恋をさがす話 5題


■ 欲情からはじまりますか
■ あなたの運命になりたい
■ 落ちる穴はどこです
■ 心臓が合図をくれる
■ ぼくにもできますか






■ 欲情からはじまりますか ( 原型傷ついたイャンガルルガ )


耳はもぎ取られ、クチバシはひび割れ、たてがみは千切れ、全身の至るところ傷だらけになった。
それでも他種族に対する闘争心は潰えず、むしろ傷が増えるたびに増長していき、ついには人間に手を出してしまった。
――――― それが、運の尽きだろう。
人間は自分の攻撃を全て避けた上で、携えた鋭利な武器を振りかざしてきた。
堅殻は砕け、足は折れ、翼は切り裂かれ、尾を奪われた。
辛うじて逃げ果せたが、強さを誇った自分がこんなみっともない姿で死ぬと感じた時。
途方も無く、情けなく思えた。
弱りきった姿を晒しただけでなく、自分の種を残せないまま死ぬとは。雄としての意地だけが、酷く急いた。

その時、身を隠した洞窟に、誰かが踏み入れる気配がした。
先ほどの人間だろうか、であれば今度こそ逃げられない。此の上は抗って散ってくれようと思い、最後の力で立ち上がった。

だが現れたのは……酷く驚いた様子の、人間の雌だった。

拍子抜けした。威嚇もしたのに、何の脅威も無さそうないかにも弱い人間の雌ときて……呆気なく、脚が崩れ落ちた。落胆にも近い。
おかげで最後の力も、もう使い果たしてしまった。きっとこの人間は、先ほどの者のような人間を呼びに行くのだろう。
グルル、と呻いた声が、冷たい地面を這った。
だが、その人間の女はうろたえるばかりで一向に動かない。一体何だと見やる、その次の瞬間、あろう事か女は近付いてきた。
ギョッとして、思わず痛み構わず飛び起きた自分だったが、ひび割れたクチバシに小さな手が重なってきた。
そして、大丈夫かと、聞き慣れない柔らかい声で、話しかけられていた。


『――――― という訳だ、交尾しろ』
何がどういう訳だ。前の事引っ張り出してきたって、聞きませんからねそんなの」
『死ぬ間際、種の存続本能が高ぶってる時に手当てしてきたのは貴様だ。交尾しろ
「ちょ、かっこいい声で迫ってきても、貴方はイャンガルルガっていう鳥竜で……近ッ! しないから!」
『うるさい、どうでもいいから膝をついて後ろを向け』
「どうでも良いわけないでしょう! 同じ種族の女の子に言って下さい、そういうのは」
『断る』
「うわ、ちょ、いった! クチバシで叩くのは禁止よ! あ、やだってば、乗っからな……お、重……ッ」

……今回は、無理矢理でも念願の交尾にもつれ込めそうだったのだが。
ピカピカ光る玉を至近距離から投げつけられて、目玉が潰れるかと思った。人間って怖い。

酷い仕打ちと激痛に、本物の涙がボロボロ流れ出てくる。
だが正面で、は悪びれもなく酷く怒っていた。

「――――― だから、相手が違うでしょう! もう、何で私なのよ」

……だから、何度も言ってるだろう。

『あの時現れた雌が貴様であって、この俺が番に選んだ雌だからだ』

本当の事を言っているのに、またも怒られる。人間は面倒だ、非常に。

……だが、こいつは恐らく、気付く事もないのだろう。
どうして今も尚、尾無しのみっともない姿で生き延びているのかを。

あの時、本当に自分は死を予期していた。
けれどその哀れな間際で覚えた、ちっぽけな温もりと、穏やかな小さな手。

欲しくなった。
例えそれが言葉を理解する奇怪な、それも何度も争ってきた人間であったとしても。
欲しくて、たまらなかったのだ。

今も、それをずっと抱いている。変わらず、一切の熱も引かずに。

『ともかく、交尾しろ。次は何時死にそうになるか分からん』
「嘘つけ! 傷だらけで尻尾も無いのに、ピンピンしてるじゃない!」
『明日には死んでるかもしれん』
「さっきリオレウスと喧嘩して勝ったの、見てますからね」
『……』
「無言で見ても駄目」

……何時になったら手に入るのか、皆目見当も付かないが。



▲モドル






■ あなたの運命になりたい ( 原型テオ・テスカトル )


