精霊の声を持った兵器について

――――― 初めに、これはあくまでも私の個人的研究であり、その過程で得た仮説と結果であるという事を、最初に明記する。
世界に挑む訳ではない、消え去った歴史に挑む訳ではない。だが、私が没頭した研究であるという熱意だけは、違えないで貰いたい事も、付け加える。


モンスターという、この世界を占める動物。
その片隅で生きる、我々人間。
現在のこの当然の風景に、一体どれだけの人が違和感を抱くのだろう。
無論、抱くものなど居ないかもしれない。だが私は、極少数な内の人間であった。
切っ掛けは、一つの蔵書から始まった。ある時、大陸のあらゆる蔵書が集められる王立図書館の中でも、さらに関係者しか読む事の出来ない貴重な数々のそれらを、私は運良く一度だけ手にとって見る事が出来た。とても古く、扱いにも細心の注意が必要なそれを開いた時、私は驚愕に打ち震えたものだ。
それは、遙か過去の時に存在した文明を書き残した、蔵書であった。

そもそもこの現在の世界は、遙か昔に一つの文明が滅んだ事で生まれた。世界各地に今も残る、古代遺跡、風化しても尚奇妙な存在感を放つ異物、それらが本来の姿をもって活動していた時代《古代文明》である。
その時代に存在した技術は、今も解明はされていない。大陸の有数な学者や科学者が集まっても尚、不透明な部分が明らかに多く、読みとる事すら至難の業だ。古代文明を解き明かす事は、科学者たちの永遠の願いであり、かくいう私も確かに存在していた古代文明は胸躍らす事実だ。

偶然にも目を通した蔵書の、記述されていた内容……。
私は、大層驚いた。古代文明では、何と、命を生み出す技術があったのだ。
噂では聞いていたが……本当に、崇高なる生命を人為的に生み出す力があったとは。
私はそれから、古代文明について個人的な研究を始めた。

まずは手始めに、集められる限り資料と友人などから情報を得た。古代文明にあった命を生み出す力……それは、ある兵器を生み出し、そしてそれこそが古代文明を滅ぼす要因になったと言う。
竜機兵《イコール・ドラゴン・ウェポン》。
とある古代遺跡の中から実際に見つかったとされるが、今は活動を停止し、そして現代の研究者たちが再び活動を再開させる技術もなく、この兵器は眠ったままである。
古代文明の人々は、この兵器を生み出したとされているらしい。恐ろしい事に、この兵器は成熟した竜の素材を三十頭以上も要し、その大きさたるや老山龍ほどもあったとされる。竜機兵はモンスターを多く焼き尽くし、人間の力は自然の力をも超越しようとしていた。この時その技術は頂点に達し、私利私欲のもと多くの竜を乱獲していき、祖先であるワイバーンレックスなどの原始のものたちは数多く姿を消した。だが其処で、ついに刈り取られるばかりであったモンスターたちが、人間に牙を向き抗った。竜機兵とモンスターの争いは激化し、両者が疲弊し滅んだところで終結したという。

天変地異ともいえる、激しい大戦。
《竜大戦時代》と名付けられた、栄華を極めた古代文明の末路であり、戦いの中でそのほとんどを失った。

この辺りは、学者なら皆知っているところだろう。もちろんこの説を、そもそも信用しないものも居るが。
ただ、この時代で数多くの竜機兵を葬ってきたと噂される、世界で最も恐れられているかの古龍の存在が、あるいは真実であるのかもしれない。竜機兵を生み出した、栄華を極めたシュレイド王国を滅ぼしたかの古龍は……いや、これ以上は語るのは止そう。ギルドより言及されたくはない。

話は逸れたが、私はそうして古代文明の一片に触れていった。
そんなある時、奇妙な資料を手に入れた。近所に住まう竜人族の老婆が、私が文明の研究を個人的に行っていると聞いて、一つの蔵書を持ってきてくれたのだ。
彼女は私へ手渡す時に言った、古代文明にはもう一つの兵器が存在していた、と。
意味深な言葉であったが、彼女の実家で古くから大切に保管されてきたという蔵書を読み、私はその意味を知った。
竜機兵を生み出す造竜技術が発達していく傍らで、なんと、別の兵器が作られていたという。
それは人間と同じ姿をし、肉体の作りも外見も、全て等しくあった。だが、ある部分で突出した極めて不可思議な能力を与えられていたそうだ。

――――― 言葉無き、モンスターと意志を交わす力。

彼らがどのように生み出されたのか、そしてどのような目的で利用されたのか、細やかな部分については記述が無かった。だが、竜大戦時代に彼らは戦火に巻かれながら逃げ出したという。
老婆には蔵書の内容を写させてもらい、丁重に返し、それから私は隠された兵器の研究を繰り返した。それに関わる蔵書はないものかと探してみたものの、どれも不明瞭で読めるものではなく、また時にはお伽噺が集まったりもした。モンスターと言葉を交わす人間の、悲しくも温かい物語。ある時は獣と共に死に、またある時は竜と恋に落ち。
研究は言うまでもなく低迷したものの、私は資料とはいえぬ数々の蔵書と、老婆の実家に伝わるあの蔵書の内容を比べ、これらがどれも真実にほど遠く見え、けれどとても近い場所にあるのではないかと思った。

