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 近付いたハイエナの吐息は、思いもしない熱を孕んでいた。背中に触れた手のひらも熱く、衣服越しでありながらへはっきりと伝わった。
 黒い瞳が、ゆらゆら、光っている。
 ハイエナの眼差しに宿る昂りを見せられ、は一瞬怯んだ。

「あ、の、ザナ……ッひゃ!」

 黒い鼻が、首筋に押し込まれる。ざらざらした舌が、べろりと肌をなぞり上げた。
 群れの仲間同士で、労りや親愛を込めて互いを舐め合う事もあるが、それとはまるで違う。熱くて、ねっとりと這い、正しく肌を味わうようだった。
 困惑するを他所に、ザナの手は衣服を鷲掴みにする。わ、わ、と声を漏らすその間にも、服はどんどん持ち上がり、あっという間にから剥ぎ取ってしまった。麻のワンピースの下に着ているのは、薄い下着だけ。それを脱いでしまうと、はほぼ裸の恰好になってしまう。気温の高い荒野の国で、かさばるような衣服の着方はしないのだ。
 ザナの、ハイエナの眼差しが、正面から褐色の肌に熱く突き刺さる。まじまじと、見られている。露わになった肩や、胸元、腕、腹部、両足、全て。はたまらず、胸の前を自らの腕でそうっと隠す。ザナは、何も言わない。ただただ黙りこくり、熱い視線を、に浴びせている。テントの中に、いやに長い、奇妙な沈黙が流れ始めた。

 ……せめて何か言ってくれた方が、まだ安心する。

「ザナ、あの……」
「……ッあ、ああ、悪い。その」

 ハッと、意識を取り戻したように、ザナは呟いた。普段にはない、困惑した低い声だ。
 もしかして、変な身体だったのだろうか。身長はチビのままなのに、胸とお尻ばっかり大きくなってしまったから。
 悲しい想像をしてしまい、はしゅんっと項垂れる。しかし、やがて聞こえてきたザナの言葉は。

「……ちょっと、感動していた」
「……かんどう?」

 ぽかん、とは呆ける。すると、ザナの手がゆっくりと伸び、の褐色の肌に触れた。丸く細い肩に触れ、二の腕へと下りるその仕草は、槍を握る獣の手とは思えないほど殊更に優しく、そして何かを確かめるようだった。

「ここに来たばっかの時は、ガリガリのチビだったのにな。成長するもんだな」

 乾いた肉球を持つ手のひらは、幾度も、に触れる。肩から二の腕、背中、脇腹……今のを知ろうとするように、這っていった。
 次第に、確かめるようだったぎこちなさが、徐々に変わっていく。逃がさないよう、力強くの身体を引き寄せ、夢中になって弄っている。吐き出される息は熱く、獣の呻き声が微かに混ざり出していた。

「あ、ザナ、わ……ッん」
「嫌だって、言うなよ」
「い、いわ、言わない、言わない、けど……ッ」

 触れ方が、いつもと違う。優しいのだけど、力強くて、驚くほど熱い。
 ふわふわして、ぞくぞくして、心臓がもう跳ねてしまって、苦しい。
 けして、嫌ではない。嫌ではないが、の内の気恥ずかしさはとどまらず増すばかりだ。

 ――けれど、そうやって夢中になってくれるという事は、この身体を気に入ってくれたという事だろう。

 劣悪なスラムでの暮らしに、商家での下働きという名の奴隷暮らし……。幼い頃のいくつもの過酷な日々が影響したのか、の背丈はどうしても小さく、比較的小柄と言われているらしいハイエナ獣人の中ですら、群を抜いて小さい有様だった。ジルダを含む大人たちの献身により、骨と皮の痩せっぽちは、無事に荒野での暮らしが似合う逞しい女になれたのだが……身長にいって欲しかった成分の大半は、胸と尻に向かってしまった。そこばかりがむっちりとしてしまい、しなやかな体型の獣人たちを見るたびに実は密かに気にしていたのだが……ザナには、気に入ってもらえたらしい。彼の大きな手のひらは、のこぼれるような大きな膨らみを、何度も揉みしだいているのだから。

