拝啓、私の凶獣(2)

 ナハトが護衛依頼に出掛けて、三日ほどが経過した。
 のみの生活となったが、隣近所の人々やナハトの友人、そして勤め先でありナハト達の拠点となっている宿屋兼食堂の店主(元傭兵)と過ごしているので、取り立てて事件や困りごとなどは起きなかった。
 「ナハトからそういう風に脅され……いやいや、頼まれてるからな」という言葉を聞いた時には、ありがたいやら申し訳ないやら、非常に複雑な心境にはさせられたが。

 おかげで不安などは何一つ無かったのだけれど――一人になると、決まって痛感する。

(毛皮がないって、本当に寒い)

 イタチの茶色い毛皮が、毛足が短くとも予想以上に寒さを和らげてくれているのだと、彼がいない朝は毎回思い知る。早くあのモコモコが帰ってくるようにと、現金にもは願った。

 彼の帰還の報が届けられたのは、彼が出発してから五日後の事であった。




 一週間近くなるだろうと言っていたが、それよりも少し早い帰還だ。長く掛かるかもしれないと思っていたから、正直、安心した。仕事についても、滞りなく、無事に終えたという事なのだろう。

 本格的な冬はもう目前で、近頃は日の入りがぐっと早まり、夕暮れの時刻から既に辺りは薄暗くなっている。それにここ最近、急に冷え込み、寒気が強まった。いよいよ冬が訪れ、雪も降り始めるかもしれない。
 今日の夜ごはんは、身体のあったまる料理が良いかなあ。
 は母親に近い心で食材の買い出しに出掛け、急ぎ足で帰路についた。

「あ、おーい! ちゃーん!」
「うん? ……あ、傭兵のおじさま!」

 呼び止めたのは、ナハトと同じ傭兵の男性達だった。店を贔屓にしてくれている、顔馴染みの客でもある。
 ナハト達の活動拠点でもあるという食堂で働かせてもらっているが、その関係上、店には数多くの傭兵が集まる。ナハトとお付き合いをしているという事が風の速さで広まった理由も、きっとこれが大きいのだろう。

「こんばんは、お仕事は終わったんですか?」
「ああ、ついさっきな。ちゃんの顔見れたら、おっさん元気出てきたよ」
「ふふ、元気だけが私の取り柄ですから」
「いやいや、殺伐としたこの界隈の数少ない癒やしになりつつあるよ……っと、買い物の帰りか」

 両腕で抱えた紙袋を見ると、彼らは「家まで送ろう」と言ってくれた。ありがたいが、しかし仕事終わりで疲れているのではないだろうか。遠慮し首を横に振ったが、これくらい疲れる内に入らないと、彼らは大らかに笑い飛ばす。

「暗くなってきたしな、おっさん達に任せてくれ」
「いつも店で話とか聞いてくれるしな」
「そう、ですか? なら、お言葉に甘えて……」

 お願いします、と言いかけたその瞬間、背後から誰かの腕が伸びた。

「――甘えなくて良いよ、こいつらに」

 へと差し出された傭兵たちの手首を、ギリリと強く握るその手は、毛むくじゃらの黒っぽい獣のそれ。人間とは見てくれから異なる、獣人のものだ。

「げッあんた」
「いや、下心があったわけじゃないぞ、断じて」
「それはお気遣いどーも。だけど、少しでもあったのなら……地の果てまで追いかけ回してやるよ」

 唸るように告げられたその言葉に、顔馴染みの傭兵達は表情を青くしたり、あるいは苦笑いをこぼしたりし、逃げるように離れていってしまった。
 ああ、ろくな挨拶も出来てない……。
 思わず指を伸ばしたけれど、それを背後から伸びる獣の手が包み、胸の前へと引き戻した。まったく、こんな事をする人物は、一人しか心当たりがない。は溜め息をこぼしつつ、背面に佇むその人へ振り返った。

「もう、帰ってきて、すぐそういう事を言うんだから――」

 呆れと親しみを織り交ぜた笑みを浮かべ見上げる。しかし、の前に佇んでいたのは、想像していた人物と全く異なる人であった。

 しなやかな身体の上に獣そのものな頭部が乗っているが、思い浮かべた人物とは違い、毛足の短い暗褐色の毛皮で覆われていた。シュッと細い身体付きだが、気弱さなどは全く感じさせない、不思議な威圧感を放っている。熊の獣人だろうか。薄暗く暮れる空を背にしたその姿には、目を引く存在感が伴っていた。
 いや、それはひとまず置くとして。
 勘違いをしたまま、全く知らない人に、身内のように接してしまうところであった。猛烈な恥ずかしさが、じわりと込み上げてくる。

