神様、あの人は今何処で息をしていますか

現在より二年ほど前に、ユクモ村専属ハンターとなってやって来たレイリン。
夢一杯に足を運んだその地で、ドスファンゴより手痛い歓迎を受けてハンターデビューを飾ったその日、彼女は既に居た先輩ハンターに弟子入りを志願した。運が良かったのか悪かったのか、そのハンターは腕が立つもののドSと評判な男で、はっきり言って彼女は以後狩猟よりも恐ろしい目に遭わされてきた。
初めて来た地に平気で置いてけぼりを食らわせたり、二頭同時狩猟のただ中へ放り込んだり。彼女の生活を聞くものたちは皆決まって、「お前よほど強運を持っているんだな」と彼女の奇跡的生還を畏怖していた。
かくして、上位狩猟に挑む資格をようやく手に入れたわけだが、もともと彼女は何もないところで平気で転んだり、顔面から落下してみたり、片手剣を握ったらバックラーは彼方へ吹っ飛んでいくような、ドジっ子を超越したドジっ子っぷりを如何なく発揮している。よって、彼女に対する周囲の評価としては、「よくハンターをやっていられるな」というものであった。
レイリンのとりえは何か、そう彼女の師であるハンター――影丸へ尋ねれば、へこたれない根性と裏表のない平さ、らしい。

そんな彼女がハンターになる以前の、訓練所通いの時もまた、凄まじかったのは言うまでもない。
自称・情熱と優しさのナイスガイと言っている教官も、「あれがハンターになれた事は今も不思議でならない」と言わしめるほどの、数々の武勇伝を打ち立てている。

……はっきり言って、レイリンは、ハンターになるには非情になりきれないし、割り切る事も不可能なお人好しだ。それが彼女の美徳であり、愚かでもある性質だが、過酷な世界でそれは常にレイリンの命を危ぶませる。
が、それでも、彼女は誰に何を言われようと、何度涙を流そうと、決して「辞める」と言った事は無かった。でなければ今現在、影丸になお付いて従おうとはしていないだろう。
彼女を、そうまでさせている理由……それはもちろん影丸を師として慕う心もあるが。
少なからず、彼女がハンターを志す切っ掛けも、起因している。



レイリンの実家は、辺境の中にあっても、さらに辺境の地であった。
昼は太陽の焼け付く熱の大地、夜は凍てついた月と空気に凍える大地の、厳しい《砂原》。広がった砂の大地をさらに進むと大砂漠へと行く事が出来るが、このような場所へ向かう人間など滅多に存在はしない。
乾いた地帯の中でも、比較的緑があり水源にも恵まれた土地に、ごくごく小さな村があり、レイリンは其処で生まれ育った。砂原のただ中でないとはいえ、自然の環境というものは厳しく特に昼夜の変化は言わずもがな。だがそれでも、自然が厳しい分だけ人と人との繋がりは穏やかに深まっていて、村が一つの家族のような状態だった。
そんな心恵まれた場所で生まれたレイリン。彼女の実家は父と母、レリインを含んで七人兄弟の暮らす、いわゆる大家族。レイリンは兄弟の中でも三番目の長女として生まれ、兄を二人と四人の弟や妹を持つ。レイリンが母の手伝いをしながら過ごしていた時、兄二人はすでに十八歳を超え働き盛り。父も出稼ぎに出て、とにかく女手が少なかった事と末の弟と妹がまだまだ赤ん坊であった事もあって、家事云々は全てレイリンが行っていた。当時の年齢でも、十歳あるいはもう少し低い程度の少女の年齢であったが、彼女はそれを苦に思った事もないし、家の手伝いをする事もむしろ好んでいた。遊ぶ場所も限られている、特に目立った観光地でもない、買い物の出来る店だって遠くの街にまで行かなければないような、田舎。それでも、この場所で生きていく事に、レイリンは何の不満も抱いていなかった。


