八割方、君が理由

ハンターズギルドのユクモ村支所に、この日一人の男性が姿を見せた。がっしりとした体躯と伸びやかな身長に恵まれた、三十歳前後の年齢だった。筋の浮かぶ首に届く程度の赤銅色の短髪は、毛先が乱雑に跳ねているが、その静かな面持ちに妙な風格があり粗暴さは一切感じさせない。東国の衣装を彷彿とさせる、ユクモ村の衣服を纏ってはいるが、何処か武芸達者な空気もあった。実際彼は、その道の人物だった。しかし今は、武骨な大きな手に杖を持ち、ゆっくりと慎重に進む歩みであった。
彼は狩猟や採取などの依頼を受注するカウンターの前に佇むと、ヒョウタンを抱えた竜人族の老人へと視線を合わせた。この老人は、ギルドマネージャー……分かりやすく言えば、このユクモ村支所の責任者である。

「ヒョヒョ、チミ、何とか動けるようになったんだねえ」
「ああ……ギルドマネージャー、今少し良いか」

男性は、カウンターに寄りかかり、袖の中を探る。ギュ、と杖を握り直す様子を見たギルドマネージャーは、いつになく笑みを深めた。

「不自由にはなったけど、元気で良かったねえ、セルギス」

男性―――セルギスは、小さく笑みを返すと「迷惑をかけた」と呟く。だがギルドマネージャーはそれを、プハアッと吐き出した息で遮った。

「チミチミ、もうその話は良いんだよ。無事、もう一人の英雄が生還したんだからねえ」
「英雄ではない、俺は」
「ヒョッヒョッ、そう言うところもお弟子の影丸そっくりだねえ。いや、彼がチミに似たのかな」

ギルドマネージャーはコロコロと笑い、「ところで何の用だい」と小柄な身体を揺らした。セルギスは、袖の中から取り出したものを、ギルドマネージャーの前へそっと置いた。それを見て、ギルドマネージャーの目が少しだけ丸くなる。

「チミチミ、これは一体何だい」
「ギルドカードだ」
「そんなもん見りゃ分かるよ。何でこれをアタシに見せるんだいって事だ」

セルギスは、笑みを変えず、短い言葉で告げる。

「ギルドカードを、返したい」

ぴくり、とギルドマネージャーの表情が微かに揺れる。
ギルドカードとは、いわばギルド公認のハンターである許可証であり身分証明のものだ。これを返すということは、つまりは。

「……ハンターの身分を、返上するってことだね」
「ああ」

それを盗み見ていた、受注カウンターに座る受付嬢たちはにわかにざわつく声を漏らした。温泉の番台からも、驚いた声が聞こえてくる。
セルギスと言えば、ユクモ村から七年近くも姿を消していたが、かつてジンオウガ討伐にその身を捧げた腕利きのハンター。それ以前に、ユクモ村を守って来たのは彼であると言って、過言でない。戦いの後の遺症か、足を未だ満足に動かせないが、その風格は損なうことなく、それどころか年齢と共に凄みを増した。十分に、ハンターとしてやっていけると思っていたが……。

「そうかい……辞めるんだね。分かった、チミのことはちゃんと上へ話して手続きを―――――」

うんうん、とギルドマネージャーは頷いた。集会浴場に、まるでお別れ会のような空気がにわかに漂い始める。
だが、話があらぬ方向へと進んでいると察したセルギスは、「は?」と怪訝な声で空気を断ち切る。

「――――― 俺は、辞めるつもりはないぞ」
「そうかい、辞めないの……うん? 辞めない?」
「ああ、辞めない」

パチパチ、とギルドマネージャーが素っ頓狂に瞬きを繰り返す。その様子から食い違いがあるようだと気付き、セルギスは肩をすくめ、「そうではなくて」と低い声で続けた。

「このギルドカードは、返上する。今のハンターの立場は返すが、また新しく発行してもらいたい」
「新しく発行?」
「ああ」

ギルドマネージャーはきょとりとしたが、「それでもチミ」と首を傾げる。

「新しくするにしても、新人ハンターとしての手続きになっちまうよ」
「それで、良いんだ」

セルギスは、ぐっとギルドカードを押した。

「こんな成りじゃ、上位狩猟は当然ながら下位狩猟も危うい。緊急依頼も、他に回すしかない。それはハンターとして、立場はないだろう。
一度返し、新人からやり直す。無論、この身体のリハビリが完了し、十分にやれると判断したら、だが」