「ご、ごめんなさい。知り合いかと思ってしまって。あの、どちら様でしたでしょうか」
「…………は?」

 どうにか動揺を隠して応対した瞬間、熊っぽい黒い獣人は胡乱げに目を細めた。

「あ、ええと、傭兵の方ですか? ごめんなさい、私ったら物覚えが悪くて。ええと、何処かで……」

 すると、目の前の熊らしき獣人はやおら背を屈め、ずいっとにその顔を近づけた。息が掛かるほどの至近距離に、思わずの背が仰け反る。

「……ねえ、ちょっと、本気で分からないの」
「え、その、初めてお会い……」

 そこまで呟いた時、ようやく、はたと気付く。
 の耳に入るその声や口調、随所の仕草が、非常に覚えのあるものだと。

 ……もしかして、本当に――。

「…………ナハト?」
「うん、ただいま」

 足早に夜へと変わる町に、の吃驚(きっきょう)した声が響き渡る。

 目の前に佇む、熊によく似た獣人――もとい、すっかり冬毛の色に変わったナハトは、可笑しそうに笑っていた。


◆◇◆


「大体、前にも言ったでしょーに。冬になると黒くなるって」
「そうなんだけど、ここまで黒くなるなんて、思ってなくって」

 あの明るい茶色の毛皮が、ほぼ黒に近い焦げ茶色で染め尽くされている。目と耳の間の額にあたる空間と、喉元の一部に、ほんのりと明褐色が浮かんでいる程度で、あとは全体的に黒い。
 ぱっと見て、とても熊っぽい外見なのだ。
 きちんと確認すれば、顔の輪郭はイタチのもので、確かにナハトであると分かるのだが……。

 ナハトは、冬になると白銀で閉ざされる北方の地の生まれで、イタチと別種のハーフであると言った。
 彼の身に流れるもう半分の血は、なんでも隔絶された北国の一部にしか存在しない“クズリ”というイタチの仲間であるらしい。そもそもは、クズリという名前自体を初めて耳にした。こんな一見すると熊に見えるイタチが居るとは、本当に驚きである。
 しかも、別の言葉では“ウルヴァリン”と呼ばれているそうだ。なんとかっこいい、強そうな名前だろうか。

 彼が以前に言っていた、冬になると姿が変わるというのは、こういう事らしい。

(確かに、町に張り出されていた、あの手配書の通りかも……)

 いつだったかに見た、あの凶暴そうな黒い熊のような絵を思い出す。あの時は全然似ていないと笑い飛ばしたが、まったくの誇張ではなかったのだと、はこの日ようやく知る事となった。

「土地が違えば、暮らしてる人達も違うんだねえ……世界は広いなあ」

 関心しきって呟くと、ナハトは吹き出すように笑った。毛皮が黒く深まり、何処となく熊っぽくなっても、その仕草はナハトのそれである。

「うん、それで済んじゃう辺りが、君らしいというか」
「そう? ねえ、触ってみてもいい?」
「どーぞ、お好きなように」

 ナハトは肩を竦めると、しなやかな両腕を広げた。は表情を明るく咲かせ、その腕の中に飛び込む。黒く様変わりした顔や、少し厚みが増した気のする胸と腕の毛皮を、思う存分もふもふと撫でる。白い模様の浮かぶ喉からは、キュウキュウと、機嫌の良い鳴き声がこぼれていた。それは、普段から聞き慣れた音である。
 見た目は熊っぽいけれど、何かが変わったわけではない。どれも、慣れ親しんだナハトのものだ。

「出掛けてる間に、雪に降られてさ。少し積もる程度だったんだけど、それから一気に生え変わりが進んだみたい」
「前から、けっこう黒っぽくなってはいたけど……獣人って不思議ね」
「もうちょっとしたら、毛足も伸びてくるかな」

 な、なんだって! これからさらに、もふもふ度が増すというのか!

「わあ、素敵! 冬は寒くないね! 私も!」
「……僕で、暖を取る気なの?」
「え、駄目?」
「……まあ、別に構わないけどさ」

 ナハトは肩を竦めると、正面から抱きつくを抱え直し、顎を擦り付ける。

「これでも、狼とか熊の獣人と、同列なんだけどねえ。まあいっか、毛布にされるくらいは許してあげるよ」

 いかにも仕方なさそうにナハトは言うが、その声は迷惑がっておらず、むしろ楽しそうに弾んでいる。なんだかんだと言いながらも、ナハトはけっこう優しいと思うのだ。

 それにしても、すごく、もふもふ。

 衣服の前を開いて現れた彼の胸元に、は顔を押しつける。温かくて、ふかふかして、空気を吸い込むと少し篭もった匂いがして。人間とは違う、獣性を強く示す種族らしさがそこにある。

「ふふ、あったかくて気持ちいい」
「人間って好きだよね、毛皮にひっつくの。楽しい?」
「とっても」

 心ゆくまで、ナハトの暗褐色に染まった毛皮を撫で回す。そうしている間に、次第にナハトの身体はソファーの上に倒れ、仰向けに寝転がる格好になった。下敷きにした毛皮はふかふかで、その魔性の心地好さに、思わず満ち足りた溜め息がこぼれる。