「――……気持ち悪く、ない?」

 それでも、心配になって訊ねてしまう。

「私は、みんなみたいに、耳も尻尾も毛皮も、なんにもないから」

 どうしたって、ハイエナ獣人ではないから――は、無意識に呟いていた。

「……
「……うん」
「お前は、俺達の群れの一員。そうだろ」
「うん」
「もう、それ、気にするな」
「……うん、そう、だね」

 本当に、そうだと思う。けれど、ザナだからこそ、気にしてしまうのだ。

「……やっぱり、好きなひとには、変って、思われたくない」

 ぽそり、とは呟きを落とす。途端に、ザナの動きがぴたりと止まった。次いで盛大な呻き声を漏らすと、テントの天井を仰いだ。

「……お前はよお……本当……」
「え……うそ、本当に変なところ、あった?」

 どうしよう、すぐに直せるものであった欲しい。
 がそわそわと身体を揺らすと、ザナの腕が再びを抱きすくめた。それはもう、力強く、がっしりと。

「ねえよ。まったく、ねえ」
「本当?」
「安心しろ――何処もかしこも、俺好みだ」

 背中から回り込むハイエナの手が、ぎゅ、と膨らみを揉み込む。頂を摘ままれ、の唇が声を震わす。

「んうッ」
「何処も美味そうで――全部、食ってやりたい」

 ザナの顔が、首筋へと埋まる。獣の舌が無防備なうなじを舐め、鋭い牙が何度も掠め、そのまま本当にがぶりと食べられてしまう空想が過ぎる。
 そんな僅かな恐怖を抱く一方で、心臓は激しく胸を打った。まさかあのザナの口から、そんな言葉が出るなんて思わなかった。首筋からじくじくと熱に蝕まれる感覚に、の肌はぞわぞわと粟立つ。
 その時、ふと、ザナが含み笑いをこぼした。

「……ああ、匂いが、また出てきた。人間は、分かりやすくて良いな」
「に、おい?」
「お前の、お前だけの、匂い」

 楽しげに呟きながら、ザナは鼻先をさらに深く首筋へ押し込む。

「匂いも、甘くなるんだな。体温も、吐き出した息も、いつもよりずっと熱い」
「な、なにそれ、知らない」
「言わなかった。けど、お前は知らなくてもいい。獣人の特権だ」
「言われたら気になるでしょ!」

 何だそれ、つまり何も言わずとも相手に筒抜けと、そういう事だろうか。
 匂いで互いを確かめ合うのは多くの獣人の習性だが、今ここで言われてしまうと羞恥心を炙られるだけである。
 思わずは腕を伸ばし、ザナの鼻先に手のひらを被せたが、ザナは愉快そうに笑いべろりと舐めていった。

「浮かれてんだよ、俺だって。大目に見ろ。あと、もっと、触らせろ」
「も、もう、触って……ふあッ」
「――足らねえ、全然、足らねえよ」

 熱を孕んだ低い声の、その獰猛さときたら。
 熱くて、危うくて、嫌われ者と誹られるハイエナの中にある獣の本性を、まざまざと見せつけられたようだった。
 そんな風に、見られるだなんて、想像もしなかった。
 ザナは、もしかしてずっと、そうだったのだろうか。が想うよりも強く、あるいは酷烈に、この焦げるような獣欲を、ずうっと抱いていた。あのぶっきらぼうな振る舞いの奥で、からかうように笑った仕草の向こう側で。

 ――気付かなかった。もっと早く、知りたかった。

 気付かなかった己も大概だが、そこまで隠そうとするザナもどうかと思う。互いが変な遠慮をするから余計に拗れてしまったのだと、は痛感した。

(ああ、でも、やっぱり――嬉しい)

 ハイエナの手に、舌に、熱く愛しまれながら、は蕩けるように微笑む。
 ザナの身体が、ぐっと、前へ倒れる。彼の腕に抱えられていたは、真新しい毛布の上に寝かせられる。衣服を剥ぎ取られ、露わになった豊満な胸元と柔い平らな腹が、仄かな明かりに照らされる。ザナの眼下に身体を晒し、無防備な獲物になったような気分だ。
 ゆらゆらと揺れる橙色の淡い明かりを背にし、影を帯びたハイエナが近付いてくる。真っ黒な毛皮に包まれる獣の手が、肌をなぞり――不意に、動きを止めた。

