03(18禁)

 ――ゴォォン……ゴォォン……

 静寂に包まれていた夜半に、鐘の音が鳴り響いた。
 古い年が終わり、新たな年の訪れを知らせる、厳かな鐘の音色だ。
 町外れに佇む立派なお社から告げられるその音は、あやかしの町の隅々に行き届いているだろう。それを遠く聞きながら、は雪綱と視線を合わせる。そして、どちらかともなく、ふっと笑みを浮かべる。

「新しい年ですね。今年もよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む」
「今年は、夫婦らしい事、いっぱいしましょうね!」

 ピクリと雪綱の三角の耳が跳ねた事に気付かず、はあどけなく想いを馳せた。

「雪綱さんの毛繕いにも力を入れて、狩猟のお手伝いもしたいし……あ、一緒に狩りに行ってみたいです。何処か遠くにお出かけするのも良いですね」
「なるほど、遠出か。楽しいだろうな」
「腕を組んで回りましょうね!」

 うふふとは上機嫌に笑っていたが、雪綱は何処となく真剣な面持ちで頭を下げた。

「他には?」
「……他?」

 首を捻ったへ、おもむろに雪綱は身体を直し、膝と膝の間にある距離を詰めた。囲炉裏で静かに燃える火と、蝋燭台の明かりが、黒い和犬の横顔を照らし出す。

「――子作り」
「!!」

 は息を飲むと同時に、その顔を赤く染め上げた。

「ゆ、雪綱さ……」
「まだ、恐ろしいか。人とは違うこの手や、この姿が」

 待ってくれと、両手を突き出して放ったあの日の言葉を、彼はまだ守ろうというのだろうか。へたり込んでしまった三角の耳や、熱で燻る両目が、もう耐えられないとこんなに訴えているのに。
 優しいというか、生真面目というか。しかしそれが、雪綱らしい。
 は心底、この人が夫であって良かったと思った。

「……怖いだなんて、もうこれっぽっちも思ってないですよ」

 伏せてしまった雪綱の耳が、真っ直ぐと立ち上がってゆく。それに合わせるように、茫然としていた彼の眼へ、ぎらついた光が浮かぶ。それを正面から目の当たりにし、の心臓が激しく跳ねる。

 望んでいたのは、彼だけでない。
 私だって。私だって、ずっと――。

「後悔、していたんです。あの時、雪綱さんを拒んだ事。だからもう……“待て”はおしまい、ですよ」

 雪綱は茫然と熱に浮かされながら、その手を持ち上げる。ぎこちなく伸ばされた毛むくじゃらの大きな手を、は自ら握り、頬へ押し当てる。
 それが受け入れる意思なのだと、理解してくれただろう。
 彼は弾けたように、両腕でを抱きすくめた。力強く触れたその瞬間、喜びに震える獣の鳴き声が耳元で響く。待ちわびていたのだと告げる切ない音色に、もまた背中を抱きしめた。


◆◇◆


 肌寒さは、あまり感じなかった。
 むしろ、少し熱っぽく感じたくらいだ。

 冷たい空気は囲炉裏と火鉢の熱でじんわりと暖められ、冷えがちな床板には座布団代わりの毛皮を敷き詰めている。それらが冬の寒さを緩和しているのだろうが、きっと、の身体に寄り添った雪綱のおかげでもある。
 背面は黒く、顎から腹部にかけては白い彼の毛皮は、冬になってますますもこもこになり、その中に熱を蓄えている。柔らかい毛皮の中へ手を埋めると、じっとりとした熱を伝えてきた。

(あったかい……)

 仰向けに寝転がったの上には、雪綱がのしかかっている。その重みも不思議と心地よくて、はほうっと息をこぼす。
 すると、雪綱の手が、の衣服を掴んだ。腰紐を解き、緩んだ合わせ目をぐいっと左右に割る。その下にあった素肌と、二つの膨らみが、揺れる炎の明かりに照らされ、雪綱の眼下に晒される。
 彼の両目が、じっと、食い入るように見つめているのが分かった。
 肉を食べる機会が昔から多いから、がりがりの痩せっぽちではないと思うが……気に入らないところがあったらどうしよう。

「雪綱さ……あッ」

 不安に思っていると、の上に乗った狗の鼻が微かにひくつき、グルルと喉を唸らせた。その瞬間、彼の濡れた鼻先がの首筋に押し込まれ、すんすんと何度も匂いを嗅がれた。むず痒さを堪えていると、やがて彼は満ち足りたように息を吐き出し――。