「――
「うん?」

 ナハトの腕が、の腰に回る。そのまま上へと引き上げられ、毛色の深まったイタチの顔と距離が縮まる。
 つぶらな形の獣の瞳がじっと覗き込み、やがての唇を緩やかに食んだ。
 牙と毛皮が覆い被さる、人とは異なる口付け。
 今では慣れ親しんだものを、は目を細めて甘受する。
 次第に、の腰を抱いている手が、衣服を弄り、ずらしながらその下へと潜り込む。意味ありげにゆっくりと、ふかふかの指に生える爪で肌をなぞっていった。

「ん、ナハト……」
「僕ばかり、なんて、不平等でしょ」

 悪戯っぽく笑う声が、耳をなぞる。伸びてきた舌は、唇だけでなく、頬や首筋にも這っていく。獣らしい薄く小さなそれは、予想外の熱さを宿しており、の肌にその温度を残していった。

「――触らせてよ、僕にも」

 そう言って、の目の前でこれみよがしに舌舐めずりをする様には、牙を持つ獣の本性が露わになっている。
 こういう仕草をする時は、彼は“可愛いイタチ”ではないのだと思い知る。彼は紛う事なく肉食の獣であり、“凶獣”と呼ばれる人物なのだ。




 するりと、衣服の中へ侵入したナハトの指は、肌をなぞるように滑り服を捲し上げた。

「あ、私が……ッんむ」

 言いかけた言葉は、獣の牙に阻まれ、途中で消えた。口付けというより、食らい付くようだった。その合間に、良いからと、彼の声が囁いた。

「――はあ、良い匂い」

 首筋にナハトの鼻が埋められ、すう、と息を吸い込む。陶然とした声色に、頬の熱が強まる。

 鎖骨の上にまで引き上げられた衣服は、の頭を通り抜け、そのままソファーの下へ落とされる。暖炉に火が灯っているとはいえ、僅かに肌寒さを覚えたが、一瞬だけだ。すぐさま、ナハトの獣の身体が正面から寄せられた。

(――あったかい)

 手を伸ばし、暗褐色の毛皮の中に指先を埋める。みっしりと生えた獣毛の下にある地肌は、むしろ熱いくらいで、肌寒さなんてものはすぐに忘れた。

 やがて、ふかふかの胸に重なっていたの二つの膨らみに、ナハトの手のひらが被さる。武器を握り続けているためか、少しかさついた、硬めの肉球が触れた。ひんやりとして驚いたけれど、すぐに温かく染まり、手の中の柔らかい輪郭をなぞった。男性である彼の手から少しこぼれる大きさのそれは、丸い形を変えられながら、ゆっくりと揉み込まれる。の口からは、温かい吐息が漏れた。

 肌の上を行き来するナハトの指も、毛皮も、全て慣れ親しんだ感触のはずだが……今はほんの少し、普段と違うように感じる。
 これまでの茶色の毛皮から、黒に近い暗褐色の冬季の毛皮に変化したからだろうか。
 不快な気分はなく、むしろちょっと真新しさを感じる。

「ふふ……ふかふか、してる」
「気に入らない?」
「ううん、全然。でも、ふわふわして、少しくすぐったい」

 がそう呟くと、ナハトは目の前で小さく笑い、顔を下げる。下から掬い取るように持ち上げられた膨らみに近付くと、舌を伸ばした。人間とは違う、平たくて薄い、獣の舌。それを、何にも隠されていない膨らみに這わせ、色づいた頂までなぞっていった。

「ふ、う」

 温かい湿った感触が、何度も往復する。くすぐられるような、もどかしい甘やかさが絶えず巡る。たまらずが吐息を噛むと、ナハトの口元から微かな笑みが聞こえた気がした。
 次第に、膨らみにある小さな飾りが、ぷっくりと硬く立ち上がる。それを、ナハトは口を開いて、かぷりと牙の向こうに含んでしまった。

 の震えている薄い肩が、びくんっと飛び跳ねる。乳房を食べられてしまっているような光景が広がっているけれど、痛みはない。肌に触れる彼の牙が、食い千切るような真似はしないと知っている。チクチクとして、くすぐったいだけだ。
 ただ、その獣の口の中で、ころころと舌先で転がされるものだから、言いがたいもどかしさが背中を駆け巡ってゆく。

「は、あ……ッナハト……ッ」

 ぎゅっと、彼の頭を両手で包む。丸みを帯びたイタチの耳が、小さく跳ねた。

「……ねえ、
「なあ、に……ッわァ!?」

 ナハトの口が離れたかと思うと、唐突に、彼の身体がずいっと体重を掛けてきた。
 は呆気なく後ろに倒れ、驚いた表情のままソファーの上に仰向けで寝転がった。
 無防備に晒される上半身の上を、ずいずいと、ナハトが這い上がってくる。肌に擦れる毛皮の感触が少しこそばゆかったが、の前にやって来たナハトの顔は先ほどまでは無かった不満のようなものが浮かんでおり、こぼれそうになった笑い声は引っ込んだ。