――――― あの日突然、モンスターが現れなければ。


縄張りであるはずの砂原の地帯から外れたある大型モンスターが、村の近隣で確認されたという。
当時幼かったレイリンも、その姿を遠目で目撃していた。
そのモンスターの名を、ティガレックス。しかも黒い鱗を持った、原種よりも凶悪かつ凶暴な、亜種であった。モンスターの存在を、彼女とて知っていたが、遠目に見たモンスターがどれだけ恐ろしい存在であるのか分からなかった。
レイリンの父はハンターをしていた経験もあって、砂上船を操る船仲間やそれなりに鍛えた若人を連れていった時、勝利を手にして帰ってくる事を疑わなかった。
だが直ぐに、彼らは帰還した。全員、大怪我を負って。
この時彼女は学んだ、モンスターという生き物は、一般人が容易に立ち向かえるほど呆気ない存在ではないのだ。現役を長い事退いた、彼女の父などでも。

村の人々は会合を開き、この事態をいかにするか話し合いを行った。
もともと小さな村で多くの貯蓄があるわけではない、いっそ村を捨てて別の地で生きるか、だがかといって未来のある子どもは村にたくさんいる、易々と移動などしてよいのか。
結局、彼らの命には変えられないと、モンスター狩猟の大御所であるハンターズギルドへ依頼を出す事になった。何とか金銭面を皆で持ち寄って工面し、この村から遠くのギルドへ文と依頼を郵送した。
大砂漠のただ中である、砂の大都市《ロックラック》……この大陸の、ギルド総本部のある都市だ。依頼を出して返事が来るまで数週間と経過しており、その間で村は一層ティガレックス亜種の脅威に晒されるようになり満足に村の外へ出る事も叶わなくなった。
むしろこの間で大変だったのは、レイリンの父であった。大怪我したくせにピンピンとして「俺ぁまた行く!」と松葉杖を振り回して、宥めるのに大変だった。其処はレイリンの母の、鉄拳制裁で黙らせたが。
ただ、兄たちの漏らすもどかしさと、下の兄弟たちの隠せない不安……レイリンは、何も出来ない事に歯がゆさを抱いた。

それでも、あのモンスターを退ける人間が、本当に存在するのだろうか。
依頼書を掲載したところ直ぐにハンターが受注し、現在向かっている最中であると、ギルドからの返答にそうあったらしいが、もし彼らが本当にモンスターを倒すのならば……一体どのような人だろう。
期待と不安の鬩ぐ心の中で、レイリンはまだ見ぬ《ハンター》というものを思い描いていた。
遠くで、凶暴な竜の怒号を夢に聞きながら。


そしてついに、沈黙した小さな村に、ハンターが現れた。
村人たちは皆、その姿を見ようと集まった。レイリンやその兄弟たちもまた、大人たちの陰から覗き見ていた。
ゴトリ、ゴトリ。車を引っ張って進む二頭のアプトノスが、村の入り口を潜る。積み込まれた荷駄の多くは、村ではまず見る事のない大樽や様々な道具が覗いており、レイリンはもちろん上の兄たちも息を飲んだ。だが大人たちの沈黙は、恐らく別の意味であったのだろう。
立ち止まったアプトノスの背から、ひらりと飛び降りた二人の人物。ガシャリ、と音を立てて二人は集まった村人たちに向き直った。一方は、深紅の竜の鎧、もう一方は海を思わせる蒼の鎧を纏っていた。長閑な村には到底似合わない、物々しい気迫。二人の背負った武器もまた、普段使う包丁なんか目じゃない鋭利さが輝いていた。
どちらとも、伸びやかな身長と体格に恵まれており、外見から男性である事は分かった。

だが。

たった二人。
たった、二人なのだ。

それも……。

「すまない、今回こちらから依頼を受けたものだが、一晩泊まらせて頂いても宜しいか」

――――― 若い、声だった。

村人たちは正直、驚いた。そして、絶望も抱いた。
若いと言っても二十代前半、だが一度ティガレックス亜種に挑んだ男たちよりも遙かに若い。
こんな、こんな若い男が、本当にあの凶悪な竜を狩猟するのか。狩猟出来るものなのか。
ハンターがやってきた歓喜は、すぐさま不安にかき消された。複雑な空気が漂い始めた中、その場にいたレイリンは。
何と形容してよいのか分からないほど、震えていた。
初めて目の当たりにするハンターという人間の、纏う防具と空気。恐怖にも似ているが、けれど興奮にも近い。大人たちが声を潜めて不安がる光景など目に映らない、これからモンスターと戦いに行くというのに不思議な冷静さと静けさがある。よっぽど村人たちの方が不安にさせてくるのに、彼女は幼いながらに思った。これがハンターかと、あの竜と戦うものかと。

