夢ばかり追うの

 これは、一体どういう事態なのだろうか。
 はあんぐりと口を開いて視線を逡巡させる。その困惑を察し、目の前の筆頭ランサーは苦笑いをこぼした。
 立派な体格を持つ彼にがっしりと肩を支えられ、力なく項垂れる物体――もとい、へべけれ状態の影丸。
 ぴくりとも動かない彼の頭から同様に垂れ下がった黒髪が、静けさに包まれたベルナ村の夜風にそよそよと揺れた。

「夜分にすまないな、殿」
「いいえ! 一体……こいつは……」

 が声を掛け、その顔を覗き込んでも、影丸はやはりぴくりとも動かなかった。大丈夫? 息してる? 思わずそんな不穏な心配が過ぎってしまう。

 そもそも影丸が酔っ払い状態でふらついていたり、挙句の果てに集会場のド真ん中を陣取って眠りこける姿は、情けない事に何度もあった。むしろユクモ村の集会浴場では、ある意味名物と化していたくらいだ。を含んで彼を知るものは皆、あまりにも日常的にそれを見ていたのでもう叱り付ける気力も失った。だが、そのわりに彼は酔いが覚めるのが非常に早く、数時間後にはシャキシャキ動き、翌日に二日酔いを起こす事もまったくない。そして酔っ払っていても、言葉の受け応えははっきりとしていた。
 酒に強いんだか弱いんだか分からない生態を持つ男が、これほどまでに意識が不明瞭な状態に陥る事は、かつてあっただろうか。

「ああ……状況説明はさせて貰うが、まずは彼を自宅にまで送り届けよう」
「そ、そうですね。こっちです!」

 は室内で灯していたカンテラを片手に取り、ベルナ村特有のドーム状の住居から出ると、少し先の同様の建物へランサーを誘導する。ちなみにこの住居は、ベルナ村に滞在する間の拠点として村長が貸し出してくれた空き家で、ちょうどよくたちの人数に合わせ四つ空いていたのでそれぞれが活用している。
 ランサーは苦もなく影丸を支えているが、彼は頭を起こす気配がない。足はなんとか動いているようだが、ほとんどランサーに抱えられているような状態だ。ああ、本当に情けなく申し訳ない。影丸に代わっては謝るが、ランサーは気にした様子もなく笑っていた。筆頭ハンターたちの中で、最も年長者である彼。や影丸よりもずっと年上の、落ち着いた微笑が父のよう。

「いや、むしろこちらが謝るべきなのだろうな。再会につい酒が進んでしまって、気が緩んだようだ」
「影丸だって喜んでたから良いですよ。大体、いっつもべろんべろんになってる男なんですから」

 なんて文句を言っても、今の影丸に伝わっているかどうか怪しい。

「ルーキーも、今はリーダーに抱えられて帰っているところだ。延々小言を食らっているだろうな」
「ルーキーも? よっぽど楽しかったんですねえ」

 ランサーの彫りの深い面持ちに浮かぶ苦笑いが深まったとは気付かず、は影丸にあてがわれた住居の扉を開けた。オトモアイルーたちは農場にいるのだろう、中は暗く静まり返っている。
 は歩を進めると、携えたカンテラを近くのサイドテーブルへ置いた。じんわりと照らされる住居の中を、ランサーと影丸が歩いてゆき、ベッドへと到着した。ランサーは慎重に影丸を横たえると、ほっとしたように息を吐き出す。

「本当、すみません。影丸がとんだ迷惑を」
「いや、構わないよ。それより、そちらの食事は楽しめただろうか」

 ランサーに尋ねられ、は「それはもちろん!」と大きく頷いた。
 実はも、筆頭ハンターたちとの再会を祝して食事をしていた。面子は、ミステリアスな年上の美女の筆頭ガンナーと、笑顔も性格も可愛く明るい美少女のレイリンである。影丸とリーダーたちがそうであるように、やレイリンにとっても嬉しい再会だったのだ。久方ぶりに三人集まっての女子会はとても楽しく、話が尽きず大盛り上がりしていた。普段は落ち着き払った仕草の多いガンナーも、声を出して朗らかに笑っていた。
 ユクモ村へ帰還するために抜けた、長く世話になっていたキャラバン【我らが団】も近くベルナ村に来るという話をガンナーから聞いた。彼らとも再会した時には、是非とも受付嬢と加工屋の娘も交え女子会を開きたい。そんな約束を交わす食事会は、本当に素敵な時間であった。
 声を弾ませて語るに、ランサーも嬉しそうにまなじりを緩めた。

