心が動く、音がした(2)

温かい陽射しが降り注いだ、壮麗なる渓流は、夜ともなれば一層静寂に張り詰め、月夜に冴えて浮かび上がる。
昼間はそう目立たなかった、雷光虫の放つ光がポウッと暗闇を舞い、蛍のようだった。
人の居ない世界だからか、限りない静寂に覆われ、幻想的にも思える。ただ同時に、夜は危険時間でもあるためあまり外に出てのんびりと夜景を眺めているわけにもいかない。
蔦の簾を分けて、腹這いに外を眺める。お腹の下には、ガーグァの羽クッションを敷いているので、硬さと冷たさはなく快適。ただ、肌寒い。

「ぷえっくしょん!」

時間はもちろん、月日を測ることなど高度な技術のないには、想像でしか思えないが、今はきっと春の季節の気がする。根拠もないが。それにしてもこの今晩の肌寒さは、なかなか堪える。
ぼんやりと月明かりを見つめ、ふと思い出す。そういえば、ジンオウガは夜にのみ洞窟から出ると言っていた。もしかしたらこの辺りにもやって来るのだろうか。ふんふんと地面を鼻でつつくファンゴを見つめ、食事タイムになる前に寝ていようとはいそいそとベッドに戻る。もそりと身体を丸め、数時間前に会っていた彼を思い出す。

「……ジンオウガ、かぁ」

モンスターらしかぬモンスターの姿を思い浮かべ、頭から布団を被った。



――――― が眠ろうかと布団に包まっている、その頃。

昼間は洞窟内で静かに身を潜めていた王者が、首をもたげ立ち上がった。暗闇の中で浮かび上がった、屈強な四肢と体躯の輪郭は、何処からか漏れる月明かりに照らされているせいか一層張り詰め美しくなる。
地下水脈を横切り、隆起した岩場を軽々と越え、洞窟の平地にのし上がる。そこにいるのは、数匹のジャギィとブラハブラ程度で、目もくれずに入り口へと向かう。太い四肢に踏み潰されないよう、ジャギィたちは寝ぼけ眼で逃げる。
昼間動いていないとはいえ、空腹はやはり訴えている。喉の奥で渇くような感覚を感じ、ジンオウガの足は自然と早くなった。

あのアイルーは、何処にいると言っていたか……。

何故か唐突に思い出した。確か、ガーグァが多く姿を見せる、樹木立ち並ぶ一帯に居ると言っていたような気がする。
自分よりも遥かに強大なジンオウガにもすっかり物怖じしなくなった、変わり者の桜色アイルー。

……この渓流に来てから、考え込んでしまうな。このようなことは、もう無かったはずだが……。
桜色のアイルーの姿が過ぎることこそ、どうかしている。

「――――― ん?」

滝の流れ落ちている入り口の、手前。小さな影が、佇んでいた。
その輪郭とあまりの小柄さから、また桜色のアイルーかと思ったが、どうもそうではない。輪郭はアイルーで間違いないが、その手にはどんぐりのハンマーらしきものを握っている上に、地上から……睨んできている、ような気がした。ジンオウガの体躯は稀に見る大きさで、顔がだいぶ高位置にあるため、威圧感らしいものをまるで感じないが、臨戦体勢っぽいのは分かった。一般的なアイルーではあるものの、この渓流に来てから関わった野生のアイルーと言えば、あの桜色のものだけで、この見上げてくるアイルーには覚えがない。
ジンオウガは動きを止め、その小さなアイルーを見下ろす。不思議な見つめあいが続いたが、足元のアイルーが不意に口を開いた。

「……流れのヤツだニャ? アンタが」

……ふむ、他のアイルーの言葉も、聞き取れるか。
声音を聞く限り、まだ若い雄というのは分かった。だが、握り締めていたハンマーを振りかぶった理由は、さっぱりである。

何故?