「ずっと、この匂いが隣でして、途中から……気が狂(ふ)れるかと思った」

 ――ありありと嗅ぎ取れる熱情を、その低い声に孕ませ、の耳元に吹き込んだ。

 ぞわりと項を震わせたへ、雪綱の手が伸びる。獲物を握る大きな手のひらが、天井に上向く柔らかい膨らみを包み込む。

「ん、ふふ……ッ」
「どうした」
「少しだけ、くすぐったい。手も、毛むくじゃらですもんね」

 彼の手は、人間のように五本の指があり、きちんと曲げられる作りをしているが、やはり狗のあやかし。指の先端には、丸めているが分厚い爪が生え、全体を毛皮で覆い、手のひらには乾いた肉球がある。の肌に触れる感触の全てが人のものではないが、恐ろしさは感じない。むしろ、傷つけまいとする仕草が優しくて、愛おしいと思う。
 小さく笑うに、雪綱も釣られるように笑みを浮かべる。手のひらに収めた膨らみを、獣の指先でやんわりと歪め、撫で擦った。ぞわりと走った震えには身体を微かに跳ねさせ、吐息を噛む。
 おもむろに、雪綱の狗の頭部が、首筋から胸元へと下りてゆく。手のひらで掬い上げられた胸の頂に顔を寄せると、裂けた口を開き、平べったい舌を伸ばした。
 温かく湿った獣の舌が、べろりと、その頂を舐め上げる。

「ひゃッ?! ゆ、雪綱さんッ」

 身動いだの身体を、雪綱が押さえる。きっと、本人には軽く押し止めてやる程度の力なのだろうが、それだけでは動けなくなってしまう。

 差し伸ばした長い舌が、柔らかい丸い輪郭ごと、ほのかに立ち上がった頂をなぞってゆく。見上げる雪綱の瞳には、陶然とする熱がはっきりと宿っていた。そのうち、彼は頤おとがいをがぱりと開け、その中に擁した牙を覗かせながら、眼下の膨らみを甘く食んだ。

「ひう、ん……!」

 熱い息づかいと獣の牙が当たる。長い舌は思うがままに這い回り、舐め啜り、硬くなった頂をぐにぐにと押し潰すように捏ねくる。
 片方の胸だけでなく、二つとも、全て。

 ――食べられる。

 そんな錯覚が過ぎるくらいに、その光景は、正しく獣のよう。人の身体と同じ言葉を扱いながら、狗という獣の性を色濃く持つあやかしだという事を、まざまざと感じた。視界に映る光景はちょっとした捕喰風景のようだったが……不思議と、怖くない。
 ただ。
 ただ――。

「あ、雪綱、さ……ッふぅ……ッ」

 震える手を伸ばし、雪綱の肩を掴む。柔らかい毛皮の中に指先が沈み、じっとりとした熱を帯びる地肌を引っ掻くように探る。
 それが心地よいのか、それとも嬉しいのか、雪綱は毛皮に覆われた喉元からグルルと音を鳴らす。
 ひとしきりの胸を甘く舐めしゃぶった後、ようやく彼は口を離した。ふるりと震えながら解放された膨らみは、てらてらと光るほど唾液に塗れていた。

「これは、あまり好きではないか?」

 ぺろり、ぺろり、と彼の舌が丹念に拭ってゆく。は吐息を漏らしながら、黒柴の頭を見つめ、小さく呟く。

「嫌とか、ん、そういうのは、ないんですが……」
「何かあれば、言ってくれ。俺の頭が、まだ飛んでいないうちに」

 人とあやかしは、あまりにも違う。加減が分からないと、雪綱の声が続く。

「あの、くすぐったいような、そうでないような、変な気分がして……ッぞわぞわって、背中が」
「…………」
「こういう事は、初めてだから、何だかくるしい……ッ」

 困惑するままにとつとつと告げると、雪綱の喉からウグゥという奇妙な呻き声が上がる。伏せた頭と、大きな背中が、次第にぶるぶると震え始め、どうしてしまったのかとは不安に駆られる。

「――、お前は」

 下がっていた彼の顔が、ゆるりと、へと向く。囲炉裏の柔らかい火に照らされた彼の両目は――炎の色のせいか、昂ぶりに逸り、血走っているようにも見えた。

「どうにか抑えているのに、どうしてそう、可愛い事ばかり……」

 押し殺すような低い声が耳に届いた、その直後――雪綱は唐突に身体を起こした。
 暖かい毛皮が遠ざかり、なんとなしに寂しい気分になるのも束の間、雪綱はの身体の上からずり下がってゆく。