「ナハト?」
「そういえばさ、。君、さっきおっさん達に声を掛けられてただろ」
「おっさん達……?」

 はて、おっさん……。
 いきなり尋ねられてすぐには分からなかったが、外で会った傭兵の男性達の事かと思い至った。

「ナハトの同業者の人達の事? それが、どうかした?」
「はァァァ……」

 何故か、大きな溜め息を返されてしまった。人間でいうと、呆れ果てた嫌な表情を浮かべているのかもしれないが、目の前にあるのはつぶらな瞳のイタチの顔なので可愛いしか感じない。

「何だよ、気に入られちゃってさ。あいつらに」
「ナハトの知り合いだし、お店の常連さんだよ」
「変な虫は増やすなって言ったのに」

 変な虫って……もう。
 は思わず吹き出して笑ったが、ナハトの声に滲む不満は依然として変わらない。文句をこぼしながら、不愉快そうに尻尾を揺らしている。

「変な虫で十分だよ。あの店に居る以上は仕方ないけど、本当は君の事を知るのは僕だけで十分なんだから」
「そういう事、言わないの」

 見た目よりも大きなナハトの肩に、手のひらを重ねる。宥めるように抱き寄せれば、彼は逆らわず、大人しくに覆い被さった。
 首筋に額を擦り付け、返事の代わりに喉の音を鳴らす。だがこれは、了承ではなく、ぼやいているのだろう。


 ――“凶獣”と呼ばれる、腕っこきの傭兵。

 ――大型の肉食獣達と肩を並べる、獰猛な獣。

 ――北の地の、隔絶された場所でのみ暮らしている、クズリという種族。


 しかし、こうしてふて腐れながら甘えて身体を寄せてくる姿を見ると、根っこの部分は年若い青年なのだと思い出す。まったくもうと呆れながらも、は大らかに受け止め、彼の後頭部や背中を撫でた。
 イタチの頭だから、余計になおさら可愛いんだよなあ。
 獣人は、そういうところがずるいというか、得をしているというか。ただ可愛いなどと口に出せばきっと怒るので、胸の内にのみ留めておく事にする。

「……僕は、君が思う以上に、器量の狭い男だし」

 耳元で、ナハトの声が囁いた。

「たった一週間、居なかっただけでこんな有様だなんて。まいったなあ」

 自分自身でも驚き、また困惑に暮れる、複雑な声音だった。ふかふかの毛皮に押し潰されながら、は小さく微笑み、彼の肩をぎゅっと抱きしめる。

「私は何処かに消えちゃうわけじゃないのに。不安になる事なんて無いのにね」

 首筋に埋まっていたイタチの顔が、ゆっくりと持ち上がり、を見下ろした。

「……君って、本当、大らかだよね。最初の頃もそうだったけど、逆に心配になるよ」
「ええ~そうかな」
「そうだよ。まったく、僕ばかりがいつも……」

 つぶらな瞳を細めて呟いたナハトだが、ふと何か思い付いたように表情を変えると、おもむろに身体をずり下げていった。重なっていた胸から、彼の重みと毛皮の温もりが遠ざかり、少し物寂しいような気分になる。
 しかし、二つの膨らみの谷間から鳩尾、へそに掛けて彼の舌が這っていくと、そんな気分も無くなった。

 両足の膝の裏に、彼の手のひらが触れる――その瞬間、何の予告もなく、がばりと大きく開かれていた。

「わ、ちょ、わあ!」
「今更でしょ。君の“ここ”は、もう何度も見てるし」
「そ、そういう問題じゃ……ッあ、ちょ、やッ」

 半ば強引に、下着ごと衣服を毟り取られる。
 下半身に残っていた唯一の布地が、早々に無くなってしまった。

 あの、私にだって一応、女心というものがあるんだけどな……。

 その羞恥心を知っているのだろうに、ナハトは「ほら、バタバタしないの」と悪戯っぽく笑う。だが、の足を押さえ込む力ときたら、その細い背格好のどの部分に隠し持っているのだと問い質したくなるほど強い。
 男女の差だけでなく、人間と獣人の種族の差を思い出し、泣きたくなった。

 すると、ナハトの毛むくじゃらの指が、太腿の内側をそっと撫でた。

「……ッあ」

 丸く整えてはいるけれど、はっきりと存在を主張する獣の爪の先端が、ゆっくりと円を描く。そのうち、鋭い牙を擁した口が開き、柔らかく太腿の肌を食む。牙と、舌先と、息遣いが、蝕まれるようにじわりと伝わり、爪先まで震えた。
 痛みは感じない。ただ、くすぐられるような、もどかしい疼きが這う。
 次第に、ナハトの指先は太腿を伝い、足の付け根へと向かった。毛皮に覆われた指で、するりと秘所をなぞられた瞬間、ぞくぞくと肌が粟立ち、力が抜けそうになる。
 意識とは別に両足が飛び跳ね、閉じようと身動ぎをする。けれど、ナハトの手はそれを拒むように押さえて。

