変人と黒猫

辺境の地で、人の営みを守り切り開くべく、高い空と果ての無い厳しい地にて竜に挑む狩猟者《ハンター》。
彼らが命の危険を冒してでも強者に挑む姿を、多くの詩人が謳った。

それに相対して、研究者は文字通りに、動植物たち、あるいは様々な未開の地の研究を行う。
新たに発見され続けている生き物たち、語られ真偽の定かでない伝説、竜にも勝る巨大かつ凶悪なものたち。
それらに挑むのも、ハンターたちと同じく命の危険が常に伴う。
机に向かって論理を並べ立てる研究者もいるであろう。だがそれだけであれば、研究者などというものは全くもって必要ない。彼らが得るべきものは、幻想を打ち捨てた現実であり、多大な時間を浪費した証拠。

過去から現在まで、多くの実証された生態研究所などが出回っているが、その大部分は生涯を研究に捧げてきたものたちの血と肉である。
研究者にとって未知のものへ挑む事は、世界へ挑む事であり。
世界へ挑んだ事は、何よりも誉れ高い事なのである。
例えばハンターが、巨大な竜を倒すように。
よって、世界への飽くなき探究心、物事に向き直る真摯さ、命を落とすやもしれない覚悟もまた、研究者にとって必要なものである。
それを、どれだけの人間が抱いているか、知る由も無いが。


――――― 少なくとも、自分はその中で異端であるとはっきり分かる。


探究心が無いわけではないが、机と論文にばかり向かっているのは性に合わない。
物事への欲求が無いわけではないが、世界規模で見据える事なんてそもそも技量がない。
世の研究者から、「頭がおかしい」と言われるのは百も承知だが、少なくとも自分が得たいと思ったもの、見たいと思ったものは、もっと別のものだった。

世界は広い、そして自分の足はその中で僅かしか進まない。
空の高さも、大地の広さも、自然の厳しさも、自分も嫌というほど身をもって学んでいる。

……だから、惚れ込んだ。
人間の知恵など遠く及ばぬ、大自然の力と叡智。何事にも縛られずに空と大地で生きる獣たち。人の踏み込めぬところを生きる、古の生き物。
研究などはしない、ただ知りたいだけだ。彼らの営みを。
変人扱いも、大いに結構。有意義な日々を送れるのであれば、どんどんそう呼んでもらっても良いくらいである。



果ての無い蒼海に囲まれた、大きな浮島《孤島》。
多くのモンスターが住まうその大きな島は狩猟区域にも認定されているが、海岸区域には島で暮らす人々の村、そして大陸を繋ぐ唯一の航路の受け口である港が存在している。
大陸から離れているとはいえ、その訪れる人々の数は決して少なくない。むしろその逆で、ハンターたちの来訪数は、鰻上りで上がっていくばかりだ。
その理由として、近年新たな狩猟方法として水中での戦いに着眼し、その唯一の場所となったのがあるだろう。島国という周囲を海に囲まれ、唯一大陸を繋ぐのは船だけ。それに加え、航路すら常にモンスターの危険が付き纏い、従来の狩猟方法ばかりでは危険だと感じ始めたのが、この島に在住していた古くからのハンターたちや住民たちであった。
彼らの不安も尤ものだという事で、この地域のギルドが動き出した。従来の装備をより軽量化し、動きやすいよう全面的改良を施した。現在の形になるまで時間を費やしたものの、水棲モンスターたちの脅威を緩和する事に成功した。

さて、そんな孤島の、近年多くの人々が来訪するモガの村。目立った観光ポイントはないものの、景観の美しさや数多くの多彩な動植物たちに魅せられたものが多く、ハンターたちの来訪も珍しくない。
が、この村の外れで暮らしている自称・生態観察者のとある男性は……自他共に認める、変わり者である。
一応は、研究所に勤めた事はあったが早々に止めた経緯もあったり、研究所に入っておきながら「研究なんて、全くつまらなかった」と言って回ったり、もっぱら村の道具屋などで働いていたり。まあ、つまるところ研究者の文字の一つも見当たらないような、男だった。
それは本人も自覚しており、隠す素振りもなく。彼本来の、元々さっぱりとした性格もあり、村人や子どもたちからは中々に親しまれていた。


