それは少年らの戦争

 ――月光の島の領主、エースの城に、“金色の猿”が襲来した。



 使者や客人といった来訪者を出迎え応対するのに使われる、板張りの大広間――謁見の間は、厳かな城郭に相応しい、厳格な美しさで整えられた場所である。
 長く仕えた家老や忠義を尽くす臣下たちですら、此処では自然と襟を正し、振る舞いには特に注意すると言われている。戦乱の時代にあった月光の島を統一した、偉大なる先々代の領主の英霊が見守っていると、城内ではもっぱら評判だ。もちろん、使用人たちも皆、掃除の際は身を引き締め臨んでいる。

 その謁見の間には、今――。

「まったくよォ、せっかく来たってのにお相手してくれんのは坊やだけかい。つまんねえ」
「何の連絡もなく突然踏み入れておいて、随分な物言いですね。四皇の一人だという自覚はあるのですか」
「おカタいねえ坊やは!」
「だから坊やなどという呼び名は止めて頂きたい!」

 ――ど真ん中に堂々と、“猿”が座っていた。楽しそうに笑う、金色の猿が。

 不機嫌な主の声と、それをからかう無礼な猿の声で、謁見の間は相当の荒れ模様だ。少し遠くから窺っていても、それがよく伝わってくる。

「陛下があんなにあからさまな態度を取るの、初めて見ましたよ」
「私も」

 物陰で窺うとレイは、ぴたりと肩を寄せ合う。
 その背後には、同じように窺うデイジーの姿もあるのだが……。

「キイイッ! うちの大切な陛下に、なんて言葉遣いかしら!」

 鮮やかな桃花色の髪を逆立て、三角の耳を伏せ、すぐにでも飛び掛ってしまいそうな形相を浮かべている。主君への侮辱だけでなく、可愛い弟への非礼にも激怒しているらしい。

「デイジー様、堪えて!」
「団長、ここで飛び出す方が問題です!」
「分かってるわよ! くうう、四皇でなければ轡を噛ませてやってるのにィ!」

 穏便ではない言葉を口にしながらも、デイジーはぐっと怒る肩を抑え、悔しそうに唇を結ぶ。
 とはいえ、その気持ちはよく分かる。それさえなければ、今頃はやレイもあの部屋へ乱入し飛び掛っていただろう。


 アイサ大陸を司り、各地を守護する四皇。
 その中の一人であるのが、あの金色の猿――もとい、天上人の孫悟空だ。
 面倒事は嫌うが面白い事には首を突っ込むという、厄介な性格をしているが、その実力は四皇に選ばれるだけのものがあると聞く。
 ただ、実直かつ堅実な性格のエースとは、あのやり取りの通りに、ことごとくそりが合わないらしい。


 別の四皇がこの城にやって来たのは、今回が初めてであった。やって来た、というより、襲来したといった方が正しいが。
 エースと同じ四皇ともなれば、やデイジーたちが出る幕ではない。
 つい最近、エースは皇帝陛下に直々に呼ばれ、皇城へと入城した。各地を治める四皇たちが一堂に集まり、皇帝陛下から直々に勅命が下されたという。アスド大陸から、忌わしい“破壊の欠片”を持つ者たちがやってくるという内容だったそうだが、それに関わるのなら、謁見の間が人払いをされたのも納得がいくが……。

(そんな雰囲気でもないわ……)

 ただただ、言い争っているようにも見える。あそこまであからさまに不機嫌なエースも珍しいが、それに面と向かってもまったく怯まない孫悟空もある意味では大物だろう。

「私、あの中にお茶を届けに行くんですか……?」
「だってしか適任が居ないし」
「私が行ったら猿の顔にお茶をぶっ掛けるわ」

 野良猫のように唸り声をこぼすデイジーを指差し、ほらね、とレイは肩を竦める。
 他の侍女仲間にも激しく首を振られてしまったので、が行くしかないが……相手は初めて対面する、四皇だ。幼少期から長く付き合ってきたエースとは勝手が違うので、さすがに緊張してしまう。

「何かあったら、助けて下さいね。本当に」

 頼みの綱はこの人たちだけだ。が縋ると、レイとデイジーからは「任せて」と力強い頷きを返された。
 は気を引き締め、その手に茶器と茶菓子を乗せたお盆を装備する。廊下の角から踏み出すと、謁見の間へ向かった。