「テオさんの炎は、綺麗ですね」
『綺麗、と……?』
「はい、綺麗です。人間が扱う火などちっぽけなくらいに、怖いけれど、綺麗」

曇天が覆う、濡れた空気の漂う沼地で、彼女は笑った。
鈍い色彩の世界で、湿った切り株に腰掛けたその人間の女は、何の緊張もなく構えている。その横顔は赤い粉塵の光で仄かに照らされ、まるで存在を湛えたようだった。

彼女は、綺麗とよく告げる。
この身に纏う陽炎の粉を、静かに見つめ、無防備の中に恐れと敬いを宿している。

そんな彼女を前に。
自分はただひたすらに、距離を保って離れて向き合う他ない。

……残酷なものだ。

彼女が綺麗と告げるこの粉塵のせいで、近づけば彼女の身体は燃えてしまう。こんな寒々しい距離を置かなければならない上に、これ以上近づく事も叶わない。
――――― 絶対的な、一線。
こんなちっぽけなたかが人間の女の為に、自分はそんな残酷なものを知る事になろうとは。

『そうか……そのような事を云う人間は、お前くらいだ』
「そうですね、きっと、私だけです」

耳に届く、同族とは異なる柔らかな声。

それをもっと、近くで聞ければ。
彼女の身を焦がす粉塵に照らされる頬に、触れられれば。

それも、叶わぬ願いか。野で生きる自分と、彼女には。

『……、私はお前にとって《綺麗》な存在か?』
「え?」
『《綺麗》なだけで、終わる存在か?』

彼女が、不意に困惑の表情をした。意味を理解は出来ないだろう。正直、自分も未だ分からないのだから。

『……いや、忘れろ。私もよく分からん』

グルル、と喉を鳴らして地に伏せる。ずしりと音を立てて横たわる四肢の向こうで、彼女が不思議そうに首を傾げた。
この姿を同族が見れば、気でも触れたかと笑う事だろう。だが、好きなだけ云えばいい。私と彼女の間にあるのは、唯一繋がる言葉しかないのだから。

「テオさん……?」

遠くで響く、彼女の声。この距離から、近づく事は決してない。

分かっていながら、どうして自分は―――――。



▲モドル






■ 落ちる穴はどこです ( 原型オオナズチ )


鬱蒼と茂り光さえも阻む深緑の海で、ゆるりと木々と木々の間を渡り歩く。その眼下で、自分の姿を探してキョロリと周囲を見渡す人間の女が佇んでいる。
無防備な頭の天辺を見下ろしながら、首を下げて背に近付く。
鼻先があと僅かにまで寄っても、女は気付かない。

くく、と小さく笑って息を漏らすと、ようやく気配に気付いたのか女は肩を飛び跳ねさせた。
音の無い沈黙の中に、葉音と風音が笑うように鳴り、樹海が微かにざわめいた。

『普段わしに挑む人間は、直ぐに気付いて攻撃を仕掛けてくるというのにのう。お主は、まるで気付かなんだ』

女は慌てて振り向いて、小さな身体で目一杯見上げてきた。その視線は、未だ空虚をさまよっている。それを悠々とひとしきり見て笑った後に、周囲と溶け込んでいた自身を晒す。
濃厚な樹木の世界に浮かび上がる、白と紫の体躯と翼を揺らし、キョロリと目を瞬かせる。
この姿を見つけ、ようやく女の視点が定まった。少しの憤りも込めて溜息を漏らし、通る声で告げた。

「ッもう。ナズチさん、吃驚しますから普通に出てきて下さいってあれほど」
『気付かぬお主が悪いわ』
「だって、そんな完璧に隠れられたら分かりませんよ」
『わしに挑む連中は、五割方気付くがの』
「一般人には難しいんです! しかも、プロでも五割って、難易度高すぎですから!」