「わあ……」

レイリンは、兄の服を掴みながら、瞳をキラキラさせた。
その時、蒼い防具を纏ったハンターは、レイリンの漏らした声に気づいたらしく、彼女へと顔を向けた。頭部をすっぽりと覆う防具のおかげで、顔なんて見えやしなかったが、軽く手を上げて首を傾けた仕草に……笑みを向けられたような、気がした。
レイリンは恥ずかしくなり、パッと兄の後ろに隠れた。

蒼い鎧の男性は、「ふむ」と声を漏らし、手を下げる。

「……ん? どうした」
「いや、なに、可愛らしいお嬢さんに挨拶をしただけだ。友人よ、気にするな」

蒼い鎧の男性は、そう笑みの混じる声で告げた。深紅の鎧の男性は不思議そうにしたが、ともかく一晩休ませてもらえる場所はないか再度村人へ尋ねた。

かくして、モンスター狩猟の為にやって来た、二人のハンター。
レイリンはその日の夜まで、興奮が収まらなかった。
だが村で持ち上がっていた話といえば、本当にあの若い男二人だけでティガレックス亜種を狩猟出来るのか、という事だった。
いくらモンスター狩猟専門といえど、あんな若造じゃあと誰もが不安がっていた。
だがこの中でもやはり異端だったのは、レイリンの実家である。
大怪我したくせにピンピンとしている父は、「狩りに行くからには信用せにゃならん、それがハンターだ!」と腕を組んだものの、一度負けているのは彼本人である。とはいえ、もともと細かい事は気にしない豪快な部分が多いので、二人のハンターの寝泊まりする場所を確保したり何だり走り回っていた。本当に、大怪我が嘘のような動きっぷりである。
兄たちもハンターへ興味を抱いているようだったものの、いざ現れた物々しい存在に気後れしているようなのがレイリンなりに察した。
……が、彼女は幼少期から、ともかく疑念などの負の感情からは無縁であった。

その日の晩、レイリンは村を助けに来てくれたハンター二人へ、手作りのお菓子を作って持って行った。彼らは、村の小さな空屋で一晩明かすというので、家族にそう告げて家を出た。変に物怖じしないのは、この頃から健在していたのである。
レイリンは小さな身体で、腕を目一杯上げて扉を叩く。お菓子を抱えて、ドキドキと待っていると、直ぐにその戸が開いた。ぼんやりと灯った橙色のランプの明かりが、家屋の中からそっと漏れる。軋んだ音を立てて開いた扉の向こうには、レイリンが思い浮かべていた人物像とは異なる人が佇んでいた。

「……ん? 君は」

レイリンは見上げて、思わず口を半開きにした。
年齢は二十歳ほどだろうか、すらりとした背丈に相応しい、精悍な顔立ちの男性がレイリンを見下ろしていた。ゆったりとした衣服を着ており、鎖骨と胸元が覗いていて、其処から既に鍛えられたがっしりとした肉体が伺えた。

「え、え……ッ?」

幼いレイリン、思い浮かべていたのは鎧姿のハンターであったのだが。
目の前の男性は、その要素がない。
もしや間違えたのか、と思ったのだが、不意に男性が「おおッ」と手をポンと合わせる。

「お嬢さん、昼間の子か」
「え……う……?」
「ほら、私が手を上げたら、お兄さんかな? 後ろに隠れてしまっただろう? 覚えてるかい」

にこり、と笑って、男性が手を上げる。その仕草を見てようやく思い出すと同時に、この目の前の男性が蒼い鎧を纏ったハンターであった事を知った。
すいません、すいません、と謝るレイリンの頭をポンッと叩いて、男性は気にする風でもなく腰を屈めてしゃがんだ。

「それで、どうしたのかな。私に何か用でも?」

レイリンは慌てて、抱えていたバスケットに納めたお菓子を差し出す。差し入れである事を男性は察すると、ありがとうと笑って、玄関から出ると扉を閉める。直ぐ側の石垣に座り込むと、レイリンを隣に座らせてバスケットの中身を見る。「後で、友人と一緒にありがたく食べさせてもらうよ」と言った。