「大体、貴方はここへ何をしに来たんです」
「皇帝の命令で集まって顔を合わせたんだ。ちょっとくらい交流があっても良いじゃねえか。それに、月光の島はアスド大陸の奴らが真っ先にやって来る場所、俺様が来る理由としては十分だろ?」

 キキッと猿のような笑い声をこぼし、孫悟空は胡坐をかいた膝に頬杖をつく。それに対面するエースは、懐疑的な眼差しを浮かべ、眉間に深くしわを刻んでいる。
 ……思った以上に、謁見の間の空気は荒れている。ここまで来たが、早くも踵を返したくなった。
 がちらりと振り返ると、遠くの角ではレイとデイジーが必死に腕を上げ下げしている。彼女たちの声援が聞こえてくるようだ。
 は頷くと、呼吸を落ち着かせ、謁見の間へとさらに歩みを進める。そして廊下に正座をすると、三つ指をつき丁寧に礼をする。

「失礼いたします、陛下。お茶をお持ちいたしました」
「……ああ、入りなさい」

 は静かに顔を起こし、盆を持ち上げる。謁見の間へ入ると、まずはエースの側に茶器と茶菓子を置き、それから孫悟空の側へ向かう。

(見てる、見てる、すごく見てる……!)

 の横顔には、これでもかと言うほどの、孫悟空の視線が浴びせられた。しかし気になったからといって、相手は四皇という雲の上の方、まで見つめ返す事は出来ない。内心で滝のように汗を流しつつも、それを気取られないよう平常心を貼り付けた。
 指先が震えないよう慎重に、孫悟空の前へ茶器と茶菓子を丁寧に置く。あとは、風のように立ち去るだけだ。
 そう思った、瞬間である。

「なあアンタ、これは何の菓子だい?」

 孫悟空から、声を掛けられる。
 別に驚く事でもないのに、の肩は思い切り飛び跳ねた。
 それに不快を示すでもなく、孫悟空は変わらず上機嫌に笑うと「取って食いやしないさァ」とをからかう。

「も、申し訳ありません」
「いいっていいって、気にしねえから。それで、これは何だい」

 孫悟空は茶菓子の器を持ち上げると、再び尋ねる。
 ちらりとエースを窺うと、彼は頷いた。言葉を交わしても、大丈夫のようだ。

「は、はい。月光の島に咲く桜の花を模した菓子で、二色の餡で作られております」
「ふうん、どれどれ」

 孫悟空は茶菓子を掴むと、ぽいっと口の中へ放った。
 ええと、なかなか、豪快な食べ方。
 は呆気に捕らわれたが、エースも大体同じような状態だった。

「――おお! 美味い! さすが領主様、良いのをお出しになる」

 もぐもぐと頬張る姿は、本当に猿だった。
 同じ四皇とはいえ、エースとはだいぶ気質など異なるようだ。あまり気取らない人物なのだろうか、と思っていると、孫悟空の赤い瞳がを捉える。

「ところで、アンタはここで働いてるヤツなのかい?」
「はい、私は……」
「彼女はこの城に仕える侍女です」

 の声に被さるように、エースの声が大きく響いた。

「ここはもう良い、行きなさい」

 厳格な領主の言葉に、は慌てて礼をし、立ち上がろうとする。だが、それを孫悟空が遮った。

「おいおい、侍女くらい気にしねえよ。それに、坊やと二人きりより、よっぽど花があっていい」
「そういう問題では」
「なあ、アンタ、名前は?」

 エースの面持ちに、不機嫌な色が滲む。しかしそれを意にも介さず、孫悟空はを見ている。
 な、何だろう、この混沌とした状況は。
 二人の四皇に挟まれるような形となったは、どうすれば良いか分からず、途方に暮れた。

、構わなくていい。行きなさい」
「へええ、っていうのか。美人だと、名前も綺麗だな」

 え、び、美人? 思わぬ事を言われ、は目を丸くする。

「孫悟空!」
「なんだよ、そんなカッカしなくても良いだろォ?」

 ぼやいた孫悟空であったが、ふと、彼はエースとを見比べ――にんまりと笑った。
 孫悟空は、の腕を唐突に掴むと、強引に抱き寄せる。頬を鎧に打ち付け、腰を力強く掴まれ、は目を白黒させる。