そうやって声を大きくする様が可笑しく、ますます笑みを誘う。

『わし等の声を聞く者は、万能ではない、か。なるほどなるほど』
「もう……直ぐそうやって面白がって」
『わしがお主に興味を持ったのは、まさにその《声》だからのう』

ずるり、と樹木の上に横たえた身体を下ろし、女の前に降りる。

『わし等獣の声を聞く、人ならざる力。古の者たちが口々に語った、呪われた力とはその存在そのものを指した』

佇む女の周囲を取り囲むように、身体を寄せる。

『以前、話をしただろう。その昔、お主のように獣の声を聞いた人の姿の兵器の口伝を』

多くの始祖たちが、身を滅ぼし命を奪われた大いなる戦い。
あの戦いが嘘か誠か、今となっては知る由もない。けれど、今目の前にいるこの女は、その昔始祖が恐れ憎んだ存在によく似ている。
いや、そのものかもしれない。女が、それを肯定する事も無論ないが。

「ナズチさん、私は……」
『そんな話、覚えはない、だろう? くく、何度も聞いた』
「なら……」
『過去の真実は、疑惑のまま。未来の事実も、決して見えず。だが肝要は、お主のようなものが現在に存在するという事だ。
その昔、わし等と意志を交わした兵器たちと同じように。生まれも時代も、最早関係あるまい』

女の顔が、微かに強ばった。それを見下ろしながら、決して視線は外さず続ける。

『だが、わしが知りたいのは、まさに其処よ。
古のものたちは、どうして揃いも揃って馬鹿な感情に身を滅ぼしたのか。始まりを犯した王も含めて、な』

静かに身体を離し、再び体躯を透明にぼかす。女はあっと声を漏らしたが、振り向いた時にはもう木々の上である。
其処から見下ろした女は、やはりちっぽけで無防備、何の変哲もない人間であった。

『さて、お主はどうだろうな。

声を必死に聞き、姿を探す後ろ姿が、不意に振り向いた。
自分は見えていない、だが確かに捉えようとする真っ直ぐな瞳は。

悪くは、なかった。

ざわつく樹海の音の中に、自分の鼓動の音が混ざる。

『――――― いや、問うべきは、わし自身か』

知るまでは全く分からず、理解する頃にはもう遅い。
だが、自ら落ちてはならない穴を探してみるのもまた一興だろう。
人間に焦がれた獣の末路とは、如何なるものか。

我が身をもって、見てくれよう。



▲モドル






■ 心臓が合図をくれる ( 原型フルフル )


冷たく濡れた空気が満ちた洞窟には、幾つもの音が響いている。
水滴の音、水が流れる音、空気の通る音、外の騒がしい音。
自分の知る世界は、真っ暗の中の音と匂いだけであった。

けれど、その中に新たに加わった彼女の匂いと音は、自らの世界を拡大させた。

『すまない。此処は、寒いだろうに……私には、それを防ぐ、術がない』
「平気よ、寒くならない飲み物を飲んだから。フルフルが側に居れば、風が当たらないわ」

あらゆる音をはねのけて飛び込む、彼女の澄んだ声。
笑っているが、私には分かる……例えそういった飲み物を飲んでも、悴んだ響きくらい、聞き分けられる。

『……そう、か。ところで、さっきから』
「?」
『不思議な、匂い』

告げると、彼女は「ああ」と声を出し、ごそりと音を立てる。何か懐から出したのだろうか、途端に近付いたその不思議な匂いが鼻先で漂う。

「熱帯イチゴっていう、食べ物よ」
『ねったい……?』
「甘い食べ物、フルフルには小さいけど……食べてみる?」

ぐぐ、と首を持ち上げて頷くと、目の前にある不思議な匂いにかぶりつく。うっかり彼女の手も口に含んだが、牙を立てる前にペッと吐き出した。べちゃりと唾液が飛んでく。

「……うん、まあこれは気にしない。で、どう? 味は」
『新鮮なお肉の方が、美味しい。丸飲みした獣とか』
「……うん、そうよね」

急に声が低くなった。変な事を言ってしまっただろうか。
ごくりと一口に飲み干した後、「でも」と付け加える。

の方が、良い匂い』
「……え?」

飛び跳ねた振動が、平べったい翼に伝わった。
途端に、彼女の声に混ざって聞こえていた音が大きく鳴り響いた。

何だったろうか、この音は。

思い出せずにいると、隣で彼女はあわあわと手を振っているようだった。

「そんな事ないよ、私、多分美味しくないよ」
『……は不味いだろうから、安心して。でも、そういう意味ではない』

トク、トク。トク、トク。
早足になる音を辿って首を下げると、トスンと何かにぶつかる。
ああ、これは、彼女の身体だ。

「……どう、したの?」
『……いや、音が聞こえる』
「? 音?」

彼女は、口を閉ざした。「何も聞こえないよ?」と呟くけれど、自分には聞こえている。こんなに近くで、しかもはっきりと。
そうして、洞窟の中では決して嗅ぐ事のない、柔らかい暖かな匂い―――彼女の匂い。