「お友達さん……だったんですか? あの、赤い鎧の人」
「まあねえ、なかなか付き合いの長い友人だ。今少し外を見に行っている」
「……大丈夫、なんですか?」

ここしばらく、夜になるとあの凶暴な鳴き声ばかりを聞いていた。レイリンの大きな目が微かに不安に揺れると、男性は「ああ、あれは全然平気」とあっけらかんと返してくる。

「多分村の周りには、もう居ないだろうし。砂原の方に追い込まれているだろうさ、ティガレックス亜種は」
「え! そうなんですか?」
「ギルドも無能じゃない、狩猟区域に追い込んだら、後は私たちの仕事だ。友人は、それの下見かな。多分」

早々には死なないさ、あれで村つきのハンターだから。
男性が言う傍らで、レイリンは「そうなんですか」とぽやんと笑った。この時の彼女には、男性の言葉の意味をあまり理解はしていなかったのである。

「もっとも、村の周囲から居なくなっただけで、モンスター自体は元気でいるがね。まあそんなに心配するものじゃあないよ、お嬢さん」

男性の顔に、笑みが浮かぶ。さっぱりとした笑みに、レイリンは気恥ずかしさを感じつつも「はい」と頷いた。

そよそよ、と吹いた夜風は肌寒かったけれど、今は丁度よい心地よさで包んでくる。しばし静寂が漂ったけれど、レイリンは思い出したように呟いた。

「……あの、ハンターさんは、明日モンスターと戦う、んですよね?」

男性は、笑みを変えない。「うん? まあ、そうなるな。その為に此処に来ているのだから」

「……あの、お父さんは、怪我をして帰ってきて……ハンターさんは、大丈夫なんですか」

小さな手が、キュウッと握られる。
男性はレリインの頭を見下ろし、頼りない握り拳へと視線を下げる。

「……ふむ、そうだね。大丈夫か大丈夫じゃないかと言えば、多分大丈夫じゃないだろう」
「え?!」

何を言い出すのだとばかりに、レイリンは顔を上げた。が、その先にある男性の横顔は絶えず笑みを浮かべていた。

「……お嬢さん、モンスターはどういう存在だと思う?」
「えっ?」

急に尋ねられ、レイリンは言葉に詰まる。オロオロとしていたが、彼は答えを求めずに「これは私の考えだが」と続ける。

「人間が容易に立ち向かう事の出来ない存在、自然と等しい存在であると、私は思っているよ。
ハンターと言っても、死ぬ事だってあるし、常にその危険は付き纏う。そう、誰であっても。それがモンスターだ。今回お嬢さんの村の近くに来てしまった竜も、容易に立ち向かえる相手ではない。
――――― だがそれでいいと、私は思う。人は恐れを感じなくなったら、死んだのと同じだ」

男性の横顔から、笑みが消える。眼差しに真摯さが加わり、冷えた藍色の景色を貫くようだった。

「それでも人はあらがうものだし、高すぎる空と厳しすぎる大地に生きる。命を懸けて、挑むようにね。
……モンスターに悪意は無くとも、ハンターは殺さなければならない。それが、世知辛いところだ」
「……ハンターさんは、戦いたくないんですか?」

レイリンの疑問を、男性は微かに笑って、首を振った。

「戦いたいと思うから、困るところだ。人間では容易に勝てない存在であるはずなのに、そのモンスターを殺してしまう。何事もなければ、それで良いのに、中毒のように狩猟へ行きたくなる。恐ろしい職だよ、ハンターは」

だけど、と付け加えた時、男性の大きな手がレイリンの頭に重なる。

「ハンターとして此処に来たからには、村に危害を及ぼす竜は討ち取る。絶対に。
だからお嬢さんは、信じて待つだけでいい。君の村が、また以前のように平穏になる事を。私たちの事など、心配してはならない」

そう笑っている男性の横顔に、レイリンは言い難い感情が込み上げてきた事を幼いながらに理解した。
「さ、夜も更ける。家に戻って寝ていなさい」男性はバスケットを持ちながら立ち上がると、レイリンの帰路につく背を見送った。
レイリンは彼を振り返りながら、小走りで自宅へ向かう。だが、その途中ふと思っていた。

