道中、良好につき

山賊討伐から帰還し、殿へ報告するために城内を進んでいた時のこと。
前を歩いていた璃空様の歩調が緩み、中庭を挟んだ向こうの通路に目をやっているのに気付いた僕は、璃空様の視線の先を追った。
そこにいたのは、数人の女官達と――僕の同僚であり、友人でもあるだった。
距離があるせいで会話の内容は聞こえなかったけど、恐らくが通りすがりに女官の手助けでもしてあげたのだろう。しきりに頭を下げる女官達に、軽く手を振って顔をあげるように促しているのが見えた。
こんな光景を見るのは、さして珍しいことではない。そして、を見上げるまだ年若い女官達の眼が憧憬に満ち溢れているのも、往々に見られるものだった。
それに気付いているのかいないのか、はいつもの気さくな笑みを浮かべ、何やら会話を交わしている。
普段であれば、特に気にも留めないだろうけど、今は事情が違う。はっきり言って、非常に、まずい。

「あの、璃空様」

恐る恐る、すっかり立ち止まって中庭の向こうを見据えている上官に、声をかける。

「…何か?」

振り返った璃空様は、いつものように穏やかに微笑んでいらっしゃったけれど。
――気配が、笑ってない。

「お、お疲れでしょうし、殿への報告は僕が参りますので」
「気遣いは無用です。行きますよ、珪斗」

言いかけた僕の言葉をすっぱりと断ち切り、璃空様は歩き出した。それはもう、つかつかと足音を響かせる勢いで。


と関わるようになって、璃空様に少しずつ変化が現れたのは、僕の気のせいではないと思う。
いつも穏やかなのは変わらないけれど、ふとした瞬間に見せる表情が、以前より多くなった。それに、今のように、どう見ても焼餅をやいている姿なんて、想像もできなかったし。
僕が、こんなことを思うのは、差し出がましいとは思うけれど――

( すこぶるいい傾向、だね )

心の中で呟いて、先を行く璃空様の後を追った。



副官が見た、そんな璃空さんとうちのアホの子の光景。

勝手に副官に名前を付けた数日後、笑って許して下さるどころか小説で応えて下さるそのお心の広さに涙が止まりません。

2011.04.29