「ガンナーも、君たちと食事だと言った時、とても嬉しそうにしていたよ。良かったらまた誘ってくれないか」
「もちろんです!」

 ちなみに、セルギスはタイミングが悪く依頼に出かけてしまっているので、明日戻ってきてからの再会となる。きっと彼も喜ぶだろう。

「影丸もはしゃいでたんです。口は悪いけど、リーダーさんの事認めているので」
「ああ、リーダーも眉間のしわを緩めていた。ルーキーなんて、言葉にするまでもなく大喜びだ」

 ランサーは朗らかに笑ったが、同時に苦笑いの仕草もそこに含まれていた。は小首を傾げ、ランサーを見上げる。

「まあ、そのおかげで彼がここまで酔い潰れてしまったわけだが……」
「え?」
「実はな……」

 ランサーはところどころを曖昧にぼかしたが、男たちだけの飲み会風景を静かに語り始めた。
 それぞれに酒が行き渡り話が盛り上がる中、筆頭ルーキーがとある事を影丸に尋ねたそうだ。だが影丸はそれに応じず、持ち前の酔いどれぶりではぐらかしかわしていたが、ルーキーは是が非でも聞き出そうとしたらしい。矢継ぎ早に酒を注ぎ足し、とにかく飲ませて吐かせようと試みた。この時点で既に影丸はべろんべろんに酔っ払っていたのだが、まだ普段通りの酔い方であったそうな。けれどルーキーがしつこく食いつくものだから影丸はキレて「そんなに聞きたいなら俺に勝ってからにすれやァ!」と一騎打ち勝負を仕掛けたらしい。

 飲み比べの。

 あとの光景は、おおよそにも想像がついた。影丸は意識が混濁するほどに酔い潰れ、ぴくりとも動けなくなり。ルーキーもおそらく影丸と勝負し、今頃リーダーの小言を食らいながら運ばれているところなのだろう。

 なんというか、まあ、これでこそ酒の席と言おうか。

「はあ……弱いんだか強いんだか分からないわねえ」
「ははは、私は良い飲みっぷりだと関心していたぞ。酒に強くはないリーダーは珍しく目を見開いて驚いていた」
「でも、それでランサーさんやリーダーさんの迷惑になってるんだからしょうがないですよ。もう」

 これは帰還したセルギスの耳に入ったなら、問答無用でお説教コース突入だろう。

「それにしても……一体、何の話をしていたんですか?」

 何かを聞き出そうとしたルーキーと、それを頑なに喋ろうとしなかった影丸。もちろん酒の席だからきっと冗談の類だと思われるが、彼らの間で何が交わされたのか。
 は呆れながら視線を下げる。カンテラの灯りに照らされたベッドの上、顔を赤らめた影丸がぴくりとも動かず仰向けに寝転がっている。瞼も持ち上がらないので、寝てしまっているかもしれない。問いかけても無意味なので、尋ねるのは明日に持ち越しだ。影丸が教えてくれるかは謎だけれど。

「私から言いたいところだが……ふふ、これを言ってしまったら、影丸の奮戦が無駄になってしまう」
「ええ? 奮戦?」
「ああ。それは見事な戦いぶりであったぞ」

 ええーこれが?
 はちらりと視線を動かす。ベッドで横たわる男からは、ハンターの風格どころか人の尊厳すらまるでない。これの何処から、見事な戦いぶりという単語が出てくるのだろう。

殿は本当に、影丸から……」
「え?」
「いや、何でもない。さて、私はそろそろお暇させて頂くとしよう」

 ランサーはそう言って、扉へ向かってゆく。はその背を見送るべく、後ろをついてゆく。

「本当にありがとうございました。こいつの面倒は私が見ますので、気にせずゆっくり休んで下さいね」
「ああ、よろしく頼む。ではまた明日。おやすみ」
「はい、おやすみなさい」