「……知ってはいたけど、獣人とは、やっぱ全然違うな。下手な事したら、そのまま壊れそうだ……」

 何処かしみじみと呟くザナは、本当にそう思っているのだろう。熱を帯びた獣の黒い瞳に、一瞬、困惑と躊躇いが滲んで見えた。
 ザナの手は、とても大きい。獣人の雄であり、また群れの狩人である彼には、など小鳥のようなもので、本気になろうとなかろうと太刀打ちなど出来ない。
 獣人と人間の違い。それは、今後も覆らない事実だろう。
 だからは、ザナの手を取った。本当に触れていいものかと迷うハイエナの指を、躊躇う事なく自らの胸へ押し付ける。

「大丈夫、私は、何も怖くない」

「それに、弱くない、よ」

 でなければ、そもそもスラムでなど生きられなかったし、獣人だらけの群れで荒野暮らしなど続けられない。

「……そう、だな。ああ、そうだ」
「うん、そう。続けて、大丈夫」
「ああ」
「……あ、でも」

 勇んで告げた声が、途端に小さくなった。

「弱くないけど……や、優しく、触って、ね」

 初心者ゆえの恐怖と緊張。恥じらい混じりの、精一杯の嘆願だった。
 しかしそれは、逆にザナを炊き付けてしまったらしい。

「……ああ、そうする。傷なんかつけないように、全部、触る」

 一瞬静けさを帯びた獣の瞳に、再びあの焼け爛れるような熱が浮かび上がった。
 ザナの手が、横たえたの小さな膝を掴む。は身体を跳ねさせ僅かに力を入れたが、ザナに対しては意味を持たず、気にした様子もなく膝を左右に割り開いてしまった。

「ひゃあ!」
「脱がすぞ」
「ひえ……ッあ、の、まっ……」

 が何か言う前に、ハイエナの指が下着に掛かり、ぐいっと引き上げてしまう。脱がすというより、引き千切るような勢いだ。瞬く間にから取り除かれ、褐色の肌色をした裸体が明かりのもとに晒される。

「う、ザナ……ッ」

 薄暗いテントの中に、欲に塗れたハイエナの眼光が浮かび上がっている。ぎらぎらと揺れるその眼差しは、の頭の天辺から爪先にまで降り注いだ。緊張で、頬の熱が増す。仰向けになった身体が、ひくりと戦慄く。

「……ちっせえなあ、ここ」

 左右に割り開き、露わになるの秘所を、ザナの黒い瞳が見つめている。がぎゅっと肩を竦めていると――ひたりと、何かがそこに触れた。ザナの指だ。そうっと触れた太い指先は、ふにふにと割れ目を押している。次第に息づかいが荒く乱れ、触れるだけだった指は、奥に潜むぬかるんだ小さな入口をくちくちと弄り始めた。

「ん、んん……ッ」
、なあ、口塞ぐな」
「ふ、ぅぅ……ッや、あ……ッ」
「聞かせろ。ずっと、聞きたかったんだ」

 そんな事を、言われても。
 は懸命に、手の甲で口を押さえる。今離してしまったら、みっともない恥ずかしい声が出てしまう。
 そう思っていると、ハイエナの頭が、がばりとの下半身に埋まった。ぎょっとなるのも束の間、平らな腹部を短いたてがみが掠め、腰が浮くほどに足を掴まれる。

「ッきゃ、う……!」

 ぴちゃりと、粘着いた音が鳴り響く。ザナの舌が、の秘所を舐め啜った音だった。
 熱い息づかいと共に、下から上へ、長い舌が何度も往復する。まさかいきなり、そのようなところを舐められるとは。混乱と衝撃が、一緒くたになりへ襲い掛かる。
 それなのに、お腹の奥深くが疼くような、痺れるような、言い表せないこの甘やかな感覚は、何なのか。
 ぐちゅぐちゅと粘着いた音に耳を嬲られながら、薄く瞼を開け恐々と盗み見る。下半身に覆い被さり、食らいつく、貪欲なハイエナの姿がすぐさま飛び込んだ。
 ドクリ、との心臓が音を立てる。
 夢中になり、熱に浮かされ、細い身体にむしゃぶりつく様は本当に野生の獣のよう。これはもういよいよ食べられるのではないかと思うほどだったが……嫌では、ない。むしろ、嬉しいような、奇妙な温かさを抱いた。あのザナが、こんな風に愛しんでくれるなんて。