海岸に立ち並ぶ樹木のおかげで、微かな海風が穏やかに吹いてゆく。
鮮やかな茶色の木材で造られた、高床式の家屋の窓を潜り、涼しい室内を通り抜ける。モガの村などで見られる一般的な家屋と比べれば、それなりに大きな佇まいで、人里離れた静けさの中でも確かな存在感を放っている。それに違わず、建物内部も南国調に装飾されており、青いタペストリーや観葉植物が立て掛けられている様など団体の旅行客用のロッジと言っても何ら違和感はないだろう。
だが、簾の玄関を潜って広いリビングを過ぎ、二階にあがれば、そのゆったりとした趣など頭の中から吹き飛んでいく。
一階部分と同じ広さの私室は、本棚がまず壁際に並んで出迎える。成人の、腰ほどの高さで段数も三段しかないが、様々な本で埋め尽くされており妙な威圧感を与える。そしてその上には、すり鉢や空き瓶などの調合器材が座り込み、部屋の中央で無造作に積み重ねられた羊皮紙の束を見下ろす。ところどころ絵も混じり、付箋が幾つも貼り付けられた、乱雑な印象しかないそれの奥。
木漏れ日の当たる大きな窓際に寄せられた簡素な机に、静かに向かう男性の背があった。
カリカリ、と羽根のペンが羊皮紙へ文字をひたすらに刻んでいく。机の上には、多くの本とノート、そして写真が多く貼り付けられたボードがあり、作業スペースは実質かなり狭い。それでも、執筆速度が遅くなる事はない。

なだらかな階段を、軽やかな足音が駆け上がる。部屋の前で、ひょこりと漆黒のアイルーが顔を覗かせた。

「旦那、そろそろ時間だ」

アイルーにしてはやや低めな声が、滑らかに言葉を紡ぐ。
「ん? おおッ」筆を止め、顔を上げた男性は、ようやく気付いたように振り返った。二十代半ばを過ぎた、あるいは三十代前後を思わせる落ち着いた顔つきの彼は、ガタリと椅子を立ち上がると羽根ペンとインクのみ片付けて机を離れる。伸びやかな身長に見合う均整の取れた身体つきで、しなやかな長い足は、寝台へ向かっていく。無造作に放り置かれていたポーチを取ると、腰に巻きつけて、丈の長いやや生地が薄いコートと、背負おうのに丁度良いくたびれた鞄を掴む。

「すまないノワール、すっかりこないだの走り書きのまとめに夢中になって」
「いつもの事だ、別に構わないさ。さ、早く行かなくては」

そう言った無地模様の漆黒の雄アイルー……ノワールは、ひょっと顔を引っ込め階段を下りていく。その背を追うように、男性も部屋を出て階段を駆け下り、玄関へと向かう。簾を下げ、普段止め具で固定している扉を引っ張る傍らで、ノワールも身支度をしている。
赤いベストを羽織り、首にスカーフ巻き、腰にレイピアを丁寧に差す。最後に、同じ赤色の羽根付き帽子を手に取って、同時に別の帽子を持ち上げ男性へ差し出す。少々褪せた色合いな、唾広な帽子……フロギィヘルムに近い形のそれを、男性は笑っ受け取りぱふっと頭に被せる。

「お前は相変わらずそれだな、ギルドネコ装備」
「これが一番、俺の性に合う」

すぽ、と赤い羽根付き帽子を被ると、ノワールはポーズを付け構えて見せた。黒い毛並みに、赤いギルドネコ装備がよく映える事。
もともとノワールは、この流暢な言葉使いの通りに人間との生活も長く、かつ年齢で言えば三十代から四十代……まあ、言ってしまえばおっさんである。まだまだ内面は非常に若々しいが。

「さて、今日もはりきって行くとしようじゃないか」

ばさり、とコートを羽織ると、男性は鞄を背負い直して踵を踏み出す。建物から出た途端に、微かな海風が頬を掠めていき、直ぐ側に広がる海原や豊かな自然の存在を改めて感じさせる。
うむ、実に素晴らしい場所だ。海と緑に恵まれて、様々な生態系が伸び伸びと暮らす地……観察には、もってこいの環境ではないか。
男性は笑って扉を閉ざし鍵を掛けると、コートを翻し階段を下りた。その後ろを、赤いギルドネコ装備のノワールが付いて、男性の隣へ並ぶ。