「雪綱さ……ッ?」

 雪綱の手が、の腹部に押し当てられ、腰の括れから太股までなぞるように伝い下りてゆく。そして、もじもじと擦り合っていた膝を力強く掴むと、そのまま持ち上げ、大きく割った。

「ゆ、ゆ、雪綱さん……?!」

 それにはさすがにぎょっとなり、は足をばたつかせる。が、全然まったく抵抗にならず、両足を開かれた格好のままぴくりとも動かせなかった。

 雪綱の視線が、痛いほどに注がれる。割り開かれた足に。恥ずかしいほどに無防備な格好に。
 外気に晒された、隠すべき秘所に。

 恥ずかしい。
 涙が滲み、羞恥心で焼けるような思いがした。

「ああ――ここが一番、お前の匂いがする」

 だというのに、雪綱は譫言のように呟き、熱く息を吐き出している。
 じっと眼差しを注ぎながら、雪綱の首がふらりと下がってゆく。大きな背中が屈み、狗の頭が埋められ、は両手を伸ばしたが――制止する間もなく、平べったく厚みのある舌が、そこをぐちゃりと這った。

 爪先まで走った未知の感覚に、全身がしなる。

 そもそも、そんなところを他人に触れられるのも初めてでだというのに、まさか舐められるなんて思ってもなかった。その上、音を立てて舐め啜られ、身体の深いところに疼くような熱が灯るなんて。恥ずかしさより、困惑の方が遙かに大きかった。

「ふう、う……ッ! 雪綱さ……ッ」

 雪綱の指が、どろどろに泥濘んでいるだろう秘所を、そっと押し広げる。入り口を探ると、その指先をぬるりと滑り込ませた。舌は絶えず這い回り、痛みと疼くが一緒くたになってを熱く蝕む。

 震える身体を捩り、伸ばした両手でぎゅうっと彼の頭を掴む。止めようとしているのか、縋っているのか、自分でも何がしたいのかさっぱり分からない。ふかふかの毛皮や立派な三角の耳を強く引っ張ったかもしれないが、彼は気にも留めず、夢中になっての秘所に頭を埋めている。むしろ引っ掻くように指を動かすほど、いっそう興奮しているような気さえする。舐め啜る粘着いた音が、より大きく、の耳を嬲った。

 男女の秘め事は聞かされていたが……こんな、恥ずかしい事なのか。意気込んだ自身を張り倒したい。

「く、う……ッん……ッ」

 その時に聞こえたくぐもった声は、のものではない。
 じゅぷじゅぷと、はしたなく音を立てて喰らい付く、雪綱のものだ。

 黒柴の顔は、苦しげに歪められ、切なそうな鳴き声を荒れた呼気と共に漏らしている。ふと窺うと、の太股に置かれていた雪綱の手は、いつの間にか彼の下半身へと伸びていた。衣服をはだけさせ、乱暴にずらした下帯の上から、もどかしそうに膨張しているものを慰めている。

 私と同じように、雪綱さんも、苦しいのだろうか。


 ――それなら、おばさんたちがとっておきのを教えてあげようかね

 ――雪綱が……殿方が喜ぶ手法をね


 お松と弓月の言葉が、不意に脳裏を過ぎる。年上の綺麗な先輩達から教わった事に習おうと、はのっそりと身体を起こした。それに気付いたようで、雪綱も一度中断すると、顔を上げる。口元を拭いながら、どうしたのかと目で問いかけてきたが、それには答えずのそのそと彼のもとへ這い寄る。

……ッ?」

 驚いたように彼が身体を起こし、床の上に座ったのは、むしろちょうど良かった。その前に陣取り、今度はが彼の足の間にうずくまる。

「わ、私も……」
「は」
「と、殿方が喜ぶと……教わったから……」

 慌てる雪綱を無視して、手を伸ばし、はだけた衣服をぐいっと左右に払う。乱暴にずれた下帯へ指を伸ばし、震えながらも丁寧に解いたが――窮屈に閉じ込められていたものが、の目と鼻の先に、飛び上がるように現れた。

 え、え、あれ?
 男の人のって、こ、こんな風だったっけ……?