それに、この村にはもう、立派なハンターが二人もいるのだから、任せても良いだろう。
セルギスの言葉は変わらず静かで、けれど覚悟と信頼も秘めた眼差しを宿していた。ギルドマネージャーはしばし考えた後、「チミが決めたことだ、分かったよ」とギルドカードを受け取った。そして、受付嬢に声をかけ新規登録用紙とペンを持ってくると、セルギスに記入させる。
彼は、迷わずにペンを走らす。一文字書き込むたびに、今までのハンター生活は消えていき、そして全て終えると零に戻る。だが不思議と、後悔も名残惜しさもない。獣の生活を送っていた期間が長いあまり、ハンターの暮らしに取り縋る感情は無くなっているのだろう。登録用紙を差し出し、「新しいギルドカードは、まだ作らない。リハビリが終えるまで、貴方が持っていてくれ」と落ち着き有る笑みを浮かべると、コツリコツリと杖を頼りに去っていく。そのセルギスの横顔は、晴れやかでもあった。

そんなセルギスの話は、ユクモ村をすぐに駆け巡り伝わっていった。
ユクモ村に戻った英雄が、上位ハンターの地位を返上した。また最初の振り出しへ戻るらしい。あの身体では、やはり狩猟は出来ないと本人が決めたのか。など、様々な声がその日飛び交ったが、恐らく彼ら以上に波紋を感じているのは、その英雄と親交のある人物たちであった。

セルギスの自宅は、ユクモ村の最も人通りの多い市場付近に佇んでいる影丸の家より、奥まった場所に位置する。中心地を離れれば、其処は長閑な山村そのもので、観光地とは思えない静けさがある。
賑やかな声を窓の向こうから感じ取りながら、セルギスは荷物の整理をしていた。下位ハンターに逆戻りともなれば、上位狩猟の資格を得るまで当分彼が愛用してきた武器と防具は使えない。死にものぐるいで制作した銀火竜の防具も、緑迅竜の防具も……しばらくは、見納めだ。だが不思議と、名残惜しさはない。
今までは、双剣を筆頭に太刀、片手剣と手数の多いものを使ってきた。これを機に、ハンマーや大剣を使ってみるか。弓やライトボウガン、ヘビィボウガンに手を出してみて、ガンナーを目指すのもありかもしれない。
感慨深さと、新人の頃の心弾む初々しさ、それらを胸の奥に感じつつ、今までの上位装備を全て別の箱に移し替え、開けていた蓋を下げる。

――――― ギイイ……ガタン

重い音を立てて閉ざされ、これを開ける事はしばらくは無いだろう。
セルギスは、近くの壁に手をつきゆっくりと立ち上がると、立てかけていた杖を握り、片手でグイグイと箱を隅へ押す。

「……セルギス! 居るか!」

唐突に飛び込んだ、男の声。
おや、と顔を上げた時、ドカドカと人が上がってくる気配が一階部分より感じられた。考えるまでもない。セルギスは苦笑いを溜め息と共に吐き出すと、寝室から出て階段を降り、顔を下げる。

「居るぞ、全く扉の意味が無いな……挨拶の一つもしないか。お前は」

ギ、ギ、と軋ませて全ての段差を降りる。そうして目の前には、肩を上下させる、剣士用のナルガS一式装備に身を包んだ男性が佇んでいる。いや、見方によっては身構えているようでもあった。喧嘩か何かでもしにきたようでもあるが、ナルガSヘルムの向こうの眼差しは酷く困惑していた。
その理由を、セルギスは察しながらも「どうした」と男性……影丸に尋ねる。

