もしも夢主が……

――――― これもまた、一つの物語の結末であったのだろう。

七年前の凶事。
温泉地と名高いユクモ村から、とある一人のハンターが消えた。

ユクモ村を突如脅威に晒したジンオウガを退ける為に、技量を見誤り無鉄砲に挑んだ新人ハンターと。
そのハンターを救うべく我が身を差し出した、とある村を長い間守り抜いた腕利きハンター。
その後、ギルドの情報操作と隠蔽により英雄とし世に名を広めた新人ハンターは、自らを恨み、それまで抱いていた青臭い正義などを全て捨て、獣となり修羅の道を突き進んだ。
彼の窮地を救うべく我が身を差しだしモンスター共々崖から滑落した腕利きハンターは、自らの死を恐れて再び立ち上がる奇跡を願い血溜まりの中あるキノコを口にしたが、神から見放され獣の姿となって世界を彷徨った。

それからおよそ七年もの長い時間の間、双方がそれぞれの後悔と憤りを抱えた。

だが、彼らは全ての起因にして因果となった、渓流にて巡り会い決着した。
およそ、七年の長い時間を経ての、邂逅であった―――――。


その物語に、少なからず関わっていた、桜色のアイルーである
一体どうしてか未だ不明であるが、ゲームの世界であるはずの《モンスターハンター》の世界にやってきたが、彼女もまた人間の姿を失いアイルーの姿となって渓流で過ごす事になった。
そうして、ユクモ村の人々と知り合い、そして二人のハンターの因果に関わり、彼女も物語の集結を迎えた。

何が起こるか分からない、未だ成分の解明が進んではいない不可思議な植物……ドキドキノコ。
かつて腕利きのハンターとして村を何年もの間守っていたセルギス―――最大金冠の手負いのジンオウガと共に、再び奇跡が起きる事を願いそれを口にした。

夜を迎えようとし静寂に満たされた仄青い渓流で、叫んだ二匹の願い。
世界は、それを聞き届けた。
セルギスはジンオウガの姿という呪いを払い、再びかつての人間の姿を取り戻し、人の営みの中へ戻った。

それを、は純粋に嬉しいと思う。
七年もの間、突如反転した世界で生きて耐えたのだ、神とやらが存在するのであれば間違いなくそれを認め受け入れてくれたのだろう。

……であれば自分は、まだそれに至らないからかもしれない。
この自然でもっと多くを学べと、そういう事なのかもしれない。

人の姿に戻ったセルギスを、は遠くで見つめて思った。
同じものを食べたには、セルギス同様の奇跡は起きてはくれなかった。別の生き物にも与えてくれるほど、世界は優しくはなかったらしい。


――――― 私の身に奇跡は起きなかったけれど、これはこれで、良かったんだよね。


もちろん、直ぐにはそう思えず衝撃をしばらく受けたけれど。
長らく人間の姿を失っていた為か、存外諦めも早くついた。逞しくなくては生きてゆけない自然の中で暮らした賜物だろう。神経が図太くなった事で、もうこれ以上の凶事も起きないだろうと早くに切り替えた。

……もちろん、周囲の人物たちの反応の方が、彼女以上に大きかったが。

影丸とレイリン、ヒゲツとカルトは悲しそうに、或いは困惑するように、表情を歪めて。
セルギスは、人間の姿に戻った喜びを消して、にただただ謝罪していた。俺ばかりが戻って申し訳ないと、あの低い声で。
は幾つもの言葉と眼差しを受けながら、状況を確認して一瞬混乱に陥った心を宥めて、見つめ返す。

大丈夫よ。ショックだけど、これも仕方ないよ。
そういうキノコだった事は、私だって知っていたもの。

そんな慰める言葉も、もう今は失ってしまった。
喉から出る声は獣の鳴き声ばかりで、彼らに伝える手段の声も、表情も、今はドキドキノコのもたらした奇跡で全て遠ざかってしまった。
世の中、上手くいかないものだ。幾ら何でもこれは酷い。
だが、結局悲観しても変わる事なんか何一つとしてない事も、変わってくれる夢でない事も、もう随分前に知ってしまっている。

つまりは、今度は《この姿》でやっていく他無いのだろう。


――――― 大丈夫、アイルーの姿でも頑張れたんだから、これからだって頑張れるわ。


は、彼らの眼差しを受け止めて、静かに自身を見下ろす。
あの桜色のアイルーの姿さえも失ってしまった、今の自身を……―――――。



とあるお客様から頂いたご感想のお手紙に、「ドキドキノコ食後に、主人公が竜になったら面白いですよね」なんて申していたので。

いわゆる【憑依】ネタを取り入れてみました……!

いやアイルーも十分に憑依であるし、というか変身してるし、まあ根本は変わってないネタですが。

まだこの段階では、夢主が何に変化しているのかは分からないです。という事は、また管理人お得意の思いつきシリーズになりそうな予感。
飛竜になったり水竜になったり、もしかしたら鳥竜、オリジナルな竜、あるいは其処等のガーグァやケルビになってるかもしれません(笑)
女の子としては極力避けたい、悪食で食いしん坊なイビルジョーになるかもしれませんし。いやそれは最悪か。

あらかじめ、この話は思いつきによる【IF小説】である事を皆様にはご理解頂いて。
これはこれで一つの小説として、楽しんで下されば幸いです。モンスターへの憑依(変身?)ネタ、苦手な方はご注意下さいませ。


2012.10.01