「え、な、ちょ」
「……貴様……ッ」

 向かいに座るエースの両目に、激昂の感情が浮かび上がった。は青ざめたが、孫悟空の態度に変化はない。それどころか、先ほどにも増して愉快そうに、唇の端を持ち上げる始末だ。

「……なーるほど、おカタい坊やの顔が剥がれてきたな。この侍女は坊やにとっての逆鱗って事かい」
「――陛下! 入室のご無礼をお許し下さい!」

 その時、デイジーとレイが飛び込むように謁見の間へ現れた。二人の姿にはほっと安堵したが、孫悟空の腕の力は緩まなかった。を抱き寄せたまま、おもむろに立ち上がる。

「――来い、金斗雲!」

 孫悟空が叫ぶと、不意に風が動き、桜の花びらが巻き上がる。
 謁見の間の外には、何処から現れたのか、白い雲が宙に浮かんでいた。
 それを視界に入れたエースらの表情が、ハッと動く。
 孫悟空はにんまりと笑い、謁見の間から廊下へ飛び出すと、白い雲へ飛び乗った。
 ――その腕に、を抱えたまま。

「ちょ、ちょっと、この猿! を離しなさい!」
「団長、今攻撃したらにも当たっちゃいますって?!」

 真紅の扇を広げて振り回すデイジーを、レイが背後から押さえる。
 その後ろからエースが飛び出し、携えた刀を鞘から引き抜いていた。

(……て、あれ、叢雲剣じゃ!)

 月光の島の領主に代々受け継がれる、伝説の宝刀。
 斬り付けた者に生涯、癒えぬ創傷を与えるというその刀を、今まさに抜き払っていた。
 いくら無礼とはいえ、同じ四皇の一人に、使って良いはずがない。
 は孫悟空の腕の中で身を捩り、眼下に佇むエースへ声を掛ける。

「エース様、私は、大丈夫ですのでー!」
「その状況で何が大丈夫だというんだ、!」
「分からないですが、きっと、大丈夫ですー!」
「お前は、どうしてそう無鉄砲な……!」

 そんな会話をしている内に、孫悟空とを乗せた雲は、謁見の間からどんどん離れてゆく。既にもう、城の一部を見下ろせるほどの場所にまで上昇していた。

「安心しろよ、ちょっと月光の島を空から散策するだけサ! すぐにこの侍女ちゃんは返すからよ!」

 孫悟空は楽しそうにキキッと笑い、如意棒を肩に担いで雲を走らせる。
 あっという間にエースらの姿は見えなくなり、厳格な領主の城さえも小さくなってしまった。





「い、一体、何をお考えですか」

 ヒュウヒュウと音を立てて過ぎ去る風に、の髪が泳ぐ。
 孫悟空は、相変わらず愉快そうな笑みを浮かべているだけだった。

「気を付けな、離れたら落ちるぜ?」
「ひゥッ」

 は反射的に孫悟空の身体にしがみつく。四皇の一人であるなどと、この状況で言っていられない。人を二人も乗せた雲は、空中を飛んでいるのだ。遙か下にある地上に落ちてしまったらどうなるかなど、考えずとも明らかである。
 それに……こんな高い場所を飛ぶなんて事、日常生活ではまず起こり得ない。
 風の強さ、浮遊感、地上から離れた場所――初めて味わう未知の世界に、は青ざめる。ぎゅっと、孫悟空の服を握りしめた。

「別に、放り出そうとかそんな悪い事は考えちゃいねえよ。安心しなって」

 孫悟空は気分を害した様子もなく、の肩をしっかりと抱える。しかし、その顔に浮かぶ軽薄な笑みが、信用しても良いものか疑問だ。本当に、この人は何がしたいのだろう。


 孫悟空とを乗せた雲は、領主の城から離れ、城下町へと近付いてゆく。
 月光の島特有の、純白と薄桃色の美しい桜木が、眼下を彩る。エースが治め守っている大きな町は、今はとても遠いが、きっと今日も人々が行き交い活気に満ちているに違いない。
 そして、大きな城下町の向こうには、漁船や旅客船、交易船などが集まる港町があり、月光の島が浮かぶ、広大な海原が果てなく広がっている。