モンスターと言葉を交わす人間に酷似した人工生物が、兵器であるというのならば。
その目的は恐らく、竜機兵を生み出す為の素体を集める事だろう。惑わし、引きつけ、捕獲する。それは容易に想像がついた。
であれば、“戦火に巻かれ逃げ出した”。この一文は、一体? 兵器であれば、あるいは最前線でモンスターの声を聞き状況を攪乱していただろう。だが、逃げ出したという事は……兵器としての役目を捨てたという事になる。
彼らは何故、その役目を捨てたのだろう。


……此処からは、私の個人的な観測だが。
彼ら、モンスターの声を聞く類稀な兵器は、感情を持っていたという。モンスターの声を聞く内に、彼らへ何かしらの情念が沸き、兵器の役目を自ら捨て去ったのではないか。
もしくは、彼らを生み出した研究者たちが、モンスターの声を通して聞く内に、彼らへ情が沸き、互いが戦いへ利用される前に逃がした。
どちらの仮説も、共通する事は ――――― 人と、人に酷似した兵器と、モンスターとが、争う事を拒んだという事だ。


どれも、私の勝手な憶測に過ぎない。
そして、この声を聞く兵器が、本当に存在していたのかどうかも定かでない。
竜人族の老婆が、見せてくれた貴重な蔵書を否定するつもりはないが、それをどれほどの人間が信じるか……。

だが私は、自身が探したこの研究を、直に触れた古代文明を、否定する事は出来ない。この研究で、世の学者に挑む訳ではないが、もしもあの蔵書が真実であれば、書きつづられるお伽噺が過去の兵器の出来事を僅かでも含んでいるのであれば。
私はそれを、思い切って信じてみようと思う。
世迷い言と、世間から切り捨てられようと。

人間の姿をしながら極めて稀な力を与えられたその兵器は、一世代で終わる事が無く交配でその力と命を連綿と引き継いでいくらしい。人間と違わぬ生を歩む事が出来るのであれば、それは既に兵器ではない。彼らは、我々と同じ人間である。
ただ、それが兵器の力とは、情緒がない。
私は彼らの力を……そう、精霊の声と例えようか。

彼らの声とは、一体どのようなものなのだろう。
我々が恐れる、獣や竜の声とは、一体どのようなものなのだろう。

……私の研究は、此処で最後にしておく。
これを他の研究者が見てどう思うかは分からない。
私が没頭した研究の資料や、文献、竜人族の老婆の秘蔵の書物の写しを残しておく。扱い方は、どうしようと構わない。世迷い言と燃やしてくれても、何の異論は無い。
だが私は、生きている内にいつか聞いてみたい。
人ならざる彼らの声を聞こうとした、精霊の声持つ祖先たちの、声を。

だが同時に、こうも思う。
彼ら精霊の血を受け継いだ者が、今この瞬間も、これから未来でも、その血を目覚めさせて現れ、声持たぬ動物たちと意思を交わしているとしたら。
願わくは、どうか平穏に、その生を謳歌して欲しい。
異人と囁かれず、兵器と蔑まれず、この世界で生きるものとして幸福であって欲しい、と―――――。



――――― とある古びた文献の冒頭より、一部抜粋。
著者、名の知らぬ研究者。
彼の情報も、古く風化し定かでない。



これに携わる資料、そしてこれを書き綴った厚い蔵書は、公にされず厳重に保管されている。
現在、研究機関やギルドでの研究対象の一つとされ、この兵器《精霊の声》の詳細を探している。



もしもモンハンに、モンスターの声を聞ける、そんな人がいたとしたら。
と、考えた結果、兵器というところに落ち着きました。
ファンタジーであるはずなのに、モンハンの世界観は極めて現実的で原始的だから、無い頭を捻ってみた結果これが一番しっくりきました。

夢主はトリップなので、これに該当するかどうかは明記しませんが。

ちなみに古代文明の竜大戦時代は、公式でボツ案かどうかは謎ですがモンハン大全に実際乗っていたのでお知恵を拝借。竜機兵もちょろっと。
シュレイド王国と古龍は……ねえ、知っている人は多くいますが、エキストラ参戦(笑)
竜大戦時代と竜機兵は、既に設定が変わっているかもしれませんのでご注意。
ですが……竜機兵と噂されるのは、3と3rd、3Gで出てきたあの古龍とか。

この話が、何かに役立つかどうかは置いといて(笑)
とりあえずそんな話を考えてみました。

2012.02.27