 去ってゆく大きな背中に手を振り、は扉をそっと閉めた。
 カンテラに照らされた部屋の中は静かで、影丸の息遣いが響く。一体どんな飲み方をしていたやら。

「ったく、しょうがないなあ。履き物ぐらいは脱がしておいてやろう」

 は溜め息を再度吐き出したが、その面持ちには憎からず想う心もほんのりと浮かぶ。
 眠る影丸の足下へ移動し手を伸ばす。さすがに夜までハンターの防具は着ていないので、はごく普通の履き物を難なく脱がし、ベッドの下へ丁寧に揃えて並べた。

「……んん……」

 くぐもった呻き声が聞こえた。枕元を見れば、影丸の頭が微かに揺れている。

「影丸ー? 生きてるー?」

 枕元に駆け寄り、彼の顔を見下ろす。それまで全く動かなかった瞼が、重たそうに開くところであった。
 緩慢に持ち上げられてゆく瞼の向こうで、黒い瞳がしばしぼうっと天井を見つめる。その眼差しには、普段の鋭さや悪戯を思いついた時の邪悪さなどまったくなかった。これは本当に影丸なのかと疑ってしまうほどの、幼げな仕草があった。
 はもう一度、彼の名を呼ぶ。天井をぼんやり見上げていた視線が、ようやくに定まった。

「…………?」

 掠れた声は吐息混じりで、抑揚も薄い。舌ったらずな印象も感じられ、普段の彼がまったく見当たらない。ますますこれが影丸ではない別人に思えてくる。

「うん、私。ランサーさんが運んでくれたんだよ。ったく、一体どんな飲み方してたんだか……」

 ちょっと小言が出てしまったが、影丸はやはりぼんやりとしている。恐らく耳に入っていないだろう。は溜め息をこぼしつつ、屈めていた背を戻す。

「水とか飲める? 持ってこよっか」

 は視線を逡巡させ、水瓶を探す。と、その時、くいっと衣服の裾が引かれた。体勢はそのままに顔だけを下げると、影丸の指が裾を摘まんでいた。

「影丸?」
「……ん」
「水はいらない? それとも吐きそう?」

 影丸は不明瞭な声を漏らしながら頭を振る。しかし、彼の指はの服の裾を摘まんだままである。何を示唆しているのか、さっぱり分からない。分からないが。

(……ちょっと可愛い、かも)

 その身体から放つ鋭さや厳しさ等が完全に抜け、不遜に笑う表情も今は赤らんで迫力がない。なにより獣にも負けぬ眼光を時々放つ黒い瞳は、熱に浮かされとろりと蕩けている。
 少しあどけない今の影丸の風体は、の心をくすぐった。
 あの影丸を可愛いと思わせるのだから、酒の効果とは恐ろしい。

「待ってて、水とタライを持って……」

 裾を握る影丸の指を離そうと、が手を添えた時である。影丸の指が、今度はの手首に絡まった。
 、と名を紡ぐ掠れた声と共に、一瞬動きが止まる。

「いく、な」

 酔い潰れているとは思えない力で、は手首を引っ張られた。はベッドに向かって倒れこんだが、影丸の顔ではなく胴体に軽く激突しただけだったのは幸いだ。全体重を掛けたら影丸の胃の中身がリバースされていたかもしれない。

「ちょっと、影丸?」
「ん」
「いや『ん』じゃなくて、なあに、どうしたの?」

 ベッドに両手をつき片膝を乗せ、影丸の胴体に乗り上げたような格好では視線をやる。眠たそうに瞼を瞬かせる彼は、やはりゆっくりと唇を開いた。

「……ひざ」
「はい?」
「ひざ、かしてくれ」

 は一瞬たじろぐ。膝を貸せとは、つまり膝枕をしろという事だろう。あの影丸の口から、膝枕を強請る言葉が出るなんてと、の中に動揺が広まる。
 影丸の眠たそうな目は、うつらうつらとしているくせに真っ直ぐとを見ている。その上、手首に絡まった長い指がくいっと軽く引っ張る。早く、と訴えるように。
 ……酒の力とは、本当に恐ろしい。
 普段の影丸が全く見当たらないのはそのせいなのに、心の何処かがキュンッと高鳴る。少し腹立たしい。