 記憶にあるのは、幼い頃、共に湯へ入った時に見た父親のもの。しかし、今正に目の前に立ち上がっているのは、まったくそれとは異なる姿形をしている。隆々と天井に上向く先端は、丸みはなく尖っており、露出した茎の根元にこぶのようなものが二つ連なっている。浅黒い肌色ではなく、鮮やかな真紅色をし、生々しい迫力を放っていた。
 あれに近い、というか、そのものなのだろう。道端で見かけた、犬のそれと同じ――。

……」

 困惑しきった低い声が頭の天辺に落ちてきて、は意識を戻す。僅かに怯んだ心を奥へ押し込むと、意を決し、そうっと指先を滑らせた。

「わ、びくってした……」
「ぐッ」
「えと、確か手のひらで……」

 恐る恐る、両手で湿った赤い強張りを包む。意外とずっしりとした重みがあり、硬めの弾力が感じられる。予想以上に温かく、手のひらの中で脈打っている。傷つけないよう、指と手のひらで柔らかく擦ると、殊更に大きく跳ねた。
 雪綱のものと思えば、気持ち悪さなどはまったく感じない。不思議な生物と対面したような心地で、少し楽しい。

「ッつ……」
「あ、痛かった、ですか」
「い、いや、そうではないが……」

 ふ、ふ、と浅い呼吸を、雪綱は繰り返す。泳ぎに泳ぐ彼の両目に首を傾けたが、すぐに思い至った。

「あ、そっか。な、舐めたら、いいんですよね? ふぅー……すぅー……」

 呼吸を整えいざ、と意気込んだところで、いよいよ雪綱の待ったが掛かった。彼は普段にはない慌て方で、の丸い肩を掴み制する。
 構わず決行出来ない、この力の差よ。
 少し恨めしく思いながら見上げると、忙しなく耳を跳ねさせる、困り顔の黒柴と眼差しがぶつかった。

「だ、誰に吹き込まれた。教わったなどと」
「えと、お松姐さんと、弓月姐さんから……」
「……あの二人か……」

 途端に、雪綱の表情が複雑そうに歪む。何かまずい事をしてしまったのかと、は不安に駆られる。

「雪綱さんも喜ぶって、言ってたから……。あの、いけなかった? やっぱり、私のがさつな手なんかじゃ、全然駄目?」

 雪綱の面持ちに浮かぶ困惑がさらに深まり、キュウウと変な鳴き声を鳴らした。

「そうじゃない、そうじゃないんだが……ただ、今されると、男として情けない事に……」
「?」
「いや、いいんだ。、十分だ」

 言いながら、雪綱はの肩を掴み起こし、うずくまった身体を再び横に寝かせる。

「でも、私も、雪綱さんに何かしてあげようって思って」

 不満げな声で呟くと、覆い被さった雪綱はふっと笑い、の頬に顔を寄せた。平べったい舌が、くすぐるように頬をなぞる。

「……では、今度、頼むとしよう。だから、今は」

 雪綱の指が、のお腹に触れる。

「今は――早く、ここへ入りたい」

 肌をなぞる獣の指先と、耳元に吹き込まれる声が、に許しを請う。ふわりと頬を染めながら、は小さく頷いた。

 雪綱はやおら身体を起こし、横たわった両足を抱える。舐め啜った秘所を再び解すと、足の間に身体をねじ込ませ、獣の剛直を擦り付ける。
 上下に滑る熱の塊に、一瞬、身構える。太股を抱える雪綱の指を、ぎゅっと握り、心許なさを埋める。



 雪綱の低い声が、小さく名を呼び――ぐっと、腰を押し込んだ。

 狭い路をこじ開けられてゆくような、痛烈な息苦しさ。内側から広げられ、触れる事のない場所へと深く沈む剛直に、は必死に耐えながらも声を引きつらせる。
 強張る身体を、ふかふかの手と平たい舌が優しく宥める。それに助けられながら、雪綱のものを受け入れてゆくと、やがてゆっくり進んでいた腰が止まった。

 熱くて、苦しくて、目の前が滲む。はくはくと吐息を喘がせるたび、じくりとするものが迸る。けれど、うっすらと見上げた先で、雪綱もまた広い肩を上下させ、堪えるように大きく息を吐き出している。それが、不思議と、嬉しかった。

