下させ咳込むイサギとソーマとカレルが隣に居た。タツミは、笑い声を懸命にこらえているのか、面白い顔をしていた。
はて、どうしたのか、と思ったが。はアリサへ視線を戻すと、何言ってるのと肩を竦める。音を立て、カップをソーサーへ置く。

「なあに、いきなり」
「そして私に、赤ちゃんを抱っこさせて下さい!」
「それが本音か」
「だってさんの赤ちゃんも抱っこしたいですー!」

アリサは言うや、ガバッと机へ突っ伏す。全くこの子は、とは呆れたが、ジーナは逆に面白そうに肩を震わせている。

「ふふ、それは素敵ね」
「もう、ジーナちゃんまで」
「あら、でもなら、良いお母さんになりそうだわ」

ですよね、とアリサはジーナへ輝かしい瞳を向ける。

さん、お姉さんっていうかお姉ちゃんって感じですけど、絶対に可愛いお母さんになります! 私が言うんですから間違いないです」
「何よその自信」
「だからさん、職場結婚しましょう。誰でも良いですよ」

よくはないと思うけどなあ。は苦笑いを浮かべ、肩を竦める。

「ほら、そこにも、まあまあ良い婿候補が四人も……」

アリサが指し示す先には、イサギ、ソーマ、カレル、タツミの姿が。
は辿るように視線を向けると、妙に咳込む男性陣の姿がそこにあった。タツミについては、必死に笑いを耐えているようであるが。
まあまあって……そんな眼前でこけ下ろさなくても。
のそんな笑みなどさておいて、アリサは「どうですか」と身を乗り出す。

「どうって…?」
さんの旦那候補としては、どうですか」
「またもーこの子は。飲み会のノリになっちゃってる」

あはは、とは冗談混じりに笑った。その時、タツミを除く男性陣が耳をそば立てていた事に、は気づかないだろう。

「まあ、さっき確かにイサギやソーマが抱いて、中々様になってたけどね。この中から誰か家庭を持つかなーとは思ったけど、それは私じゃないよ」
「えー」
「もう、私相手じゃ可愛そうでしょう。
イサギなんて、若いのに部隊長だから色んな女の子からモテそうだし、ソーマは案外家庭を大事にしてくれるだろうし、カレルはああ見えて適当な振る舞いはしないし、タツミさんは子煩悩な感じになりそうだし。
うん、みんな素敵なお父さんになりそうだけど、その相手が私限定っていうのは可愛そうよ」

と諭してみたが、アリサは頬をむくれさせて「そんな事ないです」と告げた。

「私が男だったら、絶対さんと結婚したいです」
「ブッ……はは、ありがとうね」
「む、本当ですよ?」

は楽しそうに笑い、アリサの可愛らしいお願い事を受け流していた。
それをジーナは眺め、そしてチラリと男性陣を横目に盗み見る。
急に無言になったイサギとソーマとカレルの間で、ぶつかり合う静かな眼差しが激しい火花を散らしているようにも見えた。何を思っているのかはジーナにも予想がついて、むしろこっちの男どもの反応の方が面白いわと微笑んだ。

「だからさん、職場結婚して赤ちゃん生んで下さい。私が一番に抱っこしますから」
「アリサが料理出来るようになってから考えるよ。そうね、クッキーがレンジごと爆発しないで綺麗に焼けるようになってからかな」
「……それずるいです」

じゃあ当分先じゃないですかあ……。アリサが、情けなく声を漏らすと。
その時耐えかねたように、タツミが吹き出して笑い声を響かせた。
お前ら何つー顔してんだよ、と涙を浮かべる第二部隊長の視線の先では、どんな光景があったのか定かでない。



漫画よりネタ。
あの男性陣が赤ちゃん抱く光景を思ったら、カッとなったので。

彼らがどんな顔をしていたのかは、想像にお任せ。

2013.08.10