「……アイルーよ、退け。相手をしている暇はない」

とジンオウガは言って見てみたが、通じている様子はない。やはり、あの桜色アイルーでないと、会話は難しいのか。
――― などと思っていると、アイルーは跳躍し、ジンオウガの堅い胸部に向かいハンマーを振り下ろしていた。
まあ予想の通り、痛くもなく小突かれた程度以下の感覚しかなく、ジンオウガに手傷を負わせるには至らない。むしろアイルーの方がスッ転んでいた。どんぐりで堅殻を砕けるなんて、無理な話だから当然だ。
しかし、ジンオウガを睨むアイルーの目には、未だありありと戦意が浮かんでいる。痛みは無い、が、その挑みかかる気迫というのは《上位》狩場で生きてきたジンオウガを一瞬だけ怯ませる。

このアイルーは、何がしたい。

ジンオウガの目が細められた時、アイルーが転んだ身体を起こし、真ん丸の目をキッと吊り上げた。

「……アイツが来てから、おかしいニャ。でもアンタが来てからも、おかしいニャ」
「……?」
「つまらないニャ、アイツはアンタのところばかりに行くニャ、最初に見つけたのはオレニャ」

……? このアイルー……。
ジンオウガは、何かを察した。この小さいものが言っていることは、もしや、と首を傾げると。
再び、ジンオウガに対しどんぐりハンマーが振りかぶられた。

……仕方ない。

早く空腹を満たしたい思いから、ジンオウガはアイルーに視線を投げ、洞窟を飛び出した。追いかけられる程度の速度で、静まり返ったせせらぎを駆ける。
幾ら夜が深いといえど、観測隊の目があるかもしれない。とりあえず向かう先は、空高く樹木が生い茂る、森林部だった。




――――― ニ゛ャァァァァアアアア!

まさに眠りを引き裂く、甲高い猫の声。
は飛び跳ねるように身体を震わせ、バチッと目を開く。薄暗く、入り口の蔦の簾の間から漏れる月明かりだけが唯一の光だが、その向こうから……激しい猫の声が聞こえる。
もぞりと布団から抜け出し、恐る恐るうかがった。腹這いになり、蔦を掻き分けると、何やら青白い光がの視界を照らし出す。寝ぼけ眼が、急に鮮明になる。

……月明かりが、青白く発光するだろうか。

そのようなことはなく、の見ていた月明かりはどう見ても自然のものではなかった。いつかの再来、雷光虫である。ふわりふわりと舞う蛍のような優雅さはなく、鮮烈な青い光を帯びて深夜に浮かんでいる。
もしや、と思い簾を上げて身を乗り出す。うっかり手を滑らせて落下したものの、の目の前にドシンと地を揺らして映ったものに痛みにそう呻いていられなかった。
流れのもの、ジンオウガ。青白い雷光虫を数匹纏わせた、勇ましくも美しい立ち姿には目を惹きつけられる。
……が、この時まず最初にが見たものは。

「……カルト?!」

そのちっぽけな身体の倍もあるジンオウガの前足に、どんぐりハンマーで殴りかかっているアイルーの姿だ。
勇敢といえば勇敢だが、前足ですらカルトやを凌ぐ太さであるのに、恐ろしさの方が遥かに上回る。一体何をしているのか、どころの話ではない。
眠気などすっかり吹き飛び、は慌てて地面に這い蹲ったまま精一杯の声を張り上げる。