 生まれ育ち、そして過ごしてきたアイサ大陸の月光の島。暮らし馴れていた土地がどれほど美しい場所であったのか、初めて知った心地がした。

「――気に入ったかい?」

 はハッとなって顔を上げる。事の発端の孫悟空が、にんまりと笑い、を見下ろしていた。
 空の上から見る島国の景観に、すっかり見惚れてしまっていた。
 こんな状況で何をのんきな。自らを叱責したが、彼の言葉の通りに、気に入ったのも事実である。

「……貴方様は、何をなさりたいのです。エース様を、困らせたのですか」

 は今一度、孫悟空へ尋ねる。彼は自らの顎を指でなぞり、冗談ぽく笑った。

「俺は面倒な事は嫌いなタチだ。別に、目的なんかねえよ」

 本当に裏表なく、ただ足を運んだだけだと、彼は言った。

「皇帝に呼ばれて、皇城に四皇が全員揃って顔を合わせた。あの時から思ってたよ、こいつはクソ真面目で頑固でおカタい坊やだってな」

 はむっとし、すぐさまその言葉を否定する。

「エース様は、坊やなんかじゃありません。立派な領主様でいらっしゃいます」

 孫悟空は肩を竦めると、そんなもん見りゃ分かるよ、と言った。

「アンタも、城の連中も、城下町の景色も、坊やを慕ってる。伊達に長く生きちゃいねえよ。羨ましいねえ、天上界の弾かれもんの俺様とは大違いだ」

 意外な言葉を聞かされ、逆にの方が面食らってしまう。何度も瞼を瞬かせるの頭上で、孫悟空は唇の端を持ち上げる。

「――でも、その坊やにも逆鱗があって、弱点がある。どんなに表面は聖人君主を装っても、滲むもんってのがある。やっぱ人間ってのは面白い生き物だな」

 そう言ってくつくつと笑う姿に、彼が人間ではなく天上界で生きる者だという事を、不意に思い出させた。

「なあアンタ、坊やの事、好きかい?」

 前触れも無く告げられた言葉に、は思わず声を詰まらせた。

「そ、そ、その言い方はご、語弊を生みます。お仕えする主として、尊敬しておりますし、慕っております」

 生まれ育った村と、大切な両親を魔物に奪われた、あの幼少期。何もかもを無くした底辺から、こうして城仕えの侍女にまでなれたのは、全てはエースと、デイジーのおかげだ。慕っているし、これからも尽くそうと思っている。
 だから、好きかどうかなんて、そんな言葉は……。

 もごもごと呟くに、孫悟空は奇妙なものを見るような目を向けてくる。酷く不思議そうに、首を傾げて目を細める。

「ふうん……坊やも坊やだが、アンタもアンタか。素直になりゃ良いのに」
「す、好き勝手に振る舞う事とは、まるっきり別だと思います。私は、今も昔も、エース様を尊敬しております!」

 言い切ったに、孫悟空は声を上げて笑う。そして、坊やは幸せもんだと、耳に残る声色で呟いた。





 ――領主の城と、城下町の上空をしばらく飛び回った後、雲は再び城へ戻った。
 城の中で最も空に近い天守閣へと近付き、高度を下げてゆく。見慣れた瓦屋根が足下にまでやって来ると、孫悟空はそこでを下ろした。
 不安定な雲の柔らかさがなくなり、しっかりとした硬さが足の裏に触れる。
 地に足がつくって素敵。はようやく安堵し、緊張の解けた息を吐き出した。

「今戻ったら面倒な事になりそうだし、ここで良いだろ」
「それはご自身のせいだと思いますよ」

 が咎めると、孫悟空はそうだったかと、とぼけて笑う。天上人でありながら、無邪気で、良くも悪くも幼い少年のような仕草だった。
 孫悟空という人物の事が、ほんの少し、分かったような気がする。
 最初の時と比べ、も格段に緊張が薄れていた。

