憧れていたけど、これはないと思います

女官は、憧れの仕事でした。
華やかな宮廷に奉仕する……という点ではなく、裏方の仕事でしかも給料が良く、何よりいかにも女の子っていう響きがあったからです。自分が女の子という年齢を当に過ぎていることは理解していますが、そこは気にしません、女にとっては永遠の憧れです。
私の家は、武術指南場……いわゆる道場です。庶民街にありますが、気品ある豪族の方々ですとか名の通る武将の方々もお見えになるため、どうやら大きくそして有名な道場のようです。もちろん、庶民街の子ども達も学べる場所であり、それが両親の目指しているもののようです。
なんでも、私の両親は昔は有名な武将と女傑だったらしいのですが、結婚を機に大胆にも現役引退して道場を建てたとか。もっと広く民も学んでも良いのではないか、と考えての結果らしいのですが、その時にあった地位を失ってまで建てるのですから並々ならぬ情熱の賜物でしょう。しかしながら、そんなことをしてよく当時の君主に殺されなかったものです。君主も、二つ返事でOKサイン出してくれたとか。今でも不思議なことの一つにあげられます。
幼い頃からそんないわくつきの道場で過ごしてきた私には、いまひとつピンとこないのが正直なところですが。
なんたって、そんな歴史を聞くよりも、両親から徹底的に修行させられましたから。一番手に馴染んだ鞭を習ったおかげで、地元では「鬼調教師・などという実に不本意かつ女にあるまじきあだ名までつけられ……。嬉しそうにしている両親の顔が、あの時ばかりは少しだけ憎くなりました。
そんな思いも無視され、武術は門下生や両親からさらに学び、作法は何故か門下生のご両親……つまりは豪族の方から教わり、何故か今ではすっかり身に染みています。作法ならまだしも、何故武術を一層高めなければ……と多感な時期を迎えた過去の私はよくへこんでいました。そこにかけられる言葉は、「武術も出来て品もあって、良い姫武将になるじゃん☆」などという言葉ばかりで、おかげでますます女の子らしさから離れるばかり……。
今じゃついには「師範代」にまで格上げされ、色っぽい話の一切無い女になってしまいました。念を押しますが、道場を継いでいませんし、師範代になった覚えはありません。両親も当分は現役ですし。
そのため、娘達の間で人気の憧れの職、女官はさらに輪をかけて神聖化したのです。


――――― いつか、あの女の子っぽい仕事に就いてみせる。


付き合いの長い門下生と新しい門下生を交えた百人組み手で勝利したその日、私は強く願いました。

そして、年に1、2回ほどしか行われない一般からの女官採用試験があるとついに知った時。
両親と拳を交え、熱くその旨を伝え説き伏せ、試験に応募しました。
憧れの職のためやはり出願者は100人を越え、熾烈どころの話じゃないです。2つ、3つしか用意されていない椅子にどうやって座るか、壮絶な椅子取り合戦が始まりました。女の戦場とは申しますが、あれはまさにそれでしょう。
1日目は、まずは面接。大体100人近くいるのだからほとんどがここで落とされるようです。ただ、面接官の方々の死んだ魚のような目が印象的過ぎて、何を話したか覚えてないです。
運よく私は落とされずに済み、2日目の実技へ。あんなにいた女官立候補者も、すでに半分以上はいなくなっていて驚きました。実技と言っても、家事全般の作業だったので、平気でした。道場の師範代なんて呼ばれ反抗心からやたらめったに家事をし続けた行いが実を結んだと思いました。そして3日目は、各々の特技を披露するそうなのですが……まさかその場に、この国の君主様がお見えになるなんて。たとえ気まぐれであったにしても、私は緊張しました。
しかしどういうわけか、あの方は私の両親を知っていたそうで、興味を持ってくださいました。ええ、私ではなく、むしろ叩き込まれた武術を。
出来るものなら触れたくなかったところで、苦々しく笑う私を他所に、君主様ははしゃいで「あれやって」「これやって」とリクエストの嵐。試験だということも忘れ、私は半ばいやけくそに全てお応えしました。ええ、応えましたとも。この辺りが武将であった両親の血なのでしょうか。
我に返った時、試験は終了。女の子らしらを披露するどころか有り余る闘気を全面的に推してしまい、試験会場から出た時には膝をつきました。


女としても、完全に、アウトだ。


華の女官生活が、一気に遠ざかった瞬間です。
けれど、そのすぐ翌日でしょう……日を待たずして、試験結果の記された文が届けられました。ワンクッション置かないことに対し驚きましたが、内容が気がかりでもう文を持つ手はブッルブル震えてしまい……失格の文字を僅かに予期しながらもゆっくり読み進めます。
そうして、私の目の前にあった文字は……―――――。





さん、さぁ~ん!!」

昼下がりの宮廷に、女性達の声が響く。女官の身なりをした彼女達は、兵達には目もくれず一人の女性へ向かって突撃する。
と呼ばれた黒髪の彼女は、ギュッギュッと洗濯物を洗っていた手をいったん止め、ゆるりと振り向く。適当にまとめ結い上げた黒髪が、その拍子にさらりと肩をすべり背中へ流れた。女性らしく柔らかい雰囲気と、ほっそりとした身体つきで、女官衣装も似合うようだった。
彼女は、「どうしましたー?」と駆け寄る女性達とは対照的に静かに首を傾ける。むしろ、何となく予想していたため驚く様子も慌てる様子もない。

「大変です、今獣舎の方で火炎虎が脱走して……!」
「あら、こっちが先よ! 城の周りで賊が見つかって、あんな軟弱な兵達じゃ話にならないのよ!」
「わ、分かりました、すぐ行きますね」

よいしょ、とが立ち上がると、何処からか颯爽と現れた兵が、キラキラと羨望や期待に瞳を輝かせながらあるものを差し出す。がかれこれ長く愛用している、月香鞭だ。
は内心で苦く表情を歪めたが、もうこうなったら自棄だ、とばかりにそれを細い指で撫で掴むと、地面を鞭で叩き馴染ませる。
その凛と勇ましい姿に、駆け寄ってきた女官達からキャーッと歓声が上がり、拍手までされる。

( ……私、一応、女官として採用されたんですよね……? )

しかしその疑問に答えてくれるものは、この場にいないだろう。彼女は女官衣装のまま、駆けだすとまずは獣舎へ向かう。その細い背中に、「カッコイイ!」「素敵!」という、男性なら喜びそうな女性達の歓声を全て受けながら。


女官、兼、緊急時護衛兵
事情があり腕の立つ者がいなかった場合、兵として非常事態に対応する女官。
それがだ。
届けられた試験結果の文には、そう書かれていた。採用されたのは嬉しいけれど、文章を見ると女官ではなく緊急時の兵としての活躍の方を期待されているような気がしたが、あれから数週間経過した今気のせいではなかったことが判明した。
もうどちらが本職として雇われたのか、分からない状況に現在ある。

( 憧れの女官、現実は厳しいようでした )

鬼調教師、師範代、護衛兵と着実にステップアップする
今日も元気に、宮廷で鞭を奮っています。



エディット女夢主プロローグ。
熱くなったからカッとなった、後悔はしない。
君主様が誰かは特定しないで、各国どのキャラと絡んでもらいたい。

実際にゲームでエディット武将としても使っている子だったり。
服装は春風芙蓉の服と天仙麗靴と腕で綺麗な女性なのですが……鞭奮えば三国無双になる恐ろしい人。
小説では、女官なんだか兵なんだか分からない活躍をしてもらおうと思います。

2011.02.01