「どうしたって……アンタ」

言い放った声が、語尾を荒げて響く。
影丸はしばし、セルギスを見つめた。その眼差しは、言葉は無くとも強く訴えていた。何故、と。

「……村というのも、なかなか不便だ。直ぐに情報は駆け巡る。自分の口から、言いたかったものだが」

あえて肩を強ばらせず、世間話のように軽い声音で告げた。
だが影丸は、一層眼差しを揺らし、ヘルムを乱暴に取り外した。現れた二十代半ばほどの男の顔には、申し訳なさすら滲む感情が、複雑に張り付いている。

「……ギルドマネージャーが、言っていた。アンタが、ギルドカードを返上して新しく作ったと」
「ああ、まあ、そうだな」
「下位から、やり直すと……」
「そういう事に、なるな」

影丸の声が、不意に途絶える。しばし静寂が流れたが、セルギスは「影丸」と彼を呼び、小さく笑う。

「お前のせいじゃないぞ、言っとくが。というか、これがお前のせいであるはずが無いだろう」

お前まさか、それまで背負い込む気じゃあないだろうな。そう告げると、微かに影丸の瞳が見開かれる。
馬鹿だな、こいつも。ちっとも変わっちゃいない。
セルギスは内心で笑い、コツリ、と杖を進める。そして、影丸の額をバシリッと思い切り指で弾いた。いわゆる、デコピンである。容赦なく指先を弾いたせいで、影丸の頭は後ろへ吹き飛ぶように仰け反ったが、セルギスは構わず続ける。

「ハンターの仕事は、いつ何時、何があるか分からない。それはお前も熟知しているだろう。
もしもこんな成りで無理に上位狩猟に行ったのなら、俺は今度こそ死ぬさ。命を粗末にしてろくな事が起きないと、身を持って学んでいる。命は大事にすべきだ、何事でも、な」

ヘルムを被っているにも関わらずに仰け反った頭を押さえ、影丸はセルギスを見た。

「俺は、無鉄砲にジンオウガに突っ込んで行った、あの馬鹿を助けてやった事は後悔していないし、元に戻れた今となっては、あれはあれで良い経験であったと思える。俺が居なかった間に、お前も随分腕を上げた……ハンターとして、今後もその腕を奮えば良い」

俺から教える事は、もう無いのだろうな。
手の掛かる教え子を認める清々しさと、離れる物寂しさ……この年になって知る事実としては少々早いかもしれないが、セルギスは満足している。
影丸は、しばらくの間困ったように視線を揺らし、何かを紡ごうと口を開閉させていたが、程なくし肩を落としてふっと笑みを微かに浮かべた。

「……俺は今まで、村の為にハンターをしてきた訳じゃあ無い。まして、人の為に役立とうと思った事なんか、一度だって無い」

けれど、と影丸は其処で言葉を区切り、続けた。

「――――― もう少し、真っ当に、やってみようと思う」

……影丸が、今までどのような生活を送っていたのかは、おおよそを理解していた。だから、その言葉に何を含んでいたかもまた然りだ。セルギスは、多く言わずに笑みだけを返すと、「そうか」とだけ呟き、影丸の肩を叩いた。



――――― セルギスは、最初からやり直すらしい。
影丸から、そう伝えられたは、今セルギスの元へ向かい、隣に並び立っていた。
三十歳前後の静かな笑みは、ジンオウガの頃の面影は一切無いけれど、濃い琥珀色の瞳の眼差しはやはり覚えがあった。赤銅色の短い髪を温泉の匂いを含む暖かな風に揺らし進む先は、何でもかつて彼が利用していた農場があるらしい。整えられた細い野道には、ユクモ村の誇る鮮やかな紅葉が両脇を埋めており、とセルギスの間に何処からか流されてきたらしい、紅葉が舞い降りる。
落ち着き無く二人の前を突き進んで行く、アイルーのカルトは、キョロキョロと見渡していた。この細道には、来た事が無かったからかもしれない。
コツ、コツ、と杖をゆっくりと進ませるセルギスは、カルトを見ながら笑っていたが、不意にへと声を掛ける。

「村だと、直ぐに話が伝わってしまうな。自分の口から、皆に言いたかったものだが」

は、ふっと顔を上げる。がっしりとした長身の体躯に恵まれた彼は、の標準的な背丈ではどう頑張っても見上げるだけでなかなかの重労働だ。ぐっと顔を直角に上げるくらいで、その横顔を見つめる。