「は、ふ……ッんん、ザナ……ッ」

 ひくり、ひくり、と身体を跳ねさせながら、は自らの下腹部に埋まるハイエナの頭に手を伸ばす。短いたてがみとまだら模様の毛皮をかき混ぜるように撫でれば、ザナは顔を起こしを見た。興奮し、獰猛に昂った獣の瞳が、ゆらゆらと揺れている。濡れそぼった口元から糸を引く様に、更なる羞恥心に見舞われたが、はそれをぐっとこらえ言葉を掛けた。

「ザナ、あの」
「……何だ。止めろとか言うなよ」

 耳を傾ける姿勢はあったが、声は低く、息も荒い。しゃぶりたそうな表情を、隠しもしない。の太ももを抱える手も、先を強請り、さわさわと撫で擦っていた。

「ん……ッあの、あの、ね」
「早く言え。我慢出来なくなる」

 本当にようやっと我慢しているような、あまりにも余裕のない響きだった。はやや気圧されながらも、必死に言葉を紡ぐ。

「う……ッ。あの、その――わ、私も、する……!」
「ああ……は?」

 何度も躊躇い、意を決して言葉を押し出すと同時に、は身体を起こした。ザナはというと、それまでの熱を忘れたように、素っ頓狂な声を漏らし黒い目を真ん丸に見開いていた。
 は勢いが失われない内に、ザナの胸を押し、後ろへ寝転ぶよう促す。

「おい、?」
「私も……する、の!」

 ザナが、してくれるように。
 私も、ザナに、してあげたい。

 脳裏に過ぎるのは、数日前の出来事。自慢の姉ジルダと、群れの女たちが開いた、夜の勉強会。彼女たちから耳に流し込まれた……もとい、教わったその成果――披露するのは今しかない。

「お、おい、、何を」

 狼狽する声が、頭上で聞こえる。けれど、制止するような素振りは一切ない。が何をしようとしているのか、ザナもうっすらと理解しているのだろう。困惑する手は宙をさまよっているが、後ろに見える細い尻尾は激しく揺れている。今までも見た事のない動きをしてはいるが、感情は駄々洩れだ。強面な風貌のハイエナであっても、そういうところは獣人らしく、大変分かりやすくて助かる。
 に押されるがまま、ザナは身体を後ろに倒し、仰向けになる。は毛むくじゃらの両足を跨ぎ、身を乗り出し、彼が纏う簡素な衣服を握り締める。そのまま引き摺り下ろすように脱がした、直後――の目と鼻の先で、硬く隆起した剛直が、びんっと立ち上がった。

(う、うわ……ッこ、こんな風に、なるものだったんだ……)

 やはりそこも本質は獣らしく、人間のものとは形状が違い、細長いような印象を受ける。肌色がかった赤い色をし、意外にも不気味な生々しさは無かったが……苦しそうに張り詰める様には、僅かに怯んだ。

(でも……良かった)

 牙も毛皮も無い人間の女でも、こんな風になってくれている。ザナも同じように求めてくれているのだと、安堵した。
 はそうっと手を伸ばし、手のひらで包み込む。びくりと飛び跳ねた振動が伝わってきた。悪戯につついてみれば、それに合わせびくびくと震える。従順な反応に少し楽しくなってしまいながら、慎重に指を這わせる。ぬるりと滑る感触にドキリとしながらも、乱暴にしてしまわないよう、優しく上下に撫で擦る。途端に、ザナの屈強な身体が強張った。

