我に与えたまえ、天穿つ力を

妖怪跋扈し、衰退する雅の都、京。
朱点童子なる大鬼に脅かされた世を救うべく、立ち上がった武士たちは討伐に向かう。だが、誰一人として戻ってこず、骸となって朱点童子の居城へと朽ちた。

朱点童子の打倒を願うなか、ついに居城の朱点閣に辿り着いた一組の男女が現れる。

源太、お輪の夫婦である。

だが、待ち受けていたのは朱点童子の卑劣な罠。
源太は倒れ、お輪もまた幼い赤子を人質に取られ、我が子の命と引き替えに自ら囚われの身となった。

卑劣な朱点童子は、赤子に呪いを刻み解放した。
絶望的な、呪いを。

――――― 短命と、種絶の呪い。

朱点童子は高らかに笑う。
だがその赤子を、見放す天は無かった。
赤子は、神々の力を借り、子を残し、短い生を力の限り歩んだ。

打倒、朱点童子。

掲げられた一族の宿命に、朱点童子は自らの存在が脅かされる事など、この時気づきもしなかった。
もちろん、この宿命の裏に幾つもの思惑と人物関係がある事を、一族は知らなかった。



――――― 始祖から受け継がれてきた血と共に、刻まれた本願。
絶望的な呪いを、受け入れ、抗い、そして一族の下には屍と流れた血と涙が積み重なっていた。
呪いに閉ざされた未来、歪められた刻、解放する手だては朱点を滅ぼすのみ。
それだけが、宿願だった。


……先代、先々代の猛者と当主が語り継いできた、宿願の言葉。
このような間際で過ぎるなんて、もっと気が利いたものを流してくれれば良いものを。いや、それこそ我が一族だからこそ、なのかもしれない。
見上げた天井が掠れる。床に伏せた身体が、力を失うのを覚える。

「……イツ花」

眼鏡をかけた少女が、切なく表情を歪ませ、覗き込む。

「イツ花は此処に、おりますよ」

――――― 明日をバァーンと、信じましょ。
いつもそう言って、朗らかに笑う彼女の声も、今は沈んでいる。少し可笑しくなって、笑みがこぼれる。
自分は、短命の一族の者として、何か大切なものを残せただろうか。
尋ねようとし、口を閉ざす。それを聞くのは、もう自分ではないのだ。残す残さないは別とし、これからさらに築いていく。命も、歴史も、一族の絆も。
イツ花をしばし見つめ、ふっと瞳を細める。

「……今まで、ありがとう。短い間であったはずなのに、イツ花には本当に世話になった」

……打倒、朱点童子。一族の宿願は、あの世で見守る事にしよう。

呪われた一族に生まれ、僅か一年と数か月。それでも懸命に生きたその人は一族の血脈を受け継ぎ、数多くの武名を残した。
……そして、神にも近づこうとした最初の力ゆえに、その人の御霊は天界へと召される。氏神となり新たな名を受け、神々の派閥にも影響を及ぼすほどの筆頭となるのだった。



【俺の屍を越えてゆけ】の、共通プロローグ。
いきなり死亡話で暗いですが、これで可愛い女神とかっこいい男神と仲良く出来る。
視野の狭い欲望が、ちらりと見え隠れ。

主人公の、人間の時の話と、その後の氏神の話を、書いていきたいなと思います。色んな神様いるから楽しみ。うふふ。
暗くなったり、甘くなったり、忙しない話になりそうです。

ちなみに管理人はゲームプレイ済みなので、実際のプレイ模様がちょいちょい出てきたりします。俺屍はロマンである。
また、氏神の名と、一族の名字は、固定になると思います。
ので、気に入らなかった場合には脳内フィルターをかけて下さいませ。
( 名前変換メニューを新たに設置するには……ちょっと大変なので )


2012.04.08