「皆、驚いてました。特に、影丸なんて凄い顔して」
「ああ……家に押し入って来た時は、強盗ばりの気迫を漂わせていたが……」

アイツも、まだまだ子どもだな。セルギスは呆れたように言ったが、口元の笑みは穏やかだ。
もこっそりと、安堵し口元を緩める。
七年前の、ジンオウガ討伐の件―――当時少年だった影丸は、村の近くに踏み込んだ雷狼竜ジンオウガを討ち取ろうと一人挑んだが、力適わず雷撃に命を落とす寸前だった。それを聞きつけて救援にやって来た、影丸の師であり友人でもあった当時の村専属ハンターのセルギスが自らの身を盾にしてジンオウガと共に崖から落ちた。
その後、影丸は修羅となってハンターの腕を上げ。
セルギスは、ドキドキノコのもたらした奇跡か呪いかでジンオウガの姿となり。
それぞれが、七年もの間苦しんできた。

もアイルーであった頃は、意図せずその七年前の因果に少なからず関わってきたので、人間に戻ってからも二人の間に溝が出来やしないかと思ったものだが、それも杞憂で終わる。セルギスのこの、穏やかな横顔に、そんな下手な心配など必要ないらしい。

「セルギスさん、まだリハビリがあるのは分かっているけど、きっと影丸の中ではまだ貴方を追いかけているんでしょうね」
「追いかける?」
「ええ、きっと。貴方に追いつきたくてしょうがない」

今までの影丸を見れば、容易に理解出来る。彼は七年もの間、セルギスの姿ばかりを目指し自らを鍛えてきた。それはきっと、例え彼がかつての腕を鈍らせていても、影丸にとっては越えなければならない存在であるのだ。例え彼が、上位狩猟に挑む資格を失った、今現在もなお。

サク、サク、と落ち葉の重なる野道を進む、二人分の足音が静かに響く。

「……意外だったか」
「え?」
「俺が、またハンターをやると聞いた時」

カルトを見つめていたセルギスの瞳が、を見下ろした。静かであるけれど、僅かな鋭さも含んでいるような気がし、はドキリと胸を跳ねさせる。

「こんな成りになってまで、またハンターをやるつもりなのか、と。少しは思ったんじゃないのか」

コツ、コツ。セルギスの身体を支える杖が、静かに進む。

「いや、答えなくて良い。俺の独り言だ。ただ……」

不意に、セルギスの声音が穏やさを増す。心地よい、落ち着いた低い声が、の耳をするりと撫でる。

「これ以外の生き方は知らないし、これ以外の生き方を選ぼうという気にもならなかった。それだけだ」

後悔や、仕方なさといった類の感情は無く、迷わずに言い切ったセルギス。その横顔を掠めていった紅葉が妙に映えて、は少しの間だけ見惚れていた。かつて居た世界に、此処まで確固たる信念を抱いていた男性など、見た事はない。生きる世界の環境が、違う為なのか。羨ましく、それでいて初めて異性に対して尊敬すら覚えた。

「――――― 、セルギス! 早く来るニャ!」

細道の終点で、カルトが飛び跳ねている。はいはい、と笑いながらアイルーの側に歩み寄ると、視野が広がった。ふわり、と風が涼しく吹き抜ける。
とカルトの目の前には、ただひたすらに広い、整地されただけの土地があった。ユクモ村の付近を流れる、緩やかな大河に面している為か風は涼しいが、遮るものが無い為に強く身体を打つ。
よくよく見れば、大きな木々が奥に佇んでいて、その手前には何年と使われていない印象のある、乾いた田畑が木柵で囲まれている。また、少し古びた梯子の掛かる採掘場や、虫取り籠、大河へと延びる桟橋と……何処かで、見覚えのある光景でもあった。

「此処は……」

が呟くと、隣に並んだセルギスが、懐かしむような笑みを浮かべたままゆっくり見渡す。
「随分離れてしまったが、拡張した施設は残っているな」そう言って、足を踏み入れた。なだらかな坂を下っていく彼を、とカルトは支えつつ、何も張られていない掲示板の前で立ち止まる。