「ッぐ……」
「い、いたい……?」
「ッいや、そういうわけ、じゃ……」

 珍しくしどろもどろな様子を見せているが、表情を窺う限り、嫌悪の感情は見当たらない。
 良かった、とは微笑み、次の工程へ進む。身体を倒し、ザナの下腹部にぴったりと折り重なると、小さな身体には不釣り合いな二つの大きな膨らみをぐいっと寄せる。真っ直ぐと屹立している剛直を、そのまますっぽりと挟み込んだ。

「お、おい……ッ」
「わ、私は、胸が大きいから、こうすると、いいって」

 ……とはいえ、やってから気付いた。
 これは、物凄く恥ずかしい!
 胸の間に挟み込んだザナのそれは、ドクンドクンと脈打っている。今にも破裂してしまいそうな危うさが、膨らみを通し伝わってくる。
 大丈夫、なら出来る。気合いだ!――勉強会のジルダの激励が何処からか聞こえる。
 彼女たちに教わった通りの事が出来るかどうか自信はないが、ザナのためにとは再び意気込む。両手でしっかりと膨らみを押さえ、ザナのものが逃げてしまわないよう包むと、上半身を揺すりながら剛直を撫で擦った。

「ッは……」

 それまでとは異なる息づかいが、ハイエナの口から漏れ始める。甘く、熱に染まった、酷くいやらしい響きがこぼれ落ちている。耐えるように歯を食いしばっているが、ザナの胸と肩は大きく上下していた。毛皮に覆われた腹部も戦慄いており、その振動は腹這いに伏せたにも確かに伝わってくる。
 これは、気持ちが良いのだろうか。それとも……。

「ザナ」

 呼び掛けると、黒い瞳がを映す。とろりと蕩けたような、惚けた仕草だった。

「上手く、出来てなかったら、教えて……? どうしたら、き、気持ちいいのか」
「ッく、ぁ……」
「ちゃんと、するから」

 だって私は、貴方のつがいなんだもの――そう告げた瞬間、ザナは喉を唸らせ、毛むくじゃらの足をびくりと跳ねさせた。
 柔らかい二つの膨らみでぴったりと包んだものが、ぶるぶると脈打つ。あ、と声を漏らし見下ろした時、ザナは凄まじい勢いで身体を起こし、の肩を掴んだ。あっさり力に負けしまい、胸の間から硬い感触が抜け落ちてしまった。

「あ……ザナ……?」

 尋常ではない様子で、肩を激しく上下させ、荒々しく息を吐き出している。

「ッこの場面で、つがいとか言うなよ……一瞬で飛ぶかと思ったぞ……」
「え、う……だめ、だった……? もっと、がんばる」
「いいや――ありがとうよ。十分だ」

 獰猛な笑みと共に、ハイエナの顔が近付く。べろりと頬を舐められ、再びは毛布の上に寝かせられる。

「ただ、外には出したくはねえ。お前ん中に全部出すって、ずっと、決めてた」
「あ……」

 開いた両足が抱えられ、ザナの腰が割り込む。ひたりと触れた強直の先端は、強請るようにの秘所を上下になぞった。

「……挿れるぞ」

 低い囁きと共に、あてがわれた硬い先端が、小さな入口を押し開こうとする。熱く、そして怯むほどに張り詰めた感触。たまらずはザナの腕を強く掴んだ。
 ゆっくりと、狭い入口が広がる。じわじわと広がる、熱とも痛みとも付かぬ感覚。震え、捩れるの身体は引き寄せられ――ザナの腰が、深く押し込まれた。
 全身へ痛烈に響く、ザナの存在感。獣の杭はあまりにも大きくて、狭い洞を強引にこじ開けられたようだった。は細い背を反らし、魚のようにはくはくと不格好な呼吸を繰り返す。甘やかな熱も、疼きも、全て未知の痛みで塗り潰されてしまう。

、おいッ」

 ザナの、らしくもなく慌てた声がへ届く。何だか、少し遠くで響いているような。大丈夫と告げようとしたのだが、掠れた呻き声しか出なかった。

「い、う、う……ッ!」

 震える身体を、ザナの手が必死に撫でている。知らず内に滲んだ涙を、舌先が掬い取っていく。少しでも気を紛らわせようとしているのだろう。薄く瞼を押し上げ、焦燥に駆られるザナを視界に映す。慌てた様子が何だか可笑しくて、つい笑ってしまったが、痛みで引き攣ってしまった。
 は、ゆっくりと腕を持ち上げる。ハイエナの顔を包み込み、弱々しく引き寄せた。