「ま、おかげで楽しめた。えーと、だったっけ? ありがとよ」

 孫悟空の手が、の頭にぽんと乗る。腰を掴まれたり肩を握られたりした時にも思ったが、やはり男性らしく大きな手のひらだった。
 アイサ大陸を守護する四皇の一人に、頭をぽんぽんされるなんて、人生でそう多くはない経験だろう。特別、喜びは感じないが。

「……チッ。もう来やがった。まったく坊やは目敏いなあ」

 孫悟空が舌打ちをした直後、複数の足音が慌ただしく響いた。
 顔を上げた先にある厳かな天守閣から、エースとデイジー、レイが姿を見せる。彼らの表情は一様に険しく、と孫悟空を見るなり瓦屋根の上へ躍り出た。

「ああ、! 良かった!」
「心配してたんですよー!」

 空に連れていかれたその間、ずっと心配してくれていたのだろう。二人のかんばせからは、心の底から安堵した様子が窺えた。

「孫悟空、貴様……!」

 エースの口から絞り出された声は低く震え、怒りを滲ませている。大きく踏み込んだ彼の足は、ガチャリと、瓦屋根を鳴らした。
 孫悟空は悪びれた様子もなく、おお怖い怖い、と肩を竦める。

「おっかないねえ、何もしちゃいねえよ!」
「でなければ、叢雲剣で断ち切ってくれる! 、こっちに」

 エースの手のひらが、へ差し出される。慌てて返事をすると、孫悟空に会釈し、エースのもとへ駆け寄る。
 だが、それを孫悟空の手が遮り、の手首を掴んだ。

「わりと楽しかったぜ、ありがとよ」

 雲に腰掛けて宙に浮かぶ彼は、おもむろに身を乗り出すと、へ顔を近付ける。上機嫌な猿顔が、不意に視界を満たした。

「次は、もう少しゆっくり過ごそうぜ――二人だけで」

 の頬に、温もりを帯びた柔らかさが押しつけられた。それが、笑みを浮かべる孫悟空の唇であったと気付いたのは、すぐであった。
 こ、この人は、本当に……!
 怒りか、羞恥か、の顔は熱を集め、一瞬で染まる。それを見下ろす孫悟空は、ますます上機嫌に口角を持ち上げた。


「……舞え、叢雲剣」

「……いくわよ、炎扇」


 の背後から、殺気が吹きこぼれる。
 ぎょっとなって振り返ると、激怒するあまり無表情になったエースとデイジーの姉弟が、まさに自らの得物を抜き払ったところであった。
 押しとどめる間もなく、刀剣が舞い、真紅の炎が羽ばたく。二人の攻撃は、孫悟空へ迷わず放たれたが、彼は苦も無くかわしてしまう。

「ハハッ! 坊やのところは面白いなあ、じゃあまたな!」

 孫悟空は金斗雲を走らせると、風のように飛び去った。

「――二度と来るな、猿!!」

 エースの激昂に満ちた叫び声が、厳かな空気を震わせ、響き渡る。しかし、上機嫌に手を振る姿が空の中に朧気に見え、ああ懲りてないなと、は肩を落として苦笑した。


 その予想は外れる事なく、孫悟空はこの後たびたび月光の島にやって来ては領主の城を襲撃するようになるのだが――この時は、はもちろんエースも、まったく思いもしなかった。


◆◇◆


「無事で良かったよ~あの後、地味に大変だったんだよ。陛下は怖いし、団長はもう野良猫みたいに暴れ回って」
「はあ、でも結局、あの人は何をしたかったんでしょうね……い、痛い痛い! エース様デイジー様、痛いです!」

 ――だが、孫悟空から悪戯に口付けられた頬を、二人がかりで拭かれる現在の方が、にとっては受難であったのかもしれない。



セブンナイツ一周年を祝して、鬼強化がされた孫悟空も書いてみたい。
四皇の中ではエースが一番クソ真面目そうだし、からかい甲斐があると思っていそう。
……と、妄想してみます。

エースは残念な子じゃない。彼はきっと【覚醒】で輝くはず。

それはそれとして、エースとデイジーの姉弟が可愛すぎて仕方ない。
なんであの二人はあんなに可愛いんだ。


(お題借用:天文学 様)


2017.04.09