「ゆきつな、さん」

 震える指を、黒柴の顔へ持ち上げる。ふわりと頬を撫で、三角の耳を折り曲げるように揉む。雪綱の喉から、クウンと掠れた鳴き声がこぼれた。彼は背中を倒すと、の胸へ上体を重ね、閉じ込めるようにの裸体を抱きすくめた。

……ッああ、ようやく」

 歓喜に溢れた声が、の耳元で響く。
 温かい毛皮を手繰り寄せ、ぎゅうっと彼に縋り付くと、雪綱は大きな身体を揺すった。動き出した腰は、最初は恐る恐ると窺うように秘所を出入りしたが、次第に速く、強く突き出される。その衝動に飲み込まれながら、は声を上げて雪綱の身体を強く抱く。
 やがて、耳元で聞こえる獣の呻き声が、くぐもった咆哮へと変わる。しゃにむに振り立てた欲望を、最奥を穿つように押し込むと、の中で熱く放った。


 張り詰めた身体が、ゆっくりと弛緩する。
 激しい熱でうねる空気に静けさが舞い戻るが、未だ引かずに残る余韻は、甘やかにを包んでいる。乱れた呼吸を繰り返すたび、身体は小さく跳ねた。

 折り重なった身体と、体内の深い場所へ埋まる雪綱のそれが、トクトクと鼓動を刻む。

 正直、律動を受け止めるのが精一杯で、何がどうなったのか曖昧だ。ただ、押し寄せる疲労感とやりきったという充足感に、の胸は満ち足りた心地が広がっていった。

 ああ、良かった。ようやく、雪綱さんと――。

 その時、雪綱の手のひらが、の額を撫でた。くったりとした首を上に向け、覆い被さる彼にあどけなく微笑む。柔らかい毛皮と、抱きすくめる雪綱の腕は温かく、安心感も相まってそのまま眠ってしまいそうだ――。

 と、思った瞬間。

 の身体はころんと転がされ、仰向けからうつ伏せへと体勢を変えられた。

「んえ……?」

 ぺたりと伏せたの中から、雪綱のものがずるりと抜け落ちる。しかし、その先端は再び秘所へあてがわれ――ぐちゅりと音を立て、奥へと押し込まれた。

「ひあッ!」

 飛び跳ねたの腰を、雪綱の手が掴み上げ、がっしりと抱えた。上半身を床へ倒し、下半身を突き出した恥ずかしい格好で、律動が始まる。最初から突き崩すような激しさに見舞われ、は髪を振り乱す。それこそ、本当に、獣のような――。

「すまない、あれでは……ッあれだけでは、治まらない」

 唸り声と共に吐き出された彼の声は、驚くほど獰猛だった。埋められたものも、あっという間に硬く滾り、内壁を押し広げている。の中に吐き出されたものは、外へと溢れ、互いの足を汚した。

「本当は、抜けないようにするんだが……いきなり“ここ”まで、入れるわけにもいかないしな」
「ん、あ、ぬけな……ッ? ふ、うッ」
「いや、何でもない。何でもないよ、

 律動を打ち付け、息を荒げる雪綱から、不意に自嘲する笑い声が聞こえる。

「あやかしなどと、大層に呼ばれても――我らの本性など、所詮、野山を生きる獣でしかない」

 劣情に逸る己を不甲斐ないとばかりに、彼はすまないと呟いた。それでも、彼の身体は、を求めて激しく振り立てられる。
 この人も、こんな風になるのか。普段の落ち着きをかなぐり捨てて、がむしゃらになるのか。
 困惑する一方で、嬉しくもあった。私のような小娘を求めてくれるという事が。そんな風になってくれるという事が。

 ふかふかの毛並み、表情豊かで可愛い、黒柴。けれどそれは外見だけで、本当は恐ろしい猟犬であり、狗という獣のあやかしであると、最初から知っていた。
 だから、粗雑に扱わず、蔑ろにせず、傷つけまいと接してくれる彼に心から惹かれた。今も彼は、無我夢中になりながら、けして鋭い牙を突き立てる真似はしない。首筋や耳たぶを何度も舐め、甘えるように食むばかりだ。

 ああ、このひとは、本当に。

「ゆきつな、さん」

 振り返ろうとするの顔に、彼の頭が近付く。視界一杯に広がった、欲望を剥き出す獣の顔。伸ばされた長い舌が、の唇をなぞり、割って入る。


 獣のようなまぐわいと口付けであっても、こんなにも嬉しくて愛おしいのなら。
 ――私はきっと、引き返せないほど、このお犬様に染まっている。



2018.05.04