「ほら、ちゃんと、できた……ッ」

「私、だって、できるの……ッ」

 牙も爪も毛皮も無い人間だって、受け入れる事が出来る。
 そしてその痛みをもって、ようやくザナと同じ存在になれたような、不思議な安堵も覚えた。

 ――それに、なんと、幸福な事か。

 荒野の真ん中に捨てられる前、ろくな目に遭わなかった。だが、男に悪戯をされたり、穢されて処女を奪われたりするような事態にならなかったのは、数少ない幸運だろう。
 こうして今、自分が唯一持つまっさらなものを、好きな人に捧げられたのだから。
 ザナの熱と存在で、内側から苦しいほどに満たされている。他の余分なものが入る隙間がないほどに、奥深くまで満たされる事が、ただただは嬉しかった。

「……無邪気に喜びやがって。馬鹿だなあ、お前は」

 乾いた肉球が、脂汗の伝う頬を撫でる。

「俺らは見た目通りの獣人だってのに。お前だってもう、俺らと同じように見られるんだぞ」

 意地汚い。狡猾。卑怯者。荒野の掃除屋。あらゆる侮蔑を含んだ呼び名を付けられ、理不尽な眼差しを受け、まるで悪者のような扱い。
 それを、これからはも受けるようになる。むしろ、願ってもない事だ。彼らの中に受け入れられた、その最たる証のようなものではないか。

「いっしょで、うれしい」

 ずっと欲しかったのは、正に、それだったのかもしれない――。

 がふわりと微笑むと、ザナの瞳が見開き、感極まったように震える。そして次の瞬間、の身体は突き上げられた。
 ザナは、感極まったように目を見開かせると、次の瞬間、を突き上げた。

「い、あ……ッ?!」

 じんじんと響く鈍痛は、再び鮮やかな激痛となって全身に駆け巡る。背中が反り、喉が上擦った。
 仰け反るの身体を、ザナの腕が捕らえる。労りと、強引さが、ぐちゃぐちゃに混ざったような性急な仕草。それでも離すまいと、獣の手はすべらかな褐色の裸体を必死に引き寄せている。

「もう、俺だけのものだ。絶対に、他の雄どもにはやらねえ」

 しなやかな腰が揺れ、埋められた強直が浅く、深く、何度も狭い洞を出入りする。ずんっと重く突き上げられる振動で、視界は揺れ続け、乱れた声が唇からみっともなく漏れてしまう。

「絶対にもう、誰のところにも、やらねえからな」
「あ、あ、あッ」
……ッふ、く」

 甘やかな囁きとは程遠い。焼けるような劣情が、鼓膜を嬲ってくる。
 ふと、ザナの顔が、の首筋へと寄った。鼻先を埋め、舌を伸ばし、そして――口を開き、首筋を食んだ。
 食い千切るような強さは無い。けれど、肉どころか骨の髄まで食らい尽くす顎は強靭で、牙も太く、の首はきっと簡単に折れてしまうだろう。少しの恐怖を感じながらも、心臓はドキリと飛び跳ねる。牙で押さえつけられ、同じ獣になったような心地だ。
 拒む事無くザナの牙を受け入れ、短い毛皮を撫でる。やがて彼の息づかいが熱く乱れ、突き上げる律動が激しさを帯びる。追い立てられるようなその昂りをにも伝えながら――掠れた咆哮と共に、欲望が放たれる。
 自身を深く埋め、余すことなく最奥に注ぎ込む熱。奔流のように、トクトクと、ハイエナの精が胎内へ満ちていく。全て白く染まってしまうような、ぞくぞくするほどの幸福感をは覚えた。