「カルト、馬鹿、何してるの!」

その声に、ジンオウガが首を下げる。……うわあ、もの凄く面倒くさそうな顔。

「……アイルー、お前の知り合いだろう」
「まあ、そうなんですけれど、あの、一体……」
「そんなもの、俺が聞きたい」

そりゃ当然だ。
だが、残念なことにもこの事態の理由を聞きたい。

は引っ込んでるニャ! これはオレの戦いニャ!」

なんて、カルト本人は血気盛んにジンオウガの前足を殴っている。が、効果のほどは期待出来そうもない。ジンオウガの目が、一層面倒げに細められるくらいだ。

「カルト、止めなさいって。ジンオウガさんにはどうやっても敵わないから!」
「~~~! うるさいニャ、コイツがいるから面白くないのニャ!」

の放った言葉に、カルトの顔つきが変わる。はその剣幕に、年下ながら気迫を感じて肩を揺らす。
何を怒ってるのよ、この子は。昼間からそうだった。
理由も分からないんじゃあ、まるで一方的な子どもの癇癪だ。夜中にわざわざ喧嘩を売ったのならば、幾ら稀に見る穏やかなジンオウガも、そろそろ……。
と思っていた矢先、されるがままだった彼の前足がピクリと揺れ、次の瞬間にはカルトが高らかに空を舞っていた。
なんてことは無い、ただ前足を払っただけである。だがアイルーにとっては、まさに一撃必殺。
しばし宙を舞った後にベシャリッと地面へ落ちたカルトのもとへ、は駆け寄った。

「もうカルト、しっかりしてよー? カルトー?」

ジンオウガの何気ない前足で伸びたカルトの頭上では、星が回っていた。
その後ジンオウガは、「全く意味が分からん」とぼやきながら、遅い食事をしに去っていった。カルトを押しつけるため、この場所にまで来ていたのかもしれない。
……申し訳ない限りだ。

カルトが目を覚ましたのは、それから数分後のことだった。
彼は飛び起きた途端、またハンマーを握り締めようとしたため、今度はがペチリと頭を叩いて阻止する。いつもは逆にカルトが叩くせいか、彼の目が真ん丸になって動きを止める。

「止めなさいってば。ジンオウガさんには勝てないんだから」
「そんニャの、分からないニャ」

途端に不機嫌になり、ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
「昼間から変よ」は声にし漏らした。カルトは黙ったまま、顔を背ける。

「私が気に入らないの? 私が何かした?」

尋ねてみても、やはり答えてはくれない。彼が言ってくれないことにはこちらはお手上げだ。は、溜め息をついた。

「……別に、が悪いわけじゃないニャ」

ようやくカルトは口を開いたが、重く沈んだ声音だった。

「じゃあ、どうしたの?」
「……つまらないニャ」
「つまらない?」
を最初に見っけたのはオレなのに、後から来た流れのヤツばっかりニャ。何かつまらないニャ、面白くないニャ」

……えーと、つまり?
やきもち?

いまひとつ要領を得ないが、まあおおよそでは、そういうことなのだろう。何だかもう、本当に小さい子の些細な癇癪なように思えてきて、はこっそりと笑みをこぼしたが、カルトのジトリとした眼差しに慌てて口元を隠す。

「……が来てから、何か変ニャ。アオアシラなんかと一緒にいるし、流れのヤツに関わったし……面白くないわけじゃないけど、変な気分ニャ」

カルトはそう言うと、むすりと押し黙る。二人の間に沈黙が流れ、はしばし眺め考える。その後、小さな声音で呟く。

「私は、カルトとのこと頼ってるよ?」
「……」
「最初に声をかけてくれたのはカルトだし、今まで色々教えてくれたのもカルトでしょ? ジンオウガさんは、人間の世界のこと詳しいから聞いてるけど、同じくらいに頼ってるだけ。カルトのこと、別に嫌だとかそういうのは全然ないのよ」

疑うような視線が向けられる。「本当かニャ?」と尋ねてくるから、「本当です」と毅然に返す。「本当に、本当かニャ?」とまた尋ねられ、「本当の本当です」と返す。そしてまた「本当の本当の本当の……」などと続き、そのやり取りはその後一時間くらいやることになった。
そんな深夜のやり取りの時、ジンオウガは恐らく悠々と腹を満たし帰宅していたことだろう。




「――――― ということで、アンタのことは信用してないけど、まあ認めてやっても良いニャ!」

元気よく胸を張って、尻尾を揺らし言ったカルトは、それはもう輝かしい笑顔であった。
何に対してか、それは当然、寝起きのジンオウガに対してである。
半眼の顔が、心なしか呆れているようにも見受けられる。相変わらずカルトのやることは恐ろしい、と思うのは元気な彼に半ば引っ張られてきた同じく寝起きのである。
彼の中では何かが解決したようだが、結局はよく分からないままで、まあ元気ならそれで良いだろうと思っているが……ジンオウガにそれを求めるわけにもいかない。ほら、凄い面倒くさそうな顔してるもの。