「――駄目、逃げないで」

 熱を孕んだ低い声色で、を制止する。囁いた声にも、吹きかけられた吐息にも、ひりつくような情欲が滲んでいる。
 イタチという可愛い動物の頭をしているのに、ギラギラと光る双眸は確かに猛獣のそれだ。
 隠そうともせずに真向から向けられ、は真っ赤になって動きを止める。ナハトはそれを見て小さく笑うと、牙の向こうからゆっくりと舌を伸ばした。

 両足を開かれ、露わにされた秘所に、温かく湿った感触がちろりと掠めた。

 途端に駆け巡った痺れに、たまらず腰が浮く。跳ねた両足を、獣の腕が素早く絡め取り、驚くほどの力で押さえつけた。
 突くように悪戯に触れる獣の舌先は、ぬるりと上下に這い、秘肉を舐めしゃぶる。厭らしく響くその音は、舌の動きは、の全身を巡ってゆく。

「あ、や……ッナハ、ト……ッあ……ッ!」

 絶えず与えられる甘やかな疼きに、両足が震える。は耐えかねて、下腹部に顔を埋めている黒いイタチへと手を伸ばす。かじかむ指先で、毛皮を掻き混ぜながら、どうにか頭を掴んだ。しかし、くぐもった獣の鳴き声が聞こえただけで、止めてくれるどころか、むしろ余計に勢いづいてしまった。鼻先をぐいぐいと秘所に埋め、舐め擦る舌先を内側に侵入させてくる。

 迫り上がってくる耐え難い甘やかさに、身体をぎゅっと強張らせる。けれど、じゅっと音を立て吸い上げられた瞬間、呆気なく背筋をしならせ、高く声をこぼし昇りつめてしまった。

「はあ、あ……ッ! ん、ン……ッ」

 打ち震える四肢が、ゆっくりと弛緩する。その余韻はを包み、びくん、びくん、と何度も腰を跳ねさせた。
 その上に、ナハトの手がそっと置かれ、柔らかく撫でられる。秘所に吸い付いたままの彼の口元からは、じゅる、と蜜を舐め啜る音が聞こえた。熱でぼんやりとしながらも、はナハトの頭をそっと押した。

「い、いいよ、そんな、恥ずかしいから……」

 力の入らない身体で、抜け出そうとすると。
 ナハトの手に、不意に力が込められた。
 撫で擦っていた手のひらは、捕らえるように腰を掴む。力なく横たわっていた足は、再び持ち上げられた。
 熱っぽく惚けながらも、は思わず瞠目し、彼を見つめる。

「え、ナハト――あぅッ?!」

 唇から、上擦った声が溢れる。

 舌先の愛撫を受けた秘所に、ぐちゅりと、指先が侵入してきた。

 ゆっくりと凪いでいた疼きが、再び下腹部から全身へと広がる。熱で染まる肌は、一斉にぞわぞわと戦慄いた。
 達した余韻が未だ引かず、甘く震えていたそこは、驚きながらもナハトの指を受け入れてしまう。容易く奥まで飲み込み、はくはくと吐息をこぼしていると、埋められた指は内側の狭い壁をぐるりと撫でた。先ほどと変わらず、秘所に埋めたままのイタチの顔は、再び舌先を這わせ、吸い始める。

「ま、まってよ、わた、わたし、さっき……ッ!」

 イタチの頭を両手で挟んだが、全く動かない。の下腹部にかぶり付き、快楽を与えてくるけれど、心なしか先ほどよりも激しく攻め立てられている気がする。時々、牙を掠めながら、容赦なく舐め啜られた。

「ひッ! あ、あァ……ッ!!」

 一度達して、過敏になっている身体が、みっともなく震え始める。
 うそ、また――。
 ぎゅうっと強く瞼を閉じ、奥歯を噛み締める。這い上がってくる二度目の絶頂に、ほとんど為す術なく飲み込まれた。

 立て続けに気をやり、身体はぐったりと力を失う。それでも、下腹部の深いところでは、なおも甘い疼きが残っている。

「う、ン……ッねえ、ナハト、もう」

 そんなに、されたら、おかしくなる。
 ほとんど息遣いの声で呼び掛け、潤む両目で訴えたが――彼は、またも舌先を動かした。

 ねえ、嘘でしょ。何で。

 見開いたの瞳から、ぽろりと、雫が一粒こぼれた。

「ねえ、ナハト、もう……ッ! あ、あ……ッ!」

 ソファーの上で身動ぎをし、仰向けからうつ伏せの体勢へと変わったが、ナハトは全く止める気配がない。膝を立たせ、崩れた四つん這いの格好をさせ、なおも舌を這わせる。その執拗さは、本当に獣のようだ。