『……私には、聞こえている。はっきりと』

世界の形も、分からない。
今居る場所の形も、分からない。
隣に座る彼女の姿も、もちろん分からない。

けれど、匂いと、音で、朧気な輪郭は想像がついた。
小さくて、細くて、きっと弱い人間の雌。それでも温かな血が巡り、生き物の豊かな脈動が絶えず聞こえ、匂い立つ甘さが彩りを添えられたような。

――――― ああ、そうか、これは彼女の鼓動の音か。

トクトク、トクトク。
一定の間隔で、鳴り響くその音は、絶えず鳴る雑音を押しのけていく。
静かに全身の力を抜き、小さく丸まる傍ら、寄りかかる微かな温もりの存在は、酷く安らいだ。
けれど同時に、激しい焦燥にも駆られた。

『……貴方に、包まれてるような、気がする』
「え?」

不思議そうに呟いて、「私、貴方より小さいわ」と笑っていたが、自分にとってはまさにそれだった。

覚えてしまった柔らかい匂いと、温もりと、音。
自分にとっての最も安らぐ世界が、目の前にあるのだ。

……これで、彼女を本当の意味で見えれば、何か変わるのだろうか。
触れて確かめてみれば、分かるのだろうか。

彼女の細い身体に頭を押しつける力が、僅かに増してゆく。
そしてその中に、自らの心臓の音も聞こえた気がして、言い様のない満足感が広がった。



▲モドル






■ ぼくにもできますか ( 原型ラージャン )


『……こんな場所に何度も来るなんざ、テメエはよほど物好きか馬鹿かのどっちかだな』

無造作に転がった岩の上、寝そべった自分の眼下で、は笑った。赤い頬を綻ばせて「多分きっと、馬鹿だと思う」と小首を傾げると、モコモコなフードを直して、積もった雪を払う。
珍しく大雪の降らない雪山の山頂付近は、空気が輝くほどに空も夕焼けに澄み、静寂で音も無い。その分、この人間の声もよく通ったが、此処まで無防備に出来るとは本当の馬鹿であると思う。

……あーあ、何で縄張りに入っても見逃したんだか。

普段ならば小さな獣だろうが竜だろうが、横っ面ブン殴って追い出し時に攻撃をしたのに、言葉を理解したものだから面白くて、つい気まぐれで逃したらこのザマだ。
他の竜も近付こうとはしない自分のところに、何度も足を運ぶようになるとは。

とは思いながらも、赤い頬で笑うにつられて、フッと鼻を鳴らし目を細めてしまう。
彼女は白い息を吐き出してクスクス笑っていたが、不意に振り返って視線を逸らした。

「わ……綺麗」

感慨深く呟いた、視線の先。
そこに在るのは、見慣れた雪山から見下ろす景色だった。
普段は灰色で雪ばかりが降りしきる山頂に、夕焼けの明るい色が澄み渡って輝き、穏やかな粉雪がちらちらと揺れる。
別に、どうって事はない景色で、自分の感覚からすれば敵を追い払った光景の方がずっと昂揚出来る。

『珍しく降ってねえが……そんな楽しいものでも無いだろう』
「まあ、そうだけど……」
『とっと帰れ。テメエみたいな軟弱な人間がうろつかれちゃあ、気が散ってしょうがねえ』

何度目になるか分からない言葉だが、相手も慣れたように「そうね」と云うばかりで動く気配はない。
のそり、と身体を起こして、岩から飛び降りる。近付いても人間は小さい生き物で、腕一本の太さにだって満たない。多分少し振るっただけで、呆気なく吹き飛んでゆくだろう。

「もう少し、見たらね」

彼女は云って、特に面白くもない空を眺めている。その横顔は、雪の微かな光を受けて―――――。
そこまで考え、思わず振り払う。何度も争ってきた人間という種族如きに、思う事ではない。