 一瞬、訪れた静けさ。獣の息づかいが響き渡るテントには、生温い余韻が漂う。

「は、あ……ザナ……」

 重い腕をどうにか伸ばし、震える指でまだら模様の毛皮をゆっくりと撫でる。ザナの伏せていた顔が緩慢に起き上がり――そして、の身体は再び、がしりと掴まれた。

「う……?」

 仰向けの身体がぐるりと反転し、今度は四つん這いの恰好になる。腰の括れを持ち上げられるように掴まれた直後――ずぐん、と重く穿たれる衝撃が迸った。

「ひあ……?!」

 肘が折れ、上半身が倒れる。すかさずザナの大きな手が胸に回り、柔かい膨らみごと抱き込んで、律動を始めた。

「や、ちょ……ッ! あ、ん、ザナ……?!」
「グ、ゥゥゥ……ッ」

 言葉は、返ってこない。唸り声ばかりが、の耳をついた。言葉を話す余裕すら無くなるほど、獣の本性へ引き寄せられているらしい。

「もっと、匂いを、つけないと」
「ザ、ナ……ッあ、あ!」
「俺だけの匂いが、するように、もっと」

 ハッ、ハッ、と吐息をこぼし、後ろから覆い被さり腰を振り立てる様は、誇り高い狩人ではない。本当に、野で生きる獣のよう。理性など無く、生々しい本能でをがむしゃらに求めている。
 あのザナが、ここまで。
 甘い苦しさに、眩暈がする。身体の全てを、奪われてしまいそうだった。

 ――ザナは、宣言した。遠慮はしない、もう我慢はしない、と。
 この群れで過ごす平穏な日々で、ザナは良い兄のように振る舞っていて、そしてそれをは何の違和感もなしに見つめてきた。それが今は、四つ足で生きる野生の獣のようになってしまっている。これが、彼の本心であり、獣人の本性だというのだろうか。
 よく、ずっと、おくびにも出さず隠し通してきたものだ。気付かなかったも大概だが……それも、彼はもう止めるのだろう。

 ああ、きっと、壊れそうになるくらい、ザナは求めるのだろうな。
 荒野の獣らしく、ハイエナという獣人らしく、荒々しいまでに。


 ――ハイエナの雄は、基本的に、雌には逆らわない。


 群れの女たちの集いの中で、ジルダは言った。


 ――雌の方が、身体も大きく、力もある。祖先から続いている、血に刻まれた本能だ。だから、もしも本当に止めてもらいたい事があったら、迷わずにそう言うといい。雄は、絶対に、逆らわない。


 小柄で非力なに対する、ささやかな助言だ。力ではどうしたって敵わないの、最後の切り札のようなものである。
 だから、制止の言葉は、掛けない。
 が言えば、きっとザナは止めてくれるだろう。そういう雄なのだ、彼は。けれどあのザナが、子どものように幾度も「止めるな」「嫌だと言うな」と口にした。懇願していたのだ。どうか止めず許していてくれ、と。
 言えるはずが、ない。
 それに……もっと、聞きたいと思っているのは、でもあるのだ。

「だいじょうぶ、嫌じゃない、よ」
「あ、ア……ッ」
「ね、ザナ、好きなように、してね――」

 もっと、甘えてみて欲しい。みっともなく、必死に縋って欲しい。
 爪も牙もない、弱くて、小さくて、どう足掻いても獣人にはなれない、人間の小娘に。

 溺れるような獣の愛情と欲望を浴びながら、は蕩けた笑みをこぼした。




 ――その夜、は懐かしい夢を見た。
 ハイエナ獣人の群れの中で、どうしたら良いのか分からずうろたえるばかりだった小さなを、ザナは手を引き外へ連れ出した。群れから少し離れたところにある、乾いた土地で美しく咲く荒野の野花の園をへ見せた。うんともすんとも言わず、笑いもしなかったは、その時初めて頬を緩めた。

「――おまえ、そうやってわらうと、お花のお姫さまみたいだよ」

 今よりもずっと小さく、ちょっとすっとぼけた顔立ちをしたハイエナの少年は、そう呟いていた。
 懐かしい、大切な記憶。どうして、忘れていたのだろう。
 あの時、ザナがそうやって褒めてくれた事が嬉しかったから、ハイエナ獣人に……彼に相応しい強い女になりたいと願ったのだ。


2021.09.04