いつまた、前足でポーンッとされるか内心ヒヤヒヤしていたが、首をもたげているジンオウガはフンッと鼻を鳴らした。

「……どうでもいいが、また賑やかなものが増えたな」

それは私のことも言っているのだろうか、などと見上げているが、カルトには獣の唸り声程度だろう。通訳を求められてそのまま告げたら、えらく憤慨しどんぐりハンマーを振り回す。ジンオウガの前足に軽く頭を押さえつけられ、漫画のように腕をグルグル回し空を切る。
……確かに賑やかだ。ゲームでも、こんなことがあるのだろうか。いや、恐らくないだろう。

は変なヤツだから、オレが面倒見てるのニャ。流れのヤツなんか、オマケニャ! そう思うことにしたのニャ」

「……おいアイルー、コイツは一体何のことを言っている」
「えーと、一晩付き合っても正直分かりませんでした……」

何をしたかと言えば、主に私の体力を削ってくれただけである。おかげで絶賛寝不足、朝日の眩しさが目を貫いて、洞窟内の仄かな明るさがありがたい。

「……で、流れのヤツ、アンタ名前は? ジンオウガって言ったニャ?」
「カ、カルトったら、そんな態度で」

怖いもの知らずな彼にヒヤヒヤしっぱなしのを置いて、カルトは言葉を続ける。

「昔、この場所から少し遠くの、人間の暮らす村でもジンオウガっていうモンスターの騒ぎがあったらしいニャー。それと同じ種類のモンスターニャ?」

――――― 今まで半眼だったジンオウガのそれが、急に鋭さを取り戻し、眼光を僅かに放った。
けれど、カルトとは気付かず、「よく知ってるわねー」「アイルーの情報ネットワークは、凄いのニャ」とのんきに話していた。

「名前は、確かユクモ村っていうニャ。近くでジンオウガが暴れてて、二人のハンターに退治されたとかニャ」
「そう……そのジンオウガとは違うけど、きっと同じ種族ね」

それって、もしかしてゲームのストーリーかしら。以前、プレイしていた友人が言っていた気がするけれど……。
と、はそこで、ジンオウガが押し黙っていることに気付き、ハッと見上げた。幾ら別個体であっても、そんな話気分を悪くするだけだ。

「あ、ご、ごめんなさ……」

は謝ったが、ジンオウガはそれに反応せず、何かを必死に考え込んでいる様子だった。獰猛な横顔に、険しさが見えるが……。
「……ジンオウガさん?」は、ぎこちなく名を呼ぶ。たっぷりの空白を挟んで、ジンオウガの意識がへ戻ってくるが、様子がおかしいことは変わらない。ああ、気分を悪くさせてしまったか、そう思ったのだけれど、不意に「そのハンターの話は分かるか」とカルトへ尋ねた。
急にどうしたのだろう、と思いながらも、は慌てて通訳した。カルトは、首を傾げた後、「知らないニャ」と言った。

「そこらへんはよく聞いてないニャー。でもどっちか片っぽが死んだって話ニャ。今はそのユクモ村は、その残った片っぽが守ってるらしいニャ。」
「……そうか」
「アンタも変わりものニャー、普通ハンターのことなんかどうでも良いニャ?」

ちょ、カルト、もうその辺で。
ズケズケと言うのはアイルーの傾向なのだろうか、はそれをやんわりと止めた。けれど、も心の中では同じ感情を抱いていた。
確かに、このジンオウガは変わってはいる……モンスターのわりに静かな知性を持っているし、人の世界にも精通している。そして今この瞬間も、凶暴さを見せず穏やかな態度だ。
だがそうは言っても、に深くを尋ねる考えは無く、胸の内で巡らせただけに終わる。