「? どうかした?」

尋ねられ、曖昧に返事を返す。不思議そうにされて気まずくなり、誤魔化すようにおもむろにをグッと片手で抱え上げた。というより、木でも引っこ抜くように持ち上げる。
途端に悲鳴が聞こえたけれど、無視して小脇に抱え、雪の降り積もった岩壁を軽く飛び越え登る。道中、絶えず喧しい悲鳴が聞こえていたが、目的の場所へ辿り着いて立ち止まり、無造作に自分の肩へ乗せてやると。
その喧しい声も、直ぐに引っ込んだ。

「わ……」

そうしてこぼれる、溜息のようなの声。

雪山のより高い場所へと移動し、周囲はもう山々の天辺しか見えず、取り囲むような赤い空が広がる。
案の定、彼女は馬鹿みたいに口を開けて見惚れていた。

『《きれい》なんだろう?』
「ええ、とても……」

そうっと、彼女の小さな手が、首の後ろに重なった。少し身を乗り出して見つめる様子を、斜めに見上げて伺う自分の肩は、妙に暖かい。ちっぽけで、小さくて、邪魔なはずの存在だが、くすぐったく撫でるようで。

……馬鹿らしい。

『これを見たら、とっとと帰れ。邪魔でしょうがねえや』
「ふふ……うん、そうね」
『本当に、分かってんのか?』
「分かってるわよ、もちろん」

言いながら、の手が自分の黒い毛を撫でる。

「ありがとう、ラージャン」

笑ってるような気がして、もう見上げるのは止めた。
不意に訪れた沈黙は、空気は凍えて静けさを纏っているのに、不思議と居心地よく暖かかった。

これも、何度交わしたやり取りだろうか。
結局、この人間……は、何度も雪山にやって来る。やれ薬草とかいう草が欲しいとか、やれ何かの石が欲しいとか、正確には覚えていないがその辺りの理由を引っ提げて。
そのくせ用事は早くに終わるのに、戻ろうとはせず結局自分が麓に運ぶまで居ようとする。

――――― 馬鹿野郎、テメエの居る場所じゃねえんだ。

何度も言い放ったのに、懲りる様子は無い。そうしている間に、自分まで人間の行いに感化されてしまったのか、付き合う羽目になった。

――――― とっとと、帰れ。お前みたいな奴は直ぐ野垂れ死ぬ。生きていたきゃ来るな。

最初は、突き放す為。
だが、今は意味を違えている事くらい、自分にも分かった。
それでも、それを認めてしまうわけにはいかず、今も同じ言葉を告げる。

『早く、帰れよ。

でなければ、自分はこれ以上野で生きる獣の範疇を超えてしまう事になる。
面倒くさそうに告げる傍ら、内心では今も一種の焦りを覚えている。
闘争意外に、気が昂揚するとは。意地でも、明かしたくはなかった。

「うん、そうね」

……本当に分かってるのか、心底疑わしい言葉である。
だが、それを聞きながらも「馬鹿野郎」というばかりで一向に放り投げられない自分は、この日も彼女に付き合っている。


……認めるわけにはいかない。
多くの竜も、武器持つ人間も、打ち勝ってきた自分が。

たかが小さな人間の女に、焦がれるなんて。



▲モドル

お題サイト【is】様より、【恋をさがす話 5題】でMHP2G。
タイトルで連想させるのが、お題サイト様の真骨頂ですよね本当。
あれ書きたいこれ書きたいってなったら最後までモンスター選びに苦戦してましたが、このメンバーに落ち着きました。

個人的イメージは、こんな感じです。

○イャンガルルガ → かっこいいけど、かっこ悪い。所詮鳥竜のコミカルさが抜けない。
○テオ・テスカトル → 本当はアグレッシブだけど、夢主が近くにいると大人しくならざるを得ない。
○オオナズチ → アリスのチェシャネコみたいな、質問を質問で返したり謎かけみたいな事をする気まぐれ屋。
○フルフル → 少々言葉は拙く、中性的な口調。が、食べる時と戦う時は急にリミッターが切れて暴れん坊に。
○ラージャン → 悪になりきれない悪。でも見た目の通りやんちゃ者、雪山の生き物は大半彼に殴られてます。

いやあ、MHP2Gは良いですね。今も楽しいよ。MHP3で温くなったら、是非MHP2G。

( お題借用:is 様 )

2012.11.23