さあ、最高のデートへ!

、これやるニャ」

ベージュ色の体毛で手足の先が茶色に染まっている、一般的な色合いのアイルーが現れた。渓流でサバイバル生活を余儀なくされた上に桜色の無地のアイルーになってしまったの、鬼コーチであるカルトだ。
はタケノコをもぎ取ろうとしていた手を止め、彼に向き直る。
その手には、竹の筒が乗せられている。器用に蓋までついていて、腰に巻けるよう紐までくくってある。それは、彼ら野生のアイルーがつけている、筒状の物入れだ。
は思わず、カルトをガン見してしまった。

「……なんで」
「ニャニが」
「どうして、突然、譲ってくれるの」
「人を鬼みたいに呼ぶんじゃニャイ!」

竹筒で殴られた。これが鬼じゃないというのだろうか。
潰れた声を漏らすを他所に、カルトは竹の物入れを自慢げに説明する。

「これを付けて採集するのが、オレたちのポリシーだニャ。手に持っていたら逃げられる時も逃げられないものニャ、も一端のアイルーなら使うといいニャ」

カルトに押し付けられたそれは、見た目によらず結構軽い。粗忽な感じは否めないが、十分な機能を持っている。
けれど……

「カルト、これ……」
「ニャ?」
「作って、くれたの……? わざわざ」

がそう言うと。
カルトの顔が、一瞬で真っ赤になる。
猫も顔を赤くするのか、と見当違いなことを思ったが、カルトは目の前で物凄い挙動不審になりつつも憤慨しながら否定している。

「別に、アンタのためにしたんじゃニャイ! ハンマーの手入れの、ついでに、やっただけニャ!」
「作ってくれたんだ」
「ニャ!?」

だから違うニャ! と完全否定の姿勢を崩さない。は竹の物入れを見下ろした後、正反対にとても落ち着いた穏やかな声で。

「ありがとう」

そう、カルトに告げた。
彼は急に静かになったが、そっぽを向いた顔は相変わらず赤く、ヒゲは忙しなく揺れている。尻尾なんか、猛スピードで横に振られて、凄いことになっている。
……思ったことはすぐに口に出るし、手も出るが、義理堅く実は世話焼きな性格の彼には、妙に似合っていた。
は小さく微笑み、竹の入れ物を腰に巻きつける。ギュッとしっかり固定させると、くるりと回ってみせる。

「どう? 似合ってる?」

カルトはちらりと見て、フンッと鼻を鳴らした。

「別に、普通ニャ」
「ええー? もう、褒めないと女の子にモテないわよ」
「余計なお世話ニャ」

カルトはぶすっとしたが、おもむろにに歩み寄ると、腰に巻いた紐を結びなおす。
一応、私は成人しているんだけど……アイルーに、そして恐らく人間年齢だと十代であろうカルトに、こう、世話をされるのも不思議な気分だ。

「もうちょっとしっかり結ぶニャ、ここは厳しい世界ニャ」
「了解です」

カルトの手が離れ、今一度竹の物入れを見下ろす。さすが手馴れたプロがしただけあって、ズレもなければ落ちそうな感覚もない。
で、こうやって、後ろでに入れていくのね。これは確かに便利。
が感動する傍ら、カルトがごく小さな声で呟く。

「……ピッタリだったニャ」
「え? 何か言った?」
「別に、言ってないニャ」

ホッと安堵した一瞬の表情を、は気付かなかった。

「アンタのことだから、きっと上手く扱えニャイだろうし、オレが教えてやるニャ」
「えっ」
「ほら、行くニャ!」
「ま、待って、タケノコ……」

打って変わり、上機嫌になったカルトに連れ出され、採集途中だったタケノコは遠ざかっていく。
の残念そうな声など、今のカルトには届かないだろう。
アイルーとキャッキャウフフ……! フフ、ウフフ……! ( もう駄目だコイツ)
ていう、自己満足な話でございます。

2011.06.04