「旦那、今日は確かジャギィの群れを探すのだったな」
「ああ、若いリーダーのドス・ジャギ男くんの群れがどうなったか、そろそろ見に行きたいしな」
「……相変わらず、酷いネーミングセンスしてるニャ」

うむ、それは理解しているぞ。
男性はアッハッハと笑って受け流すと、気持ち程度に整備された細い野道へと突撃していった。
恐らく、第三者が見れば自殺行為と思って卒倒するだろう。頑丈な装備に身を包んでいるわけでもない、その彼の格好……薄手の長いコートとⅤ字ネックのシャツ、何て事は無いベルトとポーチ、あとはゆったりとしたボトムとロングブーツ、まるで近所に買い物に出掛けるようなラフさ。鞄の中からは、確実にモンスター対策の道具ではないペンやら紙の束やらが見えている。
が、これが彼の大自然へ出掛ける通常スタイルである為、さくさくと茂みを進んでいく。あんまりにも、迷いも無く。

見た目こそは普通、だが何処か微妙なズレが漂っている。
それが、この男性―――― であった。



ギルドが認定した、狩猟区域の公式地図。それを大いに無視して突き進む事が出来るのは、一般人の特権である。ハンターであれば即刻レッドカードで処罰されるけれど、こういう時に自由の利く身分で良かったと常々思う。
彼が進む道は、どれも公式地図には記述されていないところで、地元民でも特に地理に精通したものしか知らないような場所を抜けている。公式地図は、もともと関係者が踏破した部分のみを記述しているのだから、その内に含まれぬルートが存在しているのは何ら不思議な事ではない。この場所に生きるのは人間だけではない、多くの動植物の存在が、調査を阻んではいるが、それこそ自然の神秘であろう。広大な孤島の全てを理解するものは、世界にはまだ必要でない。挑む事にこそ、意味があるのだから。

眩い陽射しすら遮る、太古の木々がひしめいた森は肌寒さすら抱かせるほどに涼しく、虫の声さえもはっきり聞き取れるほどに静寂で満たされている。さく、さく、と進む の踵の音に続いて、ノワールのとてとて響く足音も、異質に感じさせる。
苔の生した岩々の陰は濃く、視界の翳りをより強く抱かせる。いつ何時、物陰からモンスターが出るか分からない為に緊張感は常に背後を付いて来るが……それこそが自然であり、その自然を恐れている証拠だ。恐れるくらいで、丁度いい。

「真新しい、生き物が通った痕跡はあるな。旦那」
「うむ。これは……ドス・ジャギ男かな。どうだろう」
「だからそのネーミングは無いニャア……。恐らく、それで合ってるが」

うむ、さすが経験豊かなアイルーだ。その辺の同種族とは、比べるまでもない。
トコトコと進んでいく赤いギルドスーツ姿のノワールの後ろを、 は不満なく付いてゆき、薄暗い急な傾斜を登りきる。サア、と視界を覆う影が風と共に吹き払われ、 とノワールの周囲には遮るもののない空が飛び込んだ。眼下に広がった木々の群集は深く、豊かに展開し、鮮やかな青の海原へと導く。モガの村からはそう遠くのない場所にしか来ていないが、何とまあ広大な事か。

「自然とはかくも雄大なり、だな」
「ふう……こんなに良い風景であるのに、隣に居るのが旦那というのが口惜しい限りだ」
「悪いな、可愛い女の子でなくて」
「全くだ」

ちなみにノワール、今の台詞で分かるように女性至上主義である。

は、「さて」と呟いてその場に腰を下ろす。ゴツゴツとした岩肌であるが、ひんやりとした感触が心地良い。鞄も下ろすと、その中から羊皮紙の束と本土で購入した万年筆を取り出し、下敷きを敷いて目の前に広げる。そうして腹這いに伏せると、懐に入れていた双眼鏡を取って構える。
準備の出来た彼の隣に、ノワールも座り込むとぺたりと伏せる。