明日、戦いに挑むハンターたち。彼らは、どのように思っているのだろう。
村の期待と不安、命の危機を救う使命、凶暴な竜に向かう意味。
この時のレイリンに、そのような難しい事分かるはずもないのに、その日眠りにつくまでずっと覆い被さってきた。

……男性が言いたかったのは、何なのだろう。
危険だと分かっていながら、彼はどうして挑むのだろう。

その日の夜から、絶えず聞こえていた竜の咆哮が、消え去った。

そして朝方、レイリンが男性の泊まっていた家を尋ねた。
其処に彼らの姿はなく、道具も、アプトノスの馬車も、なくなっていた。ただ、がらんどうになった家屋の中、ひっそりと置かれていたバスケットを見つけ、レイリンはそれを持ち上げる。空っぽのその中には、綺麗な羊皮紙が一枚入っており、それをそっと取って見つめる。


――――― 友人とアイルーたちと一緒に、食べさせてもらった。
とても美味しいお菓子をありがとう、お嬢さん。


レイリンは居ても立ってもいられず、家を飛び出す。村の外にまで走ると、微かな緑が点在する広野を見つめた。其処から、ハンターたちの居るであろう砂原はもちろん見えやしない。けれど、その遙か彼方で、もしかしたら既に彼らは竜と相対しているのかもしれない。

「……ハンターさん」

少女の脳裏に、蒼い鎧を纏い、剣を担いだ狩猟者の姿がふと浮かんだ。



――――― レイリンがもしも、ハンターと直接会っていなければ。
現在その職につこうと思わなかっただろう。
あれから彼女も成長し、男性が何を言おうとしたのか、朧気ながら分かるつもりだ。
村を救う為、自らの為、村を危機に晒したティガレックス亜種という竜に立ち向かったハンター。
あれから彼女は、彼に会った事はない。およそ八年ほど……彼は、現在どうなっているのだろうか。


「……旦那様~! 出かける時間ニャ~!」

オトモアイルーのコウジンに呼ばれ、レイリンは机から立ち上がる。「はーい!」と返事をし、彼女はしばし机上の写真立てを見つめ、そしてそっと閉じて本棚に隠す。パタパタ、と駆け足で階段を下りて、玄関を飛び出す。
この日もユクモ村は、晴れやかな空に恵まれ、紅葉の色が美しく映えていた。



――――― 余談であるが、彼女の村にやってきたハンター。
数日間にも及んで竜と戦い抜き、見事勝利をおさめて帰還した。それぞれの活動拠点に帰る前に、彼らはレイリンの村へ顔を出し、その証拠として討ち取った竜の鱗を数枚納品した。
後にその鱗は、たまたま村にやってきた商人へ売り払い、村の財源を多大なまでに潤した。

「言っただろう、お嬢さん。君は勝利を信じて待てば良いと」

ぽん、とレイリンの頭に重ねられた手はやはり大きかった。
立派な装備には幾つもの爪痕と土埃がつき、竜との戦いがいかに激しかったのかまざまざと見せつけた。
歓喜にわく村人たちの中、レイリンはただ一人泣きそうになっていた。
救われた喜びと、彼らが無事に戻ってきた安堵。
ぽんぽん、と叩く手が、酷く優しかった。

これも何かの縁だと、村人の一人が何処からか写影機を取り出して、記念撮影なんぞ始めた。
その時、レイリンは蒼い鎧の男性に抱えられて、写真を撮った。


ちなみにその写真は、レイリンがハンター訓練場の生徒時代から現在の村専属ハンターになるまで、しっかり持ち出され机の上に飾られている。

変に緊張した面もちで、軽々と腕に抱えられた少女と。
蒼い鎧――ラギアクルスの素材で作られた防具を纏う、男性。
古びた写真の裏側には、日付がしっかり刻まれている。そして、ラギア装備の男性―― の名も。



という話を、妄想してみたんです。
男主がハンターだった時のエピソード。こんなの、あったら良いなあ。

この場を借りて、女神あずみさんには平に謝り倒します。
すいません、妄想止まりませんでした!
以前の夜狩りの際に、話していた事がカッとなりました。レイリンちゃんの実家と家族は、こんな感じじゃないかと。母強し。


2012.07.08