「膝って言っても……むしろ、膝なんてない方がよく眠れるよ」
「……だめ、か?」

 悲しそうに歪んだ瞳に、は内心で絶叫を上げた。
 あんた! 本当に! どうしちゃったの!
 酒ではなくてもっとまずい薬でも飲んでしまったのではないだろうか。屈強なハンターを陥落させるような、非常に危うい類の薬を。そうだ、そうに違いない。でなければあの影丸がここまで――――。

……」

 懇願する掠れた声に、逃避していた思考が引き戻される。心の中での絶叫は絶えず続いていたが、実際は声すら出ないほど動揺していた。
 武器を握り続け、巨大な獣や竜と戦ってきた彼の手はごつごつとして大きく、そして酷く熱い。いや、熱いのは自分もなのだろうか。
 はしばし黙りこくっていたけれど、結局、影丸(※酔っ払い状態)の悲しそうな目には勝てず、ベッドの上を四つん這いで移動する。彼の枕元にまでやって来たところで横座りをすると、すぐさま影丸の頭が乗っかった。他人の重みを感じた太股が、一瞬だけ跳ねる。
 影丸は満足そうに表情を緩め、の膝に手のひらを押し当てる。その様子は、甘える少年そのものだった。普段はあんな振る舞いをする男だが、よく考えたらの年とも近い二十代前半か半ばほど。過酷な環境で過ごしてきた事で実年齢よりもずっと大人びているが、まだ二十代なのだ。険しさや厳しさのない表情は年相応のものだと感じた。

 夜も更けた静けさが、急に強く感じられる。の中の動揺が次第に落ち着いてゆき、まさか影丸に抱くとは思わなかった母性が息づいた。

 自然と手を伸ばし、太股の上の黒髪に手のひらを乗せる。影丸の瞼が重く開き、大きく息を吐く。

「……なあ、
「はいはい、何ですか」

 影丸は片頬をの太股に強く押し当てる。

「……おれだって、はなから、きたいはしていない」
「……?」
「だけど……なんでだろうなあ。あきらめるふんぎりが、いつまでたってもつかねえんだ」

 影丸は独り言のように呟いて身じろぐ。彼が何の話をしているのかは分からないが、普段よりもずっと頼りなく感じたのも……酒のせいなのだろうか。は手のひらを滑らせ、彼の頭から肩へと下す。

「……どうせ、ゆめだ。つごうのいい、おれの、ゆめ」

 だから。
 影丸はくるりと身体の向きを変える。のお腹に額を押し付け、鍛えた身体を寄せた。

「……ゆめんなかくらい、いいおもいさせてくれ」

 影丸はそう呟いたっきり、動かなくなった。規則正しい温かい呼吸が、のお腹にぶつかる。

「……? 夢? いい思い?」

 の頭の上で疑問符が乱舞する。尋ねようにもその影丸は今度こそ眠ってしまったようで、瞼は持ち上がる気配がない。

「……よく分からない」

 酔っ払いの言い分なんてそもそも意味不明なものだけれど、今のは……。
 本当に、酔っただけの、支離滅裂な言葉だったのだろうか。
 は背を屈め、真上から影丸を見つめる。あどけなさも感じさせる、穏やかな寝顔。頬に掛かる黒髪を除け、記憶へ焼き残すようにじっと見つめた。

 普段とはかけ離れた、無防備ともいえるその姿。はやはり呆れてしまったけれど、縋り付くように身を寄せて眠る彼に、心の片隅が温かくなった。



「……ん、あれ。ちょっと待って、こいつ全然離れないんだけど」

 慌てては引き剥がしに掛かったが、衣服を握る影丸の手は眠っているとは思えないほどに頑丈で、全く力が緩まなかった。
 嘘だろ、まさか朝まで膝枕コースか。呆然とするを他所に、影丸は穏やかな寝息を立てるのであった。