 ここまでされると、ほとんど責め苦の領域ではないだろうか。
 熱くて、甘やかで。頭が蕩けてしまいそうで、けれど、呼吸もままならなくて。

 どうしたのだろう。
 聞こえていない、なんて事はないはずなのに。

 掠れた声を啜り泣きのように響かせながら、後ろを振り返る。
 暖炉の赤い炎の光を受ける、黒い毛皮のイタチが、の下半身を捕らえていた。丸めているとはいえ、存在感を放つ爪を肌に押しつけ、頑として離すまいとするその姿は、獲物にしがみつく餓えた猛獣そのものである。足の爪先から、囓られてしまいそうな、そんな錯覚を見出した。

「ナハト……ッ」

 だって、耐えられないのに。
 これ以上はもう、熱くて、苦しくて、耐えられないのに。

 ずくずくと、下腹部が疼く。一度、二度と立て続けに気をやったのに、物足りなさで喘ぐなんてはしたないと思いながら、応じないナハトを必死に呼ぶ。

 呼び続け、何度目の事か、もはや分からないが――ようやく、彼の頭が動いた。

「――なんかさ、言って欲しいんだよね」

 びっしょりと濡れた口元を拭い、呟いたナハトの声は、思ってもいなかったほど低く、そして抑揚が無かった。
 の肩が、びくりと、大きく飛び跳ねる。
 静かなように見えるけれど、恐らく違う。きっとそれとは正反対で、今彼に、冷静さなど実は欠片ほどもないのでは――。

「ひゃ、ふぁ……ッ!」

 ぐちゅりと、わざと音を立てるように、埋められた指が動く。溢れ返るような水音が、容赦なくの耳へと入ってくる。

「や、やぁ……ッナハト……ッ!」
「そうそう、そういう声。全部、溶けたみたいな声でさ」

 うっそりと囁きながら、薄い舌が這う。震える太腿に生暖かい蜜が伝い落ちてゆくのを、も感じ取った。

「――ねえ、欲しいって、言って」

 何か枷が外れてしまいそうな、危うい獣の瞳に、欲望が爛々と光っている。
 暖炉の明かりで照らされる薄暗いその中に、獰猛な気配がはっきりと読み取れた。

「――君の口からさ、僕の事。僕が欲しいって、言ってよ」

 際限のない懇願と情欲がどろりと綯い交ぜになった、危うい感情を剥き出すその声が、の耳を無遠慮に嬲る。

 振り返った先にいる獣と、視線が交差する。とてもイタチの種族とは思えないくらい獰猛なのに、何故だか心臓がドクドクと跳ねて、目が放せなかった。

 期待が過ぎるあまりに、人間の、しかも獣人よりもずっと頼りない女の身体に追い縋る姿に――の中の深いところが、甘く掴まれた気がした。


 貪欲なのは、ナハトだけではない。
 それは、たぶん、私も同じで――。


「……ほし、い」

 ぴくりと、丸みを帯びた小さな黒い耳が、小さく跳ねた。

「ほしい、の。ナハト……ッわた、私の中に、ほしい……ッ」

 決して大きくはないけれど、静かな室内に、確かにの声は響いていた。


 その途端――狂おしいほどの感情を湛えた獣が、見て取れるほどの歓喜を溢れさせた。


 裂けた口元から牙を覗かせ、帯状の白い模様を描く黒い躯体が、の上に覆い被さった。
 その仕草は、我慢していた獲物へ喜び勇んで食らい付く猛獣のよう。
 けれど、は恐怖などは感じず、背中に折り重なった毛皮の感触に、安堵を覚えていた。

 ふかふかして、あったかい、ナハトの匂いがする――。

 どろどろに蕩けた秘所に、硬いものが宛がわれた。驚くほどの熱を帯び、時折跳ねるそれが触れた瞬間、の口から惚けた声がこぼれた。
 すると、頭の側面に、ナハトの顔が寄り添う。キュウキュウと、嬉しそうな獣の鳴き声が耳元で聞こえてきて――やがて、泥濘んでいる入り口を、剛直の先端が押し開いた。

 指と舌で散々昂ぶりながら、一向に止まらない疼きを持て余した身体に、欲しかったものが与えられる。物足りない切なさが、瞬く間に満たされた歓喜に変わった。
 それは、ナハトも同じだったらしい。耳元で響く青年の声と獣の鳴き声は、凄艶に震えていた。

「あ……ッすごい、中、どろどろ……ッ」

 の背中にぴったりと覆い被さり、隙間無く押しつけた腰が、我慢出来ずといった風に揺れ動く。その後ろで、細長い黒い尻尾が、気忙しく左右に振られていた。

「う、ン……ッ誰の、せいと……ッ。ひ、あ……ッ」
「僕かあ……それは、ふ、光栄だなあ」

 陶然とした溜め息が、ナハトから吐き出される。ばか、と鼻に掛かった声で悪態をつけば、ナハトは笑みを深めた。

「だって、仕方、ないじゃん」

 片側の手が、の腹部へと回る。掬い上げるように、下から乳房を包んだ。
 体重が掛かり、の中に埋められたものが、また深く沈み込む。

「いつも欲しがってるのは、僕ばっかりみたいで、面白くない」
「ナハト」
「僕と同じものを、君も、思ってくれたら――」

 視線を横にずらすと、すぐ側にはナハトの瞳が並び、じいっと見つめていた。
 形こそはつぶらだが、理性が溶け崩れるほどに熱に浮かされている黒い瞳の真ん中で、凶暴な獣欲が渦巻いている。
 その危うさに、くらりと、目眩がした。