「……そうだな、もう七年だ。アイツらも、居ないのは分かっているが」

セルギスの指先が、掲示板を撫でる。感慨深く見つめた後、すっと指先を離す。

「此処は、セルギスの農場ニャ? でも、何にも無いニャ」

あっさりと言い放つカルトの頭を、思わず押さえつけそうになったであるが、彼は気にしていないようで笑っている。「そうだろうな、今ようやく農場を初めて見たんだ。俺も、殺風景で驚いている」そう告げた後、少し声のトーンを下げて、呟く。

「アイルーたちも、居ないんだな……」
「セルギスさん……」
「いや、分かっている。影丸や村の人達が悪い訳ではない事くらい、な。七年は短くはない……そう、短くはない」

けれど今頃、アイツらの事だ、オトモアイルーとして別のハンターに従って頑張っているだろう。寂しそうではあったが、笑みを浮かべたセルギスからは嘘は無い。
自らの喪失よりも、他者の行き先。彼は、元々そういう性格なのだろう。だから過去に身を張って影丸を守り、アイルーだったを守る為人前に晒し、既知の間柄の影丸とも戦った。

……厳しい環境にも身を置いて居たからか。セルギスの姿が、同じ人としてもとても大きく。異性としても、引き付けるものを纏っている。

「……まあ、何にせよ、やる事は山ほどある。自分の身体もそうだが、この農場をまた使えるよう村長に相談しなくてはな。あとは、畑当番や虫籠を見てくれるアイルーを探さなければ」
「やる事は、一杯ですね?」
「まあな。上位狩猟に挑めるハンターは居なくなって、経歴も綺麗さっぱり消した新人だからな、俺は」

ふ、とセルギスの瞳が細められる。吹き抜けていく涼しい風に、赤銅色の髪が揺らされ、彼の精悍な顔立ちが風景の中で存在感を放つ。
それを見上げていたカルトは、おもむろに小さな声で尋ねる。

「……セルギス、またハンターやるのニャ?」
「ああ」
「ジンオウガから、人間に戻ったのにニャ?」

不思議そうに首を傾げたカルトの頭に、セルギスの手が重なる。小突くように触れた後に、セルギスは言った。

「それ以外の生き方を、俺は知らない。獣の生活を送っていたせいかな、執着心は無くなったんだが―――守りたいものが、出来てしまったからだな」
「守りたいもの、ニャ?」
「……ひどく、救われた。そいつのおかげと言っても、過言でない。なんだ、つまり、恩返しのようなもんだ」

セルギスの眼差しが、チラリとを見た。無防備だった為に、思わず肩を揺らして狼狽えてしまったが、彼はそれを見る前に再びカルトへ視線を戻す。カルトはやはり不思議そうにしていたけれど、セルギスの眼差しに満面の笑みを返す。

「セルギスらしいニャ」
「そうか」

はクスリと微笑むと、セルギスの広い背へ「そうですよ」と告げた。
彼は何ともいえない表情を浮かべたが、照れ隠しか首の後ろを掻いた。


……余談だが、この一件がカルトの心に響いたのだろうか。
カルトは、ユクモ村へネコバアがやって来たある日、オトモアイルーの登録申請を行った。一体どうしたのかと尋ねれば、何でも「この人が良い!」というハンターが現れたらしい。
そして高らかに、新人ハンターに戻ったセルギスのオトモアイルーになる事を宣言した。
先輩オトモアイルーの、ヒゲツやコウジンの存在もあり、彼の生活にも新たな風が吹きそうだ。

しかし、セルギスの守りたいものとは何だろう。はそれだけ不思議に思ったものの、カルトとコウジンの益々ヒートアップする喧嘩を止める仕事が加わった為に考える暇は無かった。

――――― セルギスの眼差しが、背に注がれている事にも、気づかぬほどに。



カルトとセルギスの、アフタストーリーでもある。

カルトのオトモアイルーになりたいという夢の話を考えていた時に、絶対セルギスだよなと決めておりました。
ちょっとヒゲツが複雑な気分になったり、コウジンのライバル意識がますます燃え盛ったりと、嵐の予感するアイルー達。

……あれ、夢主は……?


2012.05.05