「ドス・ジャギ男の徘徊ルートは、確かこの辺りだ。リーダーが変わっていなければ、通るはずだが」
「……いつも思うが、旦那」
「ん?」

双眼鏡を構えたまま、 は声のみノワールへ向ける。

「旦那の趣味は、まるで研究のようだな」
「そうか? まあ、なかなか人には理解してもらえないのは確かだ。モンスターの尻を追いかけて付ける、生態観察なんてね」

クル、と は双眼鏡を構えたままノワールへと顔を向ける。真っ黒な毛並みしか見えないので、直ぐに外した。

「ただ、私は研究者ではないよ。観察が趣味の一般人、研究など詰まらないだろう」
「世の研究者から、殺されそうな言葉だ」
「まあ否定はしない、実際昔は同業者からは『馬鹿か』と言われた事もあるし」

そのわりに、懲りた様子はこれっぽっちも無い。

「研究者であれば、此処から生態論理でも造るのだろうが、あいにく私はこれで非常に満足している。
私はモンスターを、研究対象とは見ないだけさ。分からないなら別に明かさなくて良いだろう、と本末転倒な事を言ったら次の日からあだ名が《変人》だ。あはは」

と、その時。
微かに、ジャギィの鳴き声が響く。

はすぐさま反応し、もう一つ双眼鏡を取り出してノワールへ投げ渡す。彼自身も再び構えると、拡大された崖下の光景を探る。
次第に大きくなる、甲高い鳥竜の鳴き声。幾つも響くその中に混ざる、明らかな存在感を放つ低い鳴き声に、 は心を躍らせた。が、それは必死に胸の中だけにし、声と呼吸を押し殺して潜める。

鮮やかなオレンジ色の、小柄な鳥竜が物陰より現れる。まだ若く幼い、鳥竜の雄――ジャギィだ。
そしてそれに続いて、立派なエリマキと体躯に恵まれた、大柄な鳥竜が映り込む。うっすらと灰と紫色がかった体色で、その表皮には幾つもの傷跡がくっきりと刻まれている。そして、特徴的な、あの横腹の傷跡。
間違いなく、 が探していた個体である、ジャギィの群れを率いる長である《狗竜》ドスジャギィだ。

「ラッキーだった、探さないで済んだぞ」
「ああ。……リーダーは、変わっていないようだ」
「なかなか貫禄のあるドスジャギィだ。早々にリーダー交代はないだろう」

ひそひそと、小声で会話をする。その傍らで、 はペンを走らせて羊皮紙へと文章を書き込む。


――――― が、一人危険と神秘の満ちる大自然へ出向くのは、これが目的であった。
大自然で生きる、モンスターの生の観察。そして同時に、これが変わり者と通称される由縁だ。
彼は一個人の趣味で、モンスターの観察を行っている。取りまとめたものを、ギルドへ提出する事もなく、どこぞの研究所へ持ち込むこともなく、ただひたすらに個人的願望の為に。もしかしたら、思いもよらぬ発見が記録されているかもしれないが、今のところ にその野心はない。これっぽっちも。
生の生活を見て、触れて、畏怖される彼らの日常を見ていたい。ただそれだけだという彼の趣味は、近隣のモガの村はおろかモガの村支所ハンターズギルドに筒抜けであったりする。が、お咎めを食らった事はないし、まあある程度の監視はもしかしたらされているのやもしれないけれど、 は止めるつもりが無いのでギルドからは微笑ましい視線を受けて終わっている。

論文は、まあ観察日記の際に造ってはいるけれど、それはあくまでも個人の範囲内での観測に過ぎない。
机に向かうのが性に合わないのは、彼がこの観察日記を付けるようになった切っ掛けでもある、過去の生活が影響しているのだろう。

「一番驚かれるのは、この趣味よりも元ハンターだったって事か」
「まあ、そうだろう。今の旦那にその要素は皆無だ」

……言ってくれるな、ノワール。
お前だって元オトモアイルーだろう、いやお前の場合は見たまんまだが。

くつくつと、しばし は笑ったが、不意にノワールへ尋ねる。

「つまらなくはないか」
「ん?」
「私のような男に雇われて」

《あらゆる意味》を含んで尋ねると、ノワールは心外だとばかりに首を振った。

「つまらないなどと、思った事はないぞ。なかなか有意義で面白い、アンタの趣味は」
「……そうか」
「ああ」

パタパタ、と黒い猫の尻尾を揺らして、ノワールは言い切った。
ほっと微かな安堵も覚えた は、再びドスジャギィへ意識を戻す。
趣味というものは、時に人から疎まれるものであるが、ノワールのように理解を示してくれる存在がある事はありがたい。