 ナハトはうっそりと微笑み、首筋に牙を押し当てる。蝕むように何度も甘噛みをしながら、腰を前後に揺すり始めた。
 後ろから突き動かされ、たまらず上半身がソファーに倒れ込む。膝を立て、腰を持ち上げられる格好で翻弄されたが、次第にソファーへ全身を横たえ、仰向けの姿へと変えられる。
 力なく震える両足が抱えられたかと思うと、彼の肩に担がれた。ソファーから浮いたの腰を掴み寄せ、力強く打ち込んだ。

「は……ッもう、イキそう……、おいでッ」

 ナハトは呼吸を喘がせて、仰向けに揺さぶられる身体を抱き起こす。苦も無く軽々と正面から抱きかかえると、腕の中へきつく閉じ込め、激しく揺すった。
 も必死に腕を伸ばし、齧り付くようにナハトの肩を抱く。
 熱で昂ぶる身体を互いに強く抱きしめ合い、どちらかともなく声を震わせた。
 目の前が白く染まるような果てを迎え、互いが抱く身体が、幾度も小刻みに痙攣する。全身を包む熱は倦怠感へと変わり、噛み締めた吐息は温く染まった空気に何度も吐き出された。

「ふ、う……ッん……ッ」

 トクトクと、音がする。心臓だけではなく、内側の深いところからも、温かく伝わってくる。

 が全身で呼吸するように激しく肩を上下させていると、ナハトの頭が緩慢に動き出した。小さく獣の呻き声をこぼし、汗ばむ首筋に鼻先を押し込むと、ねっとりと舌を這わせてくる。冷めない余韻を弄ばれ、ふるりと、の肩が震えた。

 ナハトはを抱きかかえたまま、後ろへゆっくりと倒れる。ぎしりとソファーを軋ませ仰向けに寝転ぶと、彼の胸の上にが寝そべる格好となった。

「重く、ない?」
「平気、これくらいで潰れるほど、獣人はヤワじゃないよ」

 笑みを言葉に乗せながら、ナハトはの腰と背中を抱きしめ、手のひらを滑らせる。
 その仕草は実に上機嫌で、喉を鳴らしながら胸の上のに甘えてくる。何となしに、よしよしとイタチの頭を撫でれば、気持ちよさそうにうっとりと瞼が下りていった。

 先ほど見せた獰猛な様子は、一体何処に行ったのやら。普段の彼と、感情の振り切れた時の差が、著しく激しい。

「えっと、ね。ナハト」

 なに、とイタチの耳が動く。それを見下ろしながら、は両腕を突っ張り、上半身を起こす。背中に回っていた腕が解け、不満そうにイタチの両目が細くなった。

「ん、しょ……ッ」
「? 何してるの、――」

 ナハトの声が、途中で止まった。
 引き抜かず、未だの中に納められたそれが、腰を揺すった事で擦れたからだろう。

 一瞬驚いたように呼気を噛むナハトの様子を見下ろしながら、はぎこちなく続ける。彼の下半身に跨がり座り込んでいる身体を、そっと上下に動かしていった。じわじわと甘やかな快楽が広がり、が唇をきゅっと噛んだけれど、ナハトも同じように声を呻かせたのが見えて、無性に嬉しくなる。

……ッ? あ、ちょっと」
「これ、気持ち、いい?」
「いや、気持ちいいんだけど、でも……」

 下腹に力を入れ、きゅっと締め付けると、ナハトの身体が跳ねた。
 自分からこうするのは恥ずかしいものがあるけれど、反応が返ってくると、無条件で楽しくなる。ナハトも、こういう気分だったのかもしれない。

 自分ではけっこうしてくるけど、いざされると、びっくりするのかな。
 貪欲に欲しがる一方で、前触れ無く与えられる事に対しては、素直じゃない。そういうところは、不器用なのだ。