ジンオウガは、再び口を閉ざし、声音を改めて呟いた。

「……ところで、このアイルーは変わっているが、他にもこんなものがいるのか」

え、私にくるの?
何で、とが目をむくと、ジンオウガの青い目が「通訳しろ」と訴えてくる。
……翻訳も忙しい。というか自分のことを含む言葉のも、結構気まずいな。そう思ったが、視線で殺されそうだったため渋々通訳する。
すると、カルトは「そんなわけないニャーこいつだけニャ」と馬鹿にしたような笑みで言った。
……腹立たしいのは、何故だろう。

どうせ、私は変わり者よ、別世界に来て、あまつさえこんな憎らしいくらい可愛いアイルーの姿になったんだから。

がムスッとしていると、カルトはさらに続ける。

「コイツ、自分が人間だったなんて言い張ってるニャー。山菜爺くらいニャ、そんなの信じるの」

アンタは敵か味方か、一体どっちだよ!

いや分かってはいた、分かってはいたけれど。
率直に言われると、泣き出したいやら恥ずかしいやら、複雑な心境になる。
誰にも言うまいと思っていたことを、こうも呆気なくバラされるとは、カルトはやはりお調子者である。これでせっかく親しくなったジンオウガにまで、変人を見るような顔をされたらどうすればいい。
すがるような気分で、はジンオウガをバッと見た。ジンオウガさん! と意味もなく叫びたくなったが……。

予想外の顔が、あった。
ジンオウガは、それこそ今までに無く驚愕を露にし、口を半開きにさせるほど仰天していた。

……幾らなんでも、そこまで驚かなくたって。
どうせ私はアイルーになった人間よ、こんな境遇になった人なんていないわ。
この場に机があれば縁を掴みガッタガタ揺らしているところである。
今度はジンオウガから、「変なヤツ」と言われるのだろう。覚悟はしているが切ない、とは目を伏せたが、一向にその言葉は来ない。おや、とはうかがうと。

「……お前は……いや、まさか……」

何かを言おうとしていたが、「ジンオウガさん?」とが小さく呟くと、ハッとなり、飲み込んだ。

「……もと、人間だと、本気で言っているのか」

ああ、だがやはり言われてしまうのだろうか。けれど、それを否定するのは……出来ない。

「そうですよ」

真っ直ぐに、頭上の青く鋭い目を見て、言った。
ジンオウガは一層目を見開いて、言葉を無くしたようだった。
は自嘲的に笑みを浮かべる。

「……なんて、貴方は信用しないでしょうけど」

いくら博識なジンオウガでも、そんなこと考えもしないことだろう。山菜爺くらいの年長でなければ、理解もしてもらえない。人にだって信用してもらえないなら、モンスターにだって……。
そう思い、会話を変えようとした、その時。

「――――― そう、か」

否定もせず、肯定もせず、けれどただ一言だけ呟いた低い声。は、口を半分開け、ジンオウガを見た。
彼もまた、目を真ん丸にしたままを見下ろしている。

「え……?」
「……それが嘘か本当かどうかは、置いて。お前は、確かに変わったアイルーだな……」

後ろで、カルトが「何の話ニャ、混ぜるニャ!」と主張しているが、には届かない。
ジンオウガの眼差しが、この時ばかりは本当に不思議だったのだ。それは正確に言い表すことが出来ない、曖昧なものでもあったのだが、その獰猛な瞳の奥に《何か》が見えた気がした。

「……アイルー、お前の名前は何て言ったか」

ジンオウガに問われ、静かに「です」と返す。彼は、獣の唸り声の中で名を呟き、改めて「そうか」と言った。
それが何のための行為だったのかは、に知る由もないが、少なくとも……人であるという言葉を飲み込んでくれたのは、山菜爺を除きジンオウガだけである。

怪我を負い、やって来た流れのモンスター……ジンオウガ。

が、彼にも隠している何かがありそうだと思ったのは、この時であった。
ちょいちょいオリジナルネタが飛び交います。ゲームストーリーは、何処かへ消えた。

さて、これを機にまた山を越えます。
三者揃った渓流で、次の話は……そうですね、そろそろプレイヤーキャラとか出してみたいですねー。


2011.10.21