( お前は本当に、変わった奴だな )

狩猟区域に出掛けるたびに今のような観察をしていた自分を、友人は笑っていたな。
口では興味の無い風ではあったが、毎回毎回付き合う辺りが人の好い性格をしている。村専属のハンターも、決して暇なわけじゃあなかっただろうに。

「……友人がいれば、何と言おうかね。ノワール」

ノワールは、友人とやらが誰を指すか既に知っており、彼は笑みを崩さずに へ返した。

「なに、どうせ『まだやっていたのか』辺りだろう」
「そうだろうな。きっとそう言うだろう」

和やかな空気が、彼らの間に流れたが。
のそりのそりと歩いていたドスジャギィとジャギィの群れが、急に走り出す。
おっとしまった、声が大きすぎたか。見失って探すのも骨が折れるので、 は追いかけようと身体を持ち上げた。
だがその瞬間、頭上を俊敏に過ぎ去った巨大な影が、一陣の風を吹き荒らす。吹き飛びそうになった羊皮紙を押さえ、のろりと顔を上げる。澄み渡った空が広がる中に、はっと目覚めるような、美しい《蒼》が舞っていた。強靭な肉体と翼を持ちながら、人の目を惹きつける竜の勇姿。大空を根城とする生き物の、手の届かぬ絶対的な存在感を放っている。

「――――― なんて、悠長に構えている場合ではないな」

現れた竜―――――リオレウス亜種の目は、ばっちりと とノワールを捉えている。まあそうだろう、こんな目立つ風貌が複数あれば、気付かない方が難しい。リオレウスの視力は非常に優れており、的確に脚の爪で襲い掛かる行動が、その証拠である。
ハンターでさえ命を落とすのに、何の装備のない一般人が竜と鉢合わせたら、何をすべきか。それは当然、考えるまでも無い。

「よし、ノワール。撤収だ」
「了解した」

大空でホバリングしていたリオレウス亜種の目に、獲物を狙う凶暴な光が宿る。
は紙とペンを全てまとめて握り締めると、腰に巻いたポーチに手を掛ける。
リオレウス亜種の顎から、紅く滲んだ火の粉が漏れた。すう、と大きく域を吸い込んだ動作を、鋭く見定めた はポーチから取り出したそれを上空に向かい全力で放り投げた。
――――瞬間、弾け飛んだ閃光が、周囲を白く貫いた。
ギャオオオ、と苦しげな悲鳴を上げて、リオレウス亜種は上空より落下し、眼下の地面に横たわった。視力の高さゆえに、閃光で一時的にそれを奪われた王者はバランスを崩し、目を回している。あの高さから落下しても何の負傷もないのは、さすがは強靭な肉体である。

「こういう時、元ハンターで良かった」
「全くだ、さあ早く」

は帽子を被りなおし、鞄を拾い上げて走り出す。その先を行く赤いギルドネコ装備のアイルーも、まったく日常茶飯事であった為に笑みを浮かべるまでに余裕を持っていた。
うむ、研究所などに勤めていれば、こうも自由に自然を謳歌出来ない。やはり人間、こうでなくちゃな。

経歴、元ハンター。その後、研究所に勤めたが早々に辞職。
現在は、孤島モガの村より離れた海岸部に居を構え、趣味と銘打ったモンスター観察に溺れている。

そんな変わり者―― の日常は、やはり少々変わっているのであった。



男主の話も、スタート。
元ハンター、研究者まがいな事をしながら「趣味だ」と言っている変わり者。もともと、モンスターの観察が好きだったんです。
男主の設定についてはずっと考えてあったので、ようやく書く事が出来て安堵です。

と、言っても、これも長編などは特に書かずに、短編のシリーズ感覚で書き散らかしていこうと思います。
他にも色々隠し要素はあるのですが……もう大体分かったようなものです(笑) 友人とか、側にいるアイルーとか。

その辺りも含めて書いてまいりますので、どうぞ宜しくお願いします。
念の為付け加えますが、【男主=BL夢】ではないので、ご了承くださいませ。


2012.07.05