 ――私と、おんなじで。

 上下するナハトの胸に、手のひらを重ねる。覗き込むように見下ろし、ふわりと頬を緩めた。

「私は、ナハトになら何されても、けっこう、大丈夫。というか、いつでも歓迎、です」

 びくり、とナハトの身体が震えた。

「だから、不安にならないで、ね?」

 ナハトの小さな鼻先に唇を落とせば、二つの瞳は真ん丸に見開いて。
 それと同時に、の中で柔らかく力を無くしていたものが、むくむくと隆起し始めた。

 おや、と振り返ろうとした瞬間、の臀部がぎゅっと鷲掴みにされる。毛むくじゃらの指と爪が、柔らかい肌を力強くなぞる。

「……自分から、言っといてなんだけど」

 声色の変わった声が、うっそりと、甘やかに囁いた。
 のうなじが、不意にぞわりと粟立った。

「君から言われると、やっぱりだいぶクるな」
「あ……え……ッ?」

 しきりに瞬きをするに、牙を覗かせた笑みが向けられる。
 その瞬間、静かに寝そべっていたナハトの腰が、下から突き上げるように動いた。

「きゃ、う……ッ?!」
「ああ、良い光景。おっきい胸が、僕に合わせて揺れて」

 吐息をこぼしながら、眼下の獣が艶然と笑う。身体を上下に跳ねさせながら、は必死に彼の毛皮に指先を埋める。

「全部、溶けたみたいな表情。いいなあ、君がそういう風になってくれるのは」
「あッや、う……ッ!」
「前にも言っただろ。僕ら、というか、僕は貪欲なタチなんだ」

 ――そう言われたら、遠慮なくしちゃうよ。

 可愛らしいイタチの頭が、獰猛に微笑む。目の前が、ふわふわと、熱で支配されてゆく。

「嫌になった?」
「……やじゃ、ないです」
「良かった」

 嬉しそうに喉を鳴らす暗褐色の獣は、その歓喜を隠さず、再びを求めてきた。

 “凶獣”と呼ばれる傭兵。
 大型の肉食獣達と肩を並べる、獰猛なクズリという種族。

 こうして見ていると、屈強な獣人の中では背格好も近く、しなやかな細身で逞しさとはほど遠いように思うのだけれど、やっぱり獣人の、男の人だ。

 は小さく微笑み、ナハトの胸の上に折り重なる。にんまりと笑っているのだろう、機嫌の良い鳴き声が、耳元で響いた。


◆◇◆


 茶色の毛皮から暗褐色の毛皮に変わったナハトを見て、彼の友人達は「ついに冬が来たか」と感慨深そうに呟いた。
 彼らにとっては見慣れた姿のようで、驚くような様子はない。冬の季節の風物詩のように思っているのだろう。

「今年も例年通り、とてもイタチとは思えない見た目になったな」
「熊みてえだな、本当に。ほら、いつだったのかの絵の通りだ」
「何で持ってんだよ、そんなもの」

 めっちゃ爆笑したからその記念に、と素敵な笑顔でいつぞやの手配書――凶悪な熊っぽい獣人の絵が書かれた人探しの紙――をヒラヒラと見せびらかしたが、風のような速さでナハトに奪い取られ、真っ二つに切り裂かれた。
 友人の口からは「激似だったのに……」と残念がる切なそうな声がこぼれ落ちた。

 あーあー、ナハトってば……。

「まあでも、俺らは見慣れてるけど、さんは驚いただろ」
「しばらく依頼で出掛けて、戻ってきたらこんなだもんな」
「それは、まあ、少しだけ」

 すると、ナハトから「よく言うよ別人と間違えたくせに」と呟きが聞こえたので、腕に持っていた四角いトレイで肩を叩いておいた。

「いや、茶色から黒っぽくなっただけで、別人みたく変わるしな」
「さすがにこの外見は、怖いって思ったんじゃないかな」

 悪戯っぽく友人達は笑ったが、は即座に首を振った。

「びっくりはしたけど、怖くはないですよ。見た目がちょっと変わっても、ナハトはナハトなんですから」

 本心からそう言えば、友人達だけでなく、何故かナハト本人まで驚いていた。何故そこで彼までそんな表情をするのか。

 彼らが言う“怖い”とは、見た目ではなく、ナハトの中にあるというもう半分の猛獣の事を指しているのだろう。その意味を理解した上で、そもそも一緒に居るのだ。“怖い”なんて思うはずがない。

 あの日から、私にとって彼は、恩人であり、愛しい人であり――英雄なのだ。
 
「まあ、時々、不思議にはなりますけどね」

 そうやって素っ頓狂な顔をしていると、やっぱり可愛いイタチにしか見えない。
 そんな彼についた呼び名が“凶獣”なのだから――世界は、知らない事ばかりだ。



あらゆる事をすっ飛ばしました、おまけの番外編でした。
感想欄でもたびたび出ていた、冬毛の模様替えがついに行われたようです。

「ウルヴァリン、クズリって、どんな動物だろう」と思いましたら、是非とも画像検索を。
本当、とてもイタチの仲間には見えない姿をしているんで、びっくりする事は間違いないでしょう。

なんか面倒くさい奴だなと作者も思いつつ、でもそんなナハトは……嫌いじゃないぜ……と思っていただけたら光栄です。
そしてそんな彼を受け止めるカティの懐はお母さん級。
この二人が、読んで下さる方々の心の本棚にいたら、とても嬉しく思います。

全身まるっと人外は、とてもよいぞ!


2019.01.02