◆◇◆


 ――――事のきっかけは、酒が進んだ筆頭ルーキーからの、突然の問いかけであった。

「オレ前から思ってたんスけどぉ、影丸ってさんの事が好きッスよねぇ」

 影丸は言い当てられても、特に動揺はしなかった。ただルーキーが言い当てたという事には、多少驚いた。
 同じ席につくランサーは「ほう」と楽しそうに口元を緩め、リーダーは……何故か異様に驚いていた。そうだったのかと呟く彼の声からは、本当に思いもしなかったという感情が滲んでいた。明け透けに匂わす事はなかったが、そこまで頑として隠し通していたとも言えないので、リーダーは本当に人の機微に疎いのだと感心した。

「なあなあ、どうなんスかぁ。そこんとこ」
「さあなあ、どうだろうなぁ~」

 適当にはぐらかしていたが、ルーキーはやけにしつこく、酒を注ぎ足してでも聞き出そうとしてきた。なのでこちらも応戦すべく、ルーキーのコップにも酒をどんどん注いでやった。お互いがすっかり泥酔状態だったが、それでもルーキーは諦めない。何をそんなに必死に聞こうとしているのか、この時は分からなかった。けれど、ランサーとリーダーがさすがに飲みすぎだと柔らかく仲裁に入った時、ようやく影丸は理解した。

「だってレイリンちゃんから聞いたッス! さんに恋人は居ないって!」
「大きな声を出すな、飲みすぎだぞルーキー」
「いいや、ついでだから今日こそは言うッス! オレ、是非ともさんの恋人候補に名乗りを上げたいんス!」

 危うく吹き出しかけたが、影丸は辛うじて耐えた。そしてその隣では、またもリーダーが一際仰天している。どうやら後輩の秘めた想いにはまったく気づかなかったらしい。

「だから、ライバルになるなら堂々と! 宣言しよーと思ったんス」
「……ほお~」

 影丸は目を据わらせ、ルーキーへ視線を向ける。酒のせいで真っ赤になった青年の顔、自身も大概だろうが頭だけはすうっと冴えていった。いや、むしろ酒のせいだから、かもしれない。普段ならば聞き流すところを出来なくなっていたのは。
 影丸は手に持ったカップを、勢いよくドンッと置く。その振動は机に響き、皿を揺らした。ランサーとリーダーの表情が驚きに歪んだが、それには目も向けず真っ直ぐとルーキーを見据えた。

「誰を好きになるのも自由だ。やりたいようにやりゃあいい。だがな」

 あいつだけは駄目だ、絶対に。
 自らの声は、思っていたよりも凄みを帯びて吐き出された。

「むっやっぱり好きなんじゃないスか」
「さあてな。似てるようで似てないもんだが、ともかく、あいつだけは絶対に駄目だ」

 どうしてだと騒ぐルーキーを、影丸は冷ややかに見据える。誰を好きになるか嫌いになるか、全て個人の自由だ。それは常々、影丸も思っている。だが、の名が出た途端に、不思議なほど影丸は腹立たしくなった。いや、我慢ならないと表現してもいい。

 身勝手、という言葉が相応しいのだけれど。

「飲み比べだ、ルーキー。そんなにしつこく来るんなら、俺を負かしてから言いやがれ」
「望むところッス! 途中で逃げるのはナシだからな!」
「上等だ、クソガキ。テメエが潰れても、俺は口に酒を流し込み続けるからな。覚悟しとけ!」

 ニャンコック、酒樽持って来い! 影丸の声が、ベルナ村の夜空に響き渡った。



「……ところでこのあの二人の回収は、私達がするのか?」
「そうなるのだろう。まあ、好きなようにさせたて、落ち着いたら引きずって連れて帰ろう」

 もっとも、この後どうなるのか想像もつかないが。

 過ぎる不安は杞憂で終わらず、ランサーとリーダーはこのあと、後始末に追われる事になった。



そして覚えているかどうかは定かでない、オチ。
朝まで膝枕をさせられた夢主の平手が影丸の頬に炸裂するのでしょう。

ルーキーは飲み比べの勝負の前から。影丸はべろんべろんになって膝枕を甘えるところから。まるっと綺麗になくなっていると思います。
これだから酔っ払いは。

ちなみにルーキーの受付嬢への熱は、MH4Gで尊敬へと昇華されたと個人的に感じています。彼らの、あの関係を見ると。

(お題借用:約